新規採択研究代表者・個人研究者および研究課題概要
社会技術研究プログラム
  研究領域「脳科学と教育」

氏名 所属機関 所属学部・
学科など
役職 研究課題名 研究課題概要
仁木 和久 (独)産業技術総合研究所 脳神経情報研究部門 主任研究官 知的学習の成立と評価に関する脳イメージング研究 瞬時学習によるエピソード記憶の形成とその運用・利用に関する海馬の脳イメージング研究に基づき、知的学習の基本原理・理論の構築を行い、人間知能の特性の解明を目指します。特に、教育の場に実践的に適用し、授業法の良さを科学的に解明することによる教授法設計を目指します。本研究により、脳研究と教育が融合した研究分野を確立し、教育や自己能力開発、創造力開発等、人間と社会の活性化に資することが期待されます。
真鍋 俊也 東京大学 医科学研究所 神経ネットワーク分野 教授 学習機構の生後発達の分子基盤の解明とその応用 中枢神経系の海馬は、シナプスが長期的に強化される(長期増強)ことにより、外界の情報を蓄積し記憶・学習の形成を司ります。長期増強の生後発達機構の解明により、学習能力発現機構の本質の理解を目指します。NMDA受容体が長期増強と学習能力に重要な役割を果たし、発生・分化に重要なRasによる調節を受けることを見いだしたため、ras遺伝子を中心としたNMDA受容体機能調節の生後発達を解析し学習能力発達の分子機構の解明とその教育への応用を目指すものです。
三池 輝久 熊本大学 医学部小児発達学教室 教授 学習・記憶・認知・意欲機能の基盤と不登校 不登校児は生体リズム混乱を示し意欲・学習・記憶・認知脳機能低下が著しい。健康状態および不登校状態の学生生徒を対象に、
(1) ECOLOGを用いたアクチグラム解析
(2) 時計・ドーパミントランスポーター遺伝子解析
(3) 事象関連電位、画像解析による脳機能解析
研究から生体リズムと脳機能の関連性を明確にし、生活環境や教育システムのあり方、授業時間配分を考え、不登校状態の治療・予防につなげます。子ども達の生きる意欲を賦活し、学力向上、医療費削減、生産性向上に寄与することが期待されます。

総評:研究総括 小泉 英明((株)日立製作所 基礎研究所・中央研究所 主管研究長)
 本研究領域は、Human Security & Well-being(人類の安寧とよりよき生存)を基調とした未来を見据え、従来の脳科学にも教育学にも存在しなかった学習・教育指向の新領域を創生しようとするものである。先端技術・自然科学と人文学・社会科学を架橋・融合したTrans-disciplinary (環学的)な視点から、教育関連問題の根幹にアプローチする。
 具体的には、脳神経科学の蓄積されたデータの学習・教育への適用、発達認知神経科学や進化・発達心理学、各種神経科学を基盤とした知見の学習機序や広義の教育への応用、自然科学・人文学の成果と臨床・教育・保育等の現場の知識を融合した学習・教育等、前胎児期から一生を終えるまでの全ての学習・教育過程を包括的な視点で捉え直し、少子・高齢化社会における最適な学習・教育システムとその社会基盤構築に資する研究等を対象としている。特に本領域は、従来の研究制度では捉えきれない俯瞰的かつ独創的な研究で、同時に社会貢献が期待できる研究課題を選定した。
 本年度の募集に対し、研究領域の趣旨に沿った24件の興味深い内容の提案があった。二年度目に入り領域の趣旨が徹底された結果、応募件数が減少した反面、趣旨を的確に捉えた提案が増大した。分子生物学・神経生理学から学習の感受期に迫るものから、神経科学・認知神経科学・高次脳機能計測の視点からの学習機序・障害機序の解明や、具体的な教育法・教育カリキュラム改善の試みまで、提案された研究課題は多岐にわたった。分野の異なった複数研究室間の融合的連携を基調とした提案がほとんどである。これらの提案は6名の領域アドバイザーにお願いしてまず書類審査を行い、領域の趣旨に沿った成果が期待できる提案のうち、特に優れた研究提案9件を面接対象として選定し、それらに対し面接選考を行った。
 本年度の選考にあたっては、社会技術の趣旨に沿った提案であることは勿論、異分野の単なる寄せ集めではなく、異分野の架橋・融合に独創性・新規性があるかを吟味した。また、従来の神経科学の枠組みでは捉えきれない視点を重視するとともに、研究体制・組織が十分に練られているか、また、具体的な成果に結びつく確度についても評価した。特に、自然科学・技術と人文・社会科学を融合させ、同時に、基礎の研究者(Scientist & Scholar)と現場の実践者(Practitioner)を結び付けることが可能であるかを重視した。さらに、長期的視点に立った基礎的研究の中にも、本領域の基盤を形成する極めて優れた提案については配慮した結果となっている。特に優れた提案が多数あった中から、選定件数の制約上、3件に絞り込まざるを得なかったのは昨年に引き続き残念であった。

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This page updated on October 31, 2002

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