参考1-1
<戦略創造プログラム>

研究領域の概要、研究総括の募集・選考にあたっての考え方

戦略目標「がんやウィルス感染症に対して有効な革新的医薬品開発の実現のための糖鎖機能の解明と利用技術の確立」の下の研究領域
(1) 「糖鎖の生物機能の解明と利用技術」
研究総括:谷口 直之(大阪大学大学院 医学系研究科 教授)
研究領域の概要
 本研究領域は、糖タンパク質、糖脂質、プロテオグリカンといった生体分子群の有する糖鎖の新たな生物機能を解明し、その利用技術を探索するための研究を対象とするものです。
 具体的には、脳神経機能、形態形成、分化における糖鎖の役割と制御のメカニズム等の新しい機能の解明や応用の可能性を開拓する研究、糖鎖の改変によるガンの浸潤転移の制御や感染防止、免疫機能制御の手法探索等の診断、治療、予防への応用を指向する研究、あるいは、糖鎖研究に広く用いられることが期待される糖鎖の超微量解析技術、情報伝達のダイナミックな状況を可視化する技術の実現を目指す研究等が含まれます。

研究総括の募集・選考に当たっての考え方
 ヒトのゲノム構造がほぼ明らかになり、いわゆるポストゲノム研究が21世紀のライフサイエンスの中心的課題のひとつです。そのなかでも糖鎖による修飾反応はタンパク質が作られてからおこるため、タンパク質の機能や構造に大きな影響をあたえることがわかってきました。また、糖鎖はタンパク質や脂質に結合して細胞間の認識や相互作用を変えるため、癌、慢性疾患、感染症、免疫、脳、発生、再生などの異常、老化などに強くかかわっています。本領域では、糖タンパク質、糖脂質、プロテオグリカンなどの分子群の中で、特定の糖鎖の生体内標的分子を同定するとともに、糖鎖による標的分子の機能変化を解析し、糖鎖の新たな機能の解明を目指します。そのためには糖鎖超微量分析技術や情報伝達のダイナミックな変化を可視化する技術の開発も重要であり、これらの技術開発の基礎的研究とともにがんその他の生活習慣病、感染症などの医薬品開発につながる基礎的研究などが本研究領域の対象となります。糖鎖生物学の他の領域との融合的な研究も歓迎いたします。とくに欧米追従型の研究ではなく、国際的にリードする独創的な研究の提案を歓迎します。
戦略目標「個人の遺伝情報に基づく副作用のないテーラーメイド医療実現のためのゲノム情報活用基盤技術の確立」の下の研究領域
(2) 「テーラーメイド医療を目指したゲノム情報活用基盤技術」
研究総括:笹月 健彦(国立国際医療センター研究所 所長/九州大学生体防御医学研究所 教授)
研究領域の概要
 本研究領域は、ゲノム情報を活用した創薬、個々人の体質に合った疾病の予防と治療-テーラーメイド医療-の実現に向けて、新たなゲノム情報解析システムの創製を目指した研究や多因子疾患の解明と創薬をはじめとした革新的な治療・予防法の基盤となる技術等を対象とします。
 具体的には、遺伝力の強い疾病や感染症に対する感受性や抵抗性のゲノム情報からの解明と創薬、我が国に特徴的な生活習慣病の遺伝・環境要因の探索とゲノム情報に基づいた予防法の開発、さらにゲノム情報に基づく薬剤感受性(有効性と副作用)の個人差を迅速かつ確実に解明することを目指す技術に関する研究、およびそれらの基盤となる新たな高効率ゲノム情報(SNPs)解析技術の実現を目指した研究等が含まれます。

研究総括の募集・選考に当たっての考え方
 20世紀が集団を対象としたマス医療であったのに対し、21世紀はゲノム情報に基づいて個人を対象としたテーラーメイド医療を実現すべき世紀である。これを可能とするためには、各疾病の発現に重要な役割を演ずる遺伝要因と環境要因の相互作用による病因の解明、およびそれに立脚した創薬をはじめとする新しい治療および予防戦略の開発、そしてこれらを含む種々の治療・予防戦略に対する効果発現と副作用発現の個人差の解明などが重要となる。
 本研究領域では、
(1) 遺伝力の強い疾病や感染症などのゲノム解析による疾患遺伝子の同定とそれを基盤とした創薬
(2) 既存のコホート研究にゲノム解析を付加した生活習慣病の遺伝と環境要因の同定およびそれを基盤とした疾病予防・治療戦略の開発
(3) 大きな患者集団を対象とした、各種治療に対する反応性(有効性よび副作用)の個人差のゲノム解析
および、これら研究をより効率的に推進するための
(4) ゲノムマーカーのスタンダード整備
(5) 我が国発の斬新で、高速かつ安価なゲノム情報解析システム実用化の基盤技術開発
などを目指す研究を中心とした、創意工夫とチャレンジ精神に富んだ、そして磐石の準備を整えた研究課題を期待したい。
戦略目標「医療・情報産業における原子・分子レベルの現象に基づく精密製品設計・高度治療実現のための次世代統合シミュレーション技術の確立」の下の研究領域
(3) 「シミュレーション技術の革新と実用化基盤の構築」
研究総括:土居 範久(慶應義塾大学理工学部情報工学科 教授)
研究領域の概要
 この研究領域は、計算機科学と計算科学が連携することにより、シミュレーション技術を革新し、信頼性や使い易さも視野に入れて、実用化の基盤を築く研究を対象とするものです。
 具体的には、物質、材料、生体などのミクロからマクロに至るさまざまな現象をシームレスに扱える新たなシミュレーション技術、分散したデータベースやソフトウェアをシステム化する技術、また、計算手法の飛躍的な発展の源となる革新的なアルゴリズムの研究や、基本ソフト、情報資源を取り扱いやすくするためのプラットフォームあるいは分野を越えて共通に利用できる標準パッケージの開発などが含まれます。

研究総括の募集・選考に当たっての考え方
 シミュレーション技術は、従来の理論・実験とは異なる新しい研究手法を実現し、科学技術のブレークスルー、国際競争力の強化に資する基盤技術として、その重要性が高まっています。現在のシミュレーション技術は、計算科学として各研究分野において研究および実用化が進められていますが、さらなる発展をするためには計算機科学や数学、特段、計算機科学分野の研究者との連携が求められています。計算機科学分野の研究者との連携を図ることにより、シミュレーションや可視化のための新しいアルゴリズムの開発、高機能・高性能でしかも信頼性や安全性の高いシステムの開発が期待できます。
 この研究領域では、10年程度後に医療分野における高度治療や情報産業における精密製品設計等の「ものづくり」に役立つ次世代統合シミュレーション技術を確立するという戦略目標の達成に向けて貢献できる基盤整備として必要となる、基礎的・共通的な実用化の基盤を構築する研究を対象とします。
 具体的には、ミクロからマクロに至るさまざまな現象をシームレスに扱える新たなシミュレーション技術、分散したデータベースやソフトウェアをシステム化する技術、また、計算手法の飛躍的な発展の源となる革新的なアルゴリズムの研究や、基本ソフト、情報資源を取り扱いやすくするためのプラットフォームあるいは分野を越えて共通に利用できる標準パッケージの開発などが含まれます。また、アルゴリズム等の研究では、個人の独創的な発想にも期待します。
 特に、計算科学分野の研究者と計算機科学分野の研究者とが協同して進める研究提案で、個別研究領域では採れない分野横断的な共通基盤に寄与する研究開発を含むシミュレーション技術の革新と実用化基盤の構築に係る広い範囲での研究提案を期待します。
 なお、成果ソフトウェア等は一般に公開することを前提とします。従って、開発するソフトウェアが権利上問題のないモジュールで構成されるよう、既存のソフトウェアとモジュール単位で完全に切り分けられる必要があります。また,プログラム提出後に事業団のソフトウェアライブラリへの搭載にあたっての作業に協力をお願いすることがあります。
戦略目標「情報処理・通信における集積・機能限界の克服実現のためのナノデバイス・材料・システムの創製」の下の研究領域
(4) 「超高速・超省電力高性能ナノデバイス・システムの創製」
研究総括:榊 裕之(東京大学生産技術研究所 教授)
研究領域の概要
 この研究領域は、従来のデバイス・システムに対して、ナノスケールの超微細構造形成技術や革新的ナノプロセス、および超集積化技術を活用することにより、これまでの情報処理や通信システムの性能を飛躍的に高めるデバイス・システムの創製に係わる研究を対象とするものです。
 具体的には、情報伝達の超高速化や広帯域化と超省電力化に向けた新規デバイスの構造・材料に係わる研究、極微デバイスが直面する限界に挑戦する革新的なナノ素材やナノプロセスの研究、極微デバイスにおける物理機構の解明と制御に係わる研究、超微細構造の活用により従来の光デバイスの性能を凌駕する新しいナノ構造フォトニクスデバイスの創製に係わる研究、および、これらの関連研究等が含まれます。

研究総括の募集・選考に当たっての考え方
 この研究領域では、これまで情報・通信技術を大きく前進させてきた従来のデバイス・システムに対して、革新的ナノ構造やナノプロセス、ならびに超集積化技術を活用することにより、情報通信用のナノデバイス・システムの性能と機能を飛躍的に高めたり、ナノデバイスの作り易さや使い易さを抜本的に改善するための研究提案を期待します。
 このため、革新的なナノ素材やナノプロセスの活用によって極微デバイスの限界を破る研究、極微デバイスを支配する物理機構を解明し新しい制御法を開発活用する研究、情報通信用のデバイス・システムの超高速化や超省電力化のための新規ナノ材料やナノ構造の研究、飛躍的機能を持つ新しいナノ構造フォトニクスデバイスなどの研究が進むことを期待しています。
 従来技術の延長ではない、新しい発想に基づく画期的な研究であり、将来の実用化に結びつく提案を期待します。

(5) 「新しい物理現象や動作原理に基づくナノデバイス・システムの創製」
研究総括:梶村 皓二((財)機械振興協会 副会長・技術研究所 所長)
研究領域の概要
 この研究領域は、量子系の新しい物理現象や動作原理、および、それを用いて新しいデバイス・システム等を実現するための研究を対象とするものです。
 具体的には、ナノスケールにおいてはじめて現われる電子系やスピン系の物理的特性を応用して演算、記憶等のアクティブな情報処理機能をもつ新しいデバイスの実現、ナノスケールの局所的特性を対象として電気、機械、光等の物理的手法や動作原理を用いてセンシング、操作、制御等を行うデバイスや新たな情報処理システムの創製を目指す研究等が含まれます。また、既存技術の限界を打破する新しい技術領域の創出に発展する新しい物理現象の発現のためのナノデバイスに係わる構造研究、現在まだ対象とするものの性質の研究にとどまっている現象をデバイスに結びつける研究等も含まれます。

研究総括の募集・選考に当たっての考え方
 「新しい物理現象や動作原理に基づくナノデバイス・システムへの挑戦を」
 この研究領域は、量子系の新しい物理現象や動作原理、および、ナノスケールにおいてはじめて現われる電子系やスピン系の物理的特性を制御して情報処理に資する演算、記憶等のアクティブな機能をもつ新しいデバイスやシステムの実現を目指す研究等を対象とします。
 既存技術の限界を打破する新しい技術コンセプトに発展する新しい物理現象の発現のためのナノ構造体の構築など、斬新なコンセプトに基づいた、分野開拓型の研究の提案および基盤的波及効果が期待出来る研究の提案を、新規性、独自性に加えてその実現に必要なプロセスや計測などの周辺技術や同時に満足させなければならない動作条件との関係などについても、綿密に考察された提案を期待します。

(6) 「高度情報処理・通信の実現に向けたナノファクトリーとプロセス観測」
研究総括:蒲生 健次(大阪大学大学院基礎工学研究科 教授)
研究領域の概要
 この研究領域は、高度情報処理・通信に資するナノデバイス等の実現に向けた新しいプロセシング技術、ナノ構造体の機能を観察・計測・評価する新しい計測評価技術等に係わる研究を対象とするものです。
 具体的には、新たなプロセシング技術の確立に向けた、ナノ構造を作り出す光・X線・電子ビーム・イオンビーム等の新たな活用に係わる研究、分子・原子を制御することにより結晶・組織等をナノレベルで形成する技術に係わる研究、および、構築されたナノ構造体の機能を計測・評価、検証する技術に係わる研究等が含まれます。なお、本研究領域は戦略目標「非侵襲性医療システムの実現のためのナノバイオテクノロジーを活用した機能性材料・システムの創製」および「環境負荷を最大限に低減する環境保全・エネルギー高度利用の実現のためのナノ材料・システムの創製」にも資するものとなります。

研究総括の募集・選考に当たっての考え方
 高度情報化社会の進展に向けて電子デバイスの微細化、高密度集積化への要求は止まるところがありません。半導体デバイスにおいては、数10 nm領域のデバイスの実現が要求され、さらに、量子ドット・単電子素子、固体量子ビット素子などの新しいナノデバイスの実現が必要とされています。このようなナノデバイスのためには、ナノメートル構造を実現する高精度の微細加工技術、ナノ領域の物性制御およびナノ構造の形状観測、機能の評価技術の開発が不可欠です。
 この研究領域では、X線、電子ビームやイオンビームなどによって誘起される物理的、化学的現象を駆使した新しい微細低損傷加工、クリーン加工技術だけでなく、走査プローブ技術、インプリント技術や自己形成プロセスなどの新しいナノ加工プロセスを用いて、加工精度、スループット、コストなどにブレークスルーをもたらす提案を期待します。また、ナノ構造の三次元形状の計測・評価および電気的、光学的物性、機能の計測・評価技術も同時に重要な課題です。さらに、このような加工技術、評価技術は要素技術として広い分野に望まれています。ナノデバイスプロセスのみでなく、ナノバイオテクノロジーやナノ材料プロセスへの展開を視野に入れた提案も望んでいます。

(7) 「高度情報処理・通信の実現に向けたナノ構造体材料の制御と利用」
研究総括:福山 秀敏(東京大学物性研究所 所長、教授)
研究領域の概要
 この研究領域は、バルクとは異なるナノ構造体において、微細な構造・組織等を制御することにより、高度情報処理・通信の実現に向けたこれまでにない特徴的な物性・高機能・新機能を有する材料等の創製や、その利用を図る研究を対象とするものです。
 具体的には、既にバルクとして存在している物質の「ナノ化」、すなわち薄膜・微粒子等の極微細構造はもちろん、ナノ粒子やクラスター原子・分子、分子性物質等、無機物質・有機物質さらにそのハイブリッド系を制御し、これまでにない機能・物性等を有する革新的新材料の創製を目指す研究、フラーレン・カーボンナノチューブ等の新機能性材料の創製やナノデバイス・システムへの利用を目指す研究等が対象となります。なお、本研究領域は戦略目標「非侵襲性医療システムの実現のためのナノバイオテクノロジーを活用した機能性材料・システムの創製」および「環境負荷を最大限に低減する環境保全・エネルギー高度利用の実現のためのナノ材料・システムの創製」にも資するものとなります。

研究総括の募集・選考に当たっての考え方
 情報処理・通信の基盤は物質の持つ機能によって支えられています。そのような物質のナノ化は情報処理・通信の高度化にとって必然です。この「ナノ化」には、2つの方向があります。一つは、既にバルクとして存在が知られている物質を微小化・微細化する方向であり、一方はナノ構造体としてしか存在しない物質系の発見あるいは安定化です。このようなナノ構造体が示す機能は電子状態によって規定されており、従って、ナノ物質に対する真のねらいは新しい電子状態の探索にあります。
 このような観点から、本研究領域には、半導体・金属(半金属)・酸化物等バルクにも存在する物質の制御されたナノ化を行い、それに伴う新しい物性(たとえば、バルク金属・半金属の絶縁体化、超伝導と磁性等タイプの異なる酸化物の接合)の探求をはじめ、フラーレン・カーボンナノチューブ・ゼオライト・鎖状分子等、それ自身ナノ構造をもつ物質およびその結晶が持つ新しい物性の可能性探索が含まれます。無機物質・有機物質のいずれも対象とし、バイオ物質にはしばしばみられる金属を含む有機分子の結晶等の無機・有機ハイブリッド系も積極的に対象としたいです。ただし、「電子」の振る舞いに注目し、新しい機能発現を目指すことを基本とします。
戦略目標「非侵襲性医療システムの実現のためのナノバイオテクノロジーを活用した機能性材料・システムの創製」の下の研究領域
(8) 医療に向けた化学・生物分子を利用したバイオ素子・システムの創製
研究総括:相澤 益男(東京工業大学 学長)
研究領域の概要
 この研究領域は、医療への応用に向け、ナノスケールでの生体反応・情報制御技術、バイオ素子・システム等の創製、および、それに用いる化学・生物系ナノ構造体に係わる研究を対象とするものです。
 具体的には、超高感度に物質濃度や温度・圧力等を測定するバイオ素子・システムや、生体情報や生体反応を計測・制御するバイオ素子・システム等の創製に係わる研究、バイオ素子・システム等の創製に必要となる化学・生物系ナノ構造体や材料に係わる研究、バイオ素子・システムを診断・治療等医療に応用する研究やドラッグデリバリーシステム等が含まれます。

研究総括の募集・選考に当たっての考え方
 生体は、ナノスケールの機能材料の宝庫です。例えば、リボソームは、タンパク質分子とRNA分子で構築されているナノ構造体です。mRNAの分子情報を解読し、その設計図に基づいてペプチドを合成する分子機械であり、分子コンピュータです。こんな素晴らしいナノ構造体が、生体ではなぜ可能なのか。個々の分子がダイナミックにコンフォメーションを変化し、分子間で情報を伝達できる柔軟な超高分子システムであることに、剛直構造体との差異が認められます。生体内では、リボソーム以外にも、多種多様なナノ構造体、ナノ分子システムが多彩な機能を発現しています。
 生体のナノ構造体は、バイオ素子・センサやこれらの構築に使われる新材料等の創製に格好のヒントを提示しています。生体のナノ構造体を模して、合成分子でナノ構造体を構築し生体を超越するも良し、生体分子の構造体を利用して、バイオ素子やセンサ等を構築するも良し、合成分子・生体分子を高度に組み合わせて、ハイブリッド・ナノ構造体、バイオ素子やセンサ等を創製するも良し、柔軟で独創的な発想による、明確な研究戦略に基づく果敢なチャレンジを奨励いたします。
 この領域では、ボトムアップ型のナノテクノロジーを基盤として、融合的技術の開発に重点を置いています。将来、医療分野等へ応用できる、生体にヒントを得た革新的機能材料等の創製も期待しています。関連分野の連携が強力に推進できる研究組織の構成が望まれます。

(9) 「ソフトナノマシン等の高次機能構造体の構築と利用」
研究総括:宝谷 紘一(名古屋大学大学院理学研究科 教授)
研究領域の概要
 この研究領域は、ナノレベルでの分子構造や分子間相互作用の変化等を利用して働くソフトナノマシン等の高次機能構造体の構築と利用に係わる研究等を対象とするものです。
 具体的には、生体に学ぶソフトナノマシンの動作機構の解析・制御およびその原理を活用したソフトナノマシンの構築、利用に関する研究、タンパク質や合成分子等の高次機能構造体によるソフトナノマシンの高効率エネルギー変換、エネルギー供給、情報の変換、伝達に係わる研究等も含まれます。なお、本研究領域は戦略目標「情報処理・通信における集積・機能限界の克服実現のためのナノデバイス・材料・システムの創製」および「環境負荷を最大限に低減する環境保全・エネルギー高度利用の実現のためのナノ材料・システムの創製」にも資するものとなります。

研究総括の募集・選考に当たっての考え方
-ソフトナノマシンの夢の特性の解明と利用を目指して-
 生体は極めて柔軟な働き方をするシステムです。この融通性を担っている根幹の機能単位が、ナノスケールのソフトナノマシン(分子機械)であると考えられています。
 ソフトナノマシンは従来の人工機械にとっては、夢のような素晴らしい特性が備わっていることはよく知られています。例えばソフトナノマシンは状況の変化に対応してその動作様式の変更・修正を行い、その機能を自ら制御すると考えられるようになってきました。従来の人工機械が状況への対応能力を獲得するために、その制御装置をより複雑化・大規模化してきたことを思えば、その動作原理の解明が急がれます。また、ソフトナノマシンは自己組織能を持っています。従来の人工機械の場合には、組み立てるための複雑なシステムが必要であり、多くの場合には人間の助力が要ることを思えば、この自己組織力は驚異的です。システムが高度になり構成素子が莫大な数になると、自己修復技術が不可欠になってきます。ソフトナノマシンでは、不能になった部分を素早く除去・解体して修復する方法が有効に働いています。その意味でソフトナノマシンはリサイクルする自己修復機械と見なすことができます。
 このような夢のような特性を持つソフトナノマシンが実在するのですから、利用しない手はないでしょう。しかし、働きの原理の解明なくして、利用はありません。ここでは生体に存在するソフトナノマシンの原理を解明する研究、生体分子を用いたものに限らず合成分子を用いてソフトナノマシンを構築する手法や材料に関する研究、これらのソフトナノマシンを利用する研究等の提案を期待します。
 例えの夢をふくらませれば、センサーを持つモーターカプセルによる身体の超精密診断・初期症状発見・薬物投与技術等にたどり着くかもしれません。

(10) 「医療に向けた自己組織化等の分子配列制御による機能性材料・システムの創製」
研究総括:茅 幸二(岡崎国立共同研究機構分子科学研究所 所長)
研究領域の概要
 この研究領域は、将来の高度医療を率引する革新的な機能特性をもつ材料・システムの創製を目指し、自己組織化などの分子の秩序配列を利用したナノレベルでの構造制御により、ナノ構造体を構築する技術を開発する研究を対象とするものです。
 具体的には、生体適合材料等の機能性材料・システムの創製を目指し、自己組織化等を利用した超微細構造の形成・制御技術・プロセス技術や評価技術に係わる研究、分子認識機構および情報伝達機構の解明と構造設計技術に係わる研究、自己組織性を有する無機・有機ナノ組織体の設計と高性能材料等の創製に係わる研究、生体機能発現の場である溶液あるいは界面での構造制御と機能発現機構の研究等が対象になります。なお、本研究領域は戦略目標「情報処理・通信における集積・機能限界の克服実現のためのナノデバイス・材料・システムの創製」および「環境負荷を最大限に低減する環境保全・エネルギー高度利用の実現のためのナノ材料・システムの創製」にも資するものとなります。

研究総括の募集・選考に当たっての考え方
 この研究領域は、分子配列をナノレベルで精密に制御し、革新的な機能材料あるいはシステムを作り上げ、その成果が医療等へ資するものとなることを目的としています。この目的を達成するための研究のキーワードの一つとして「自己組織化」があります。原子・イオンあるいは分子の無秩序な集団が、情報伝達あるいは分子間力によって、秩序構造を持ち、さらにサイズを増すに従って構造が階層性を示し、階層ごとの新奇な機能を示す問題は、生命体の機能発現の根源であり、同時にナノ分子集合体の分子素子機能を先見的に設計、構築するためにも、なんとしても解明しなくてはならない重要な課題であります。
 この研究は医療に革新的な影響を与えるものでありますが、それと同様にナノメーターサイズの物性制御の基本であり、情報・通信、あるいは環境といった分野の物質材料創製への手がかりを与えるものです。このような重要な課題の成否の鍵となるのは、あらゆる分野を越えた研究協力体制と連携であります。医薬品の開発、ドナー・アクセプターといった分子間力や生体機能発現の場である溶液や界面のナノ構造制御に関する研究等は、分野を越えた実験と理論、工学と理学の連係がその成果の鍵となります。新しい生物物質科学、時空間の科学の先端に挑戦する意欲ある研究者の参加を求めます。
戦略目標「環境負荷を最大限に低減する環境保全・エネルギー高度利用の実現のためのナノ材料・システムの創製」の下の研究領域
(11) 「環境保全のためのナノ構造制御触媒と新材料の創製」
研究総括:御園生 誠(工学院大学工学部 教授)
研究領域の概要
 この研究領域は、ナノオーダーで構造・組織等を制御することにより、これまでになく高効率・高選択的にかつ環境負荷を低く化学物質等を合成あるいは処理することが可能な新触媒・新材料・システム、環境負荷の低い新材料等を創製し、環境改善・環境保全に資する研究を対象とします。
 具体的には、環境負荷の高い合成プロセスをナノ構造制御触媒等により低環境負荷型に代替する技術に係わる研究、高効率分離・吸着機能・高立体選択的表面・触媒等の高機能・新機能を有するナノ構造材料等の創製に係わる研究、すなわちグリーンナノケミストリーに加え、排ガス・排水中に含まれる化学物質、環境中に存在する化学物質等を高効率・高選択的に分離・除去、分解、無害化するナノ構造制御触媒の開発に係わる研究、これらを組み込んだシステムの創製に係わる研究、ナノ空間機能を反応場として活用したナノリアクター等の創製を目指す研究、環境負荷の低いナノ制御構造材料に係わる研究等が含まれます。

研究総括の募集・選考に当たっての考え方
 物質変換を効率的に実現し便利な製品を供給することは、化学技術・物質材料技術の役目ですが、それに伴う環境負荷を格段に低減し、製品の安全性を大幅に向上することなくして、その成果が社会から受け入れられることは難しいです。後者のための化学技術・物質材料技術、グリーンケミストリーの進展に大きな期待がよせられる所以です。
 本研究領域では、独創的なアイデアに基づいてナノスケールで設計制御した材料とりわけ触媒を活かして、これまでにない機能と効果を発揮し、上記の環境負荷低減を実現しようとする意欲的な研究を募集します。その成果が、直ちに実効があるというより、ナノ材料として長期にわたって世界にインパクトを与えうる基盤的で発展性のある研究を期待したいと思います。具体的には、ナノ精密制御した金属・金属酸化物クラスター触媒、ナノ反応場を活かした低環境負荷型の高選択的物質合成触媒、高効率分離・精製のためのナノ材料、極低濃度汚染物質の高効率濃縮除去・無害化を可能にするナノ材料、およびそれらの融合技術があげられます。ただし、上記の趣旨に沿うものであれば、基礎から応用にわたる多様なアイデア、材料、システムを受け入れたいと思います。

(12) 「エネルギーの高度利用に向けたナノ構造材料・システムの創製」
研究総括:藤嶋 昭(東京大学大学院工学系研究科 教授)
研究領域の概要
 この研究領域は、ナノテクノロジーを活用した高効率のエネルギー変換・貯蔵技術、環境調和型の省エネルギー・新エネルギー技術を創製し、環境改善・環境保全に資する研究、および、ナノオーダーで構造・組織等を制御することにより、省エネルギーを達成し、エネルギーの高度利用に資するこれまでにない高度な物性を有する機能材料・構造材料・システム等を創製する研究等を対象とするものです。
 具体的には、エネルギー効率の極めて高い、高効率・高選択的物質変換プロセスや循環型エネルギーシステムを実現するためのナノ機能材料・システム、熱電変換素子等の創製を目指す研究、新しい太陽電池・燃料電池あるいは熱線反射材料・セルフクリーニング材料等の環境調和型の新エネルギー・省エネルギーに係わるナノ機能材料・システム等の創製を目指す研究、エネルギーの高度利用に資するナノオーダーで材料組成・組織構造・表面界面等を制御した高機能ナノ構造材料の創製に係わる研究、および、これらの構築に必要となるプロセス技術や評価技術に係わる研究等が含まれます。なお、本研究領域は戦略目標「情報処理・通信における集積・機能限界の克服実現のためのナノデバイス・材料・システムの創製」および「非侵襲性医療システムの実現のためのナノバイオテクノロジーを活用した機能性材料・システムの創製」にも資するものとなります。

研究総括の募集・選考に当たっての考え方
 我々の活動に必要なエネルギーを確保し快適な環境を作ることは、食糧を得て健康を維持することと同様に最重要課題です。本研究領域では、ナノ材料や機能材料を有効に活用することにより環境保全、エネルギーの変換・利用技術を進展させることを主なテーマとしています。
 例えば、電気自動車の電源として期待される燃料電池は、ピストンを動かさないためエネルギー変換効率がガソリンエンジンより高く、しかも空気を汚しません。従って、従来にはない新しいアイデアに基づく高効率の燃料電池の研究が必要で、そのための新しい方策の提案を期待します。また、太陽エネルギーの変換法としての高効率光・電気変換に関する研究も重要です。セルフクリーニングされる建材や、熱を反射し電磁波を遮へいする窓ガラスなど、省資源化を達成し快適な生活空間を創るための研究も大切と思います。
 本研究の実施成果として、新しい基礎概念の提案や基本特許の取得ができればと思っています。研究を推進する上で最も重要なことは研究リーダーの熱意であり、優れたオリジナリティーのある人のリーダーシップと活発な雰囲気が重要なファクターだと思っています。
 最後に、研究総括の自宅にある中国の友人からの掛け軸「物華天宝」から一言。サイエンス「物」の成果「華」は天が用意してくれている宝だといいます。この研究領域の実施によって、是非すばらしい宝を探してみたいものです。
戦略目標「情報処理・通信における集積・機能限界の克服実現のためのナノデバイス・材料・システムの創製」、「非侵襲性医療システムの実現のためのナノバイオテクノロジーを活用した機能性材料・システムの創製」、「環境負荷を最大限に低減する環境保全・エネルギー高度利用の実現のためのナノ材料・システムの創製」の下の研究領域
(13) 「情報、バイオ、環境とナノテクノロジーの融合による革新的技術の創製」
研究総括:潮田 資勝(東北大学電気通信研究所 教授)
研究領域の概要
 この研究領域は、情報通信、バイオ、環境に係わるナノテクノロジー分野において、個人の独創的な発想に基づくこれまでにない新技術、新物質、新システム等の創製を目指した新しいルートを切り拓く挑戦的な研究を対象とするものです。
 具体的には、ナノスケールにおける物理現象に係わる研究、化学や生物系新材料の機構・機能等に係わる研究、センシング、操作、制御等の技術の基盤となる研究、既存技術の限界に挑戦する新しい情報通信、バイオ、環境の技術の創出に向けた研究、現在まだ原理の解明等の段階にとどまっている現象を次世代のデバイスやシステムのコンセプトに結びつける研究等が含まれます。

研究総括の募集・選考に当たっての考え方
 「ナノテクノロジー」は今や国策として重点的に推進する研究・開発テーマとなりました。しかしながら、情報通信、バイオ、環境、材料等の重点分野においてナノテクノロジーを活用した新産業創成のための筋道が明らかになっているわけではありません。現時点では、ナノスケールの世界の物理・化学・生物現象それ自体の基礎的研究とそれらの現象を人が利用できる技術に結びつける応用研究の両方を平行して進める必要があります。
 本研究領域では、若い研究者のよく考え抜かれた萌芽的なアイデアを核として実用的ナノテクノロジーへと発展させる研究、実用化へのルートが少しでも見え、しかも実現されれば大きなブレークスルーとなる研究、大型プロジェクトで組織的に進めるよりは研究者個人の知能によって創造的かつ機動的に進めることが適切な研究、などに重点をおきたいと思います。
 理学、工学を問わず多分野の研究者に参加して頂き、研究者間の相互作用を通じて、この領域が新しいアイデアを創出するバーチュアル・ラボラトリーとなるとよいと思います。世界レベルで競争力のある人材の育成も大切な目的だと考えるので、よいアイデアを精力的に追求する方に参加して頂きたいと思います。
 研究提案は異分野の研究者にもその意義が理解されるように書かれる必要があります。確固たる科学的知見に基づき、ナノテクノロジー応用へのフィージビリティー(実現可能性)もよく考慮した研究提案を期待します。


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