新規採択研究代表者・個人研究者および研究課題概要
さきがけプログラム
  研究領域「タイムシグナルと制御」

氏名 所属機関 所属学部・
学科など
役職 研究課題名 研究課題概要
岡澤 均 東京都神経科学総合研究所 神経機能分子治療研究部門 部門長 RNAポリメラーゼII機能障害による神経変性の解析 RNAポリメラーゼIIは、細胞の最も基本的機構である転写を担う核蛋白質です。RNAポリメラーゼIIC末端ドメインは、複数の蛋白質と結合しリン酸化/脱リン酸化を利用して転写とRNAプロセシングを段階的に調節しており、ポリグルタミン病の神経変性仲介因子として提案者により同定されたWWドメイン蛋白質(PQBP-1)は、この結合蛋白質の1つです。本研究では、疾患蛋白によるRNAポリメラーゼの転写/RNAプロセシング機構への障害の全体像を明らかにし、神経変性の本質を追求すると同時に、RNAポリメラーゼIIの機能制御による神経変性疾患の治療の可能性を探ります。
佐渡 敬 国立遺伝学研究所 総合遺伝研究系 助手 Non-coding RNAとエピジェネティックな修飾の協調的遺伝子発現制御 近年、DNAのメチル化やヒストンの修飾が協調的にクロマチン構造の変化を引き起こし、遺伝子発現を制御するエピジェネティックな機構が明らかになりつつあります。提案者は、ある種のnon-coding RNAがエピジェネティックな修飾構築に関わっているという仮説を提唱しています。本研究では、哺乳動物に特有なX染色体不活性化をモデルにして、non-coding RNA(TsixやXist)とエピジェネティックな修飾のクロストークによる不活性化クロマチン形成機構に迫ります。更に、non-coding RNA、DNA、蛋白質の間の、相互作用を繰り広げる遺伝子機能制御ネットワークの解明を目指します。
下村 伊一郎 大阪大学 大学院 生命機能研究科・医学系研究科 教授 ”老化遅延”を目指した新たな内分泌因子の同定と応用 「寿命を延ばす」、「老化を遅延させる」最も確実な方法はカロリーを制限することであり、逆に対極にあるのが過食による「生活習慣病」で、「老化加速病」と言うことが出来ます。提案者は、脂肪組織が様々な内分泌因子を産生し、過食によるこれらの内分泌因子の産生異常が、糖・脂質代謝異常、動脈硬化症といった遠隔臓器障害ひいては老化の加速につながることを示しました。本研究では、筋肉、肝臓、消化管、脂肪組織といった生活習慣病の場である末梢臓器群が、実は種々のホルモンを分泌しあい相互連関していることを示し、これらのホルモンを介したカロリー制限による「老化遅延」のメカニズムを探り、新たな「老化遅延法」の開発を目指します。
瀬藤 光利 東京大学 大学院 医学系研究科 助手 蛋白翻訳後側鎖アミノ酸付加の分子機構 蛋白質分子の翻訳後修飾の解明は、ポストゲノム時代の生命科学における重要課題の一つです。側鎖アミノ酸付加はユニークな蛋白質翻訳後の修飾現象であり、加齢、分化とそのリセットに関わる可能性や抗癌剤の新しい作用点となる可能性が示唆されています。本研究では、リン酸化や糖鎖修飾、ユビキチン化のシステム同定を参考にして、これら付加、脱付加酵素群の分離同定、再構成、遺伝学的な決定を行い、現象に物質的基盤と遺伝学的基盤を与えることを目指します。この側鎖アミノ酸付加に関わるシステムの確立は、リン酸化や糖鎖修飾、ユビキチン化のシステムの発見と比肩されるものとなり得ます。
高倉 伸幸 金沢大学 がん研究所 教授 造血幹細胞の自己複製を誘導する生態学適所の解明 幹細胞が自己複製能を持つという概念は造血幹細胞移植にも応用されていますが、その分子機構は未だ明らかになっていません。提案者は、造血幹細胞の自己複製が誘導される環境(生物学的適所:ニッチ)の構成成分として、血管内皮細胞を同定しました。ニッチ構成細胞と造血幹細胞の細胞間相互作用の中でも、幹細胞の自己複製に関わるextrinsicシグナルを解明し、個体内ではいかにこのシグナルが時間的制御により、幹細胞の分化、未分化を決定するのかを解明します。さらに本研究に立脚し、真の造血幹細胞の試験管内増幅を誘導する方法論の確立を目指します。
高橋 考太 久留米大学 分子生命科学研究所 教授 染色体動態の時空間制御技術の開発 本研究は、細胞周期と染色体研究に先導的役割を果たしてきた分裂酵母をモデル生物として、染色体動態の時空間制御技術の開発を目指します。提案者がクローン化した異なった2つの制御系に属するCENP-A局在化因子、Mis6とAms2、それぞれの複合体構成とその分子活性の解明に焦点を絞り、個々のシグナル系の制御技術を追求することで染色体動態を操作する方策を分裂酵母モデルで考案していきます。将来的には細胞周期進行に伴う染色体動態のタイムプログラムを統一的に理解し、ヒト人工染色体の制御技術開発に資することを目指します。
畑田 出穂 群馬大学 遺伝子実験施設 助教授 雄の生殖細胞への卵子型インプリントの導入-雄どうしは交配できるか? 哺乳類の配偶子形成では、ゲノムのエピジェネティックな情報のリプログラミング(消去と再成立)が生じ、精子型あるいは卵子型のそれぞれ特異的なエピジェネティックな情報の記憶(ゲノムインプリント)を持つようになります。ゲノムインプリントは原始生殖細胞で消去され、卵子型のインプリントはその後卵母細胞の成長期に再成立します。本研究では、卵子型の記憶の成立の機構解明と消去状態における雄、雌のゲノムの等価性を検証します。
松野 健治 東京理科大学 基礎工学部 助教授 フコース修飾によるNotch情報伝達の制御機構 Notch情報伝達系は、細胞間の接触に依存した局所的な細胞間相互作用により、細胞運命の決定やパターン形成などの多様な生命現象を制御しています。提案者はショウジョウバエを用いてNotch情報伝達に必須な遺伝子、neuroticを同定し、Notch活性化には受容体蛋白質のO-フコースの直接付加が必須であることを示しました。本研究では、ショウジョウバエを用いた遺伝学的手段によって、Notch へのO-フコース付加の経路で機能する遺伝子の同定と、それらの機能的相互関連を明らかにします。
三浦 猛 愛媛大学 農学部 教授 雌雄両配偶子形成の共通原理の解明 配偶子形成は、生命の連続性を保つために必須な過程ですが、その制御機構には未だ多くの不明な点が多々あります。提案者は、黄体ホルモンが雌雄共通の減数分裂開始の引き金を引くホルモンである可能性を指摘しました。本研究は、ユニークな生殖様式を持つ数種の魚類を実験モデルとして、雌雄両配偶子形成に共通する制御機構を明らかにし、新しい生物生産技術の確立へと展開させます。
水島 昇 岡崎国立共同研究機構 基礎生物学研究所 助手 哺乳動物におけるオートファジーの役割とその制御機構 生命を維持するためには、一旦合成したものを環境変化に応じて適切に分解処理する必要があります 。オートファジーは、リソソームにおける非特異的な主要分解機構であり真核生物に保存されていますが、その具体的な意義はほとんど明らかになっていません。本研究では、提案者がこれまでに得た細胞レベルの知見を、個体レベルの研究へと発展させることにより、哺乳動物におけるオートファジーの意義とその制御機構の解明を試みます。

総評:研究総括 永井 克孝(三菱化学生命科学研究所 所長)
「ポストゲノム時代のホリゾンタルサイエンスを目指して」
 生物は自らが遺伝子内に一旦セットしたプログラムを環境変化に応じてリセットし、生命を維持しようとしている。「タイムシグナルと制御」研究領域はこうしたリセット機構の仕組みと応用を研究対象としている。その目指すところは、時代要請のひとつである「高齢化」対応の解(solution)に向けて、個体から細胞、ゲノム、分子に到る様々な階層的次元で生命を空間的・時間的存在として捉えようとする研究を含み、ポストゲノム時代の生命科学として極めて重要な意義をもつ。今年度が最後(第3回目)の募集である。この募集に対して、国公私立大学のみならず、独立法人、特殊法人の機関、海外で研究を行なっている研究者から171件の応募があった。その内訳は発生・再生関係47件、生化学・分子生物学関係45件、脳関係22件、疾患関係16件、メチル化・酸化関係(エピジェネティックな染色体構造変化なども含む)12件、糖鎖関係9件、免疫関係9件、クロック関係8件、植物関係3件である。
 応募された研究提案は10名の領域アドバイザーに査読を依頼し、第一次として書類審査を行い、25件を選定した。この25件について研究提案のプレゼンテーション方式による面接審査を行ない、最終的に10件の研究課題が採択された。
 書類審査の段階では研究課題の質の高さを第一に評価し、「タイムシグナルと制御」の感覚や「高齢化」対応の解(solution)に富む研究提案を優先した。
 採択された10件の研究課題は、国際的に見て高いレベルにあり、極めてオリジナリティが高く、自立性に富んでおり、「ポスドク参加型」提案として相応しい充分な準備状態にある。応募された研究課題、特に面接選考の段階に進んだものの中には、採択された研究課題と甲乙つけがたいものがあったが、定員制限のため機会を与えられなかったのは残念である。

戻る


This page updated on October 31, 2002

Copyright©2002 Japan Science and Technology Corporation.