新規採択研究代表者・個人研究者および研究課題概要
さきがけプログラム
  研究領域「情報と細胞機能」

氏名 所属機関 所属学部・
学科など
役職 研究課題名 研究課題概要
秋光 和也 香川大学 農学部 助教授 ミトコンドリア病発生制御分子の認識機構の解明 糸状菌が生産する毒素により引き起こされる疾患として植物ミトコンドリア病があります。この毒素への感受性は、ミトコンドリアゲノム遺伝子ACRSで決定され、毒素への感受性/抵抗性はACRSmRNAへのプロセッシングの有無により決定されます。
本研究では、この核ゲノム由来のACRSmRNAプロセッシング酵素遺伝子の単離と制御メカニズムの解明を目指します。
石井 浩二郎 久留米大学 分子生命科学研究所 助手 染色体ゲノムの機能領域を区分するバウンダリーエレメントの解明とその応用 ゲノム遺伝子情報のON/OFF調節は染色体の局所的な構造変化を伴い、構造変化を受容する領域を規定する因子バウンダリーエレメントがその緻密な多様性の成立には不可欠です。特にヘテロクロマチン構造は遺伝子の封印領域や染色体伝達のデバイス領域を構成し、その境界決定は細胞機能発現に非常に重要です。本研究では高等生物ヘテロクロマチンのモデル系として最適な分裂酵母を用いて、ヘテロクロマチン構造を遮断するバウンダリーエレメントの分子機構を解明し、外来導入遺伝子の発現制御技術への応用を目指します。
岸 努 国立遺伝学研究所 分子遺伝研究系 助手 SCFユビキチンリガーゼによる細胞機能制御と薬剤開発への応用 ユビキチン化に依存した制御蛋白質の分解は、細胞機能を正常に保つために重要な働きをしています。なかでも、SCFユビキチンリガーゼに依存した蛋白質分解は、細胞周期、発生、分化などを制御します。本研究では、このSCFによってユビキチン化される蛋白質を酵母を用いて明らかにし、SCFによる細胞機能制御の全体像を把握することを目指します。また、本研究の結果を薬剤の開発に応用することも期待しています。
曽根 雅紀 京都大学 医学研究科 特別研究員(PD) シナプス回路形成機構のゲノム遺伝学的解析と精神研究への応用 神経細胞はシナプスを介して回路を形成し、シナプス回路の特性の中に脳神経系の機能原理と病態の本質のひとつがあります。本研究では、ショウジョウバエの遺伝学を用いて、シナプス局在蛋白質を網羅的に同定し、さらにシナプス分子の突然変異体ライブラリを作成します。その表現型の解析を通じて、シナプス回路形成機構および高次精神機能・精神疾患の基盤メカニズムの解明を目指します。
高橋 倫子 岡崎国立共同研究機構 生理学研究所 助手 2光子励起法で解析する開口放出関連蛋白質の作用機序と糖尿病の病態解明への応用 分泌の最終過程を明らかにするために、2光子励起法を用いて膵島におけるインスリン開口放出の素過程をナノ解析する実験系を確立しました。本研究ではこの手法の同時多重染色性を併せて生かし、開口放出の準備段階における膜融合関連蛋白質の機能を調べます。そして、複数の存在が想定されるインスリン分泌路の分子基盤を明らかにし、糖尿病の病態解明に向けた知見と解析系の獲得を目指します。
茶野 徳宏 滋賀医科大学 医学部 文部科学教官 がん抑制遺伝子RB1CC1の機能解明とがん克服への挑戦 RB1CC1 (RB1-inducible Coiled-Coil 1) は全く新しいがん抑制遺伝子で、網膜芽細胞腫遺伝子 (RB1) の発現を調節することによって細胞のがん化を抑えています。しかし、RB1CC1の働きの機序など不明な点は多く、本研究では、将来的な新規治療、創薬を見据え、RB1CC1と介在する、もしくは標的となる分子を明らかにします。そして、ここより得る知見をがん克服への新たな切り口として応用します。
豊田 英尚 千葉大学 大学院薬学研究院 助手 糖鎖構造マスターコントロール遺伝子群による細胞機能の制御と創薬研究への応用 糖鎖による細胞機能制御のメカニズムを遺伝子レベルで理解するためには、糖鎖合成酵素の共同作業を指揮する新しいタ イプの遺伝子群を見いだし、糖鎖構造がどのようにしてゲノムの支配下にあるのかを解明することが重要です。そこで、本研究ではショウジョウバエを材料に、それらの遺伝子を探索して細胞機能制御の仕組みを理解すると同時に、その情報をヒト培養細胞に応用してゲノム創薬研究への展開を目指します。
西 毅 Tufts University School of Medicine Department of Physiology Research Assistant Professor 組織特異的なアイソフォームの関与する新しい細胞内ネットワークの解明 多サブユニット複合体(V-ATPase)による、細胞内膜系や特定の細胞における細胞外の酸性化は、様々な生理現象に重要な役割をはたしています。最近、幾つかのサブユニットのアイソフォームへの変異が大理石病をはじめとする疾患の原因であることが明らかにされています。本研究ではこれらアイソフォームを中心とし、これまで知られていない細胞内での新しい蛋白質間のつながり(ネットワーク)と、その病気への係わりを明らかにします。
平井 宏和 St. Jude Children's Research Hospital Dept. of Developmental Neurobiology 特別研究員 小脳失調症関連遺伝子の機能解明と治療に向けた標的遺伝子の導入技術開発 発達期に遺伝子異常が存在するとしばしば大きな障害が引き起こされることとなります。本研究では小脳の特定神経細胞群への遺伝子導入技術を開発し、その技術を用いて特定神経細胞におけるその遺伝子機能を明らかにします。さらに遺伝子欠損によって発達障害を引き起こした小脳に正常遺伝子を導入することにより、その障害の回復を目指します。
牧野 雄一 東京大学 医科学研究所 教務職員 低酸素シグナルによる生体機能調節機構の解明と疾患治療への応用 生体内環境の酸素分圧の変動に対し、細胞は様々な機構により適応します。低酸素に対する適応の破綻や異常は、細胞・組織の機能を障害し種々の疾患などを引き起こすことが知られています。本研究では、低酸素環境への適応の制御機構について、低酸素応答性転写因子のネットワークの解析を中心に分子レベルで明らかにし、その成果を低酸素が関与する疾患の治療法開発に役立てることを目指します。
宮戸 健二 大阪大学 微生物病研究所 助手 受精の膜融合を制御する分子メカニズムの解明と不妊治療への応用 受精の膜融合過程は、精子の卵細胞膜への接着、融合、多精拒否からなる一連の現象です。本研究では、その分子メカニズムの解明に挑戦するため、膜融合過程に関わる因子群を明らかにし、その挙動を可視化することにより、受精における膜融合複合体が時間的空間的にどのように形成されるのかを明らかにします。この研究から、不妊治療への道は開かれるとともに、受精以外の膜融合にも新しい概念を提案することができると考えています。
渡辺 英治 岡崎国立共同研究機構 基礎生物学研究所 助教授 脳のナトリウムレベルセンサーの解明と生活習慣病克服への応用 食塩の慢性的な過剰摂取は、高血圧など成人病の一因になります。本研究では、脳に発現しているNaxと呼ばれる蛋白質が、体液中のナトリウム濃度を検出し、食塩摂取を抑制する仕組みを明らかにしていきます。その結果は、電解質の絶対濃度を検出できる蛋白質の存在を示唆し、塩分過剰摂取を原因とする生活習慣病克服の第一歩になると考えています。

総評 : 研究総括  関谷 剛男(三菱化学生命科学研究所 副所長)
 細菌からヒトまでのゲノム解読が完了に向かうとともに、細胞機能を発現している複雑な遺伝子情報を整理整頓する基盤が着実に整備されつつある。
 細胞はこのような内部情報に基づく機能を果たす一方で、様々な外的情報の影響を受け、そのなかで人間にとっての悪い影響としてはがん、痴呆、糖尿病、高血圧など高齢者の主要疾患、エイズを代表とする感染症、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患など様々な疾患をもたらし我々を悩ませている。本領域では正規の遺伝子情報によって細胞が正しく機能を発揮する仕組み、ならびに、外的情報による細胞機能の変化の解明を分子レベル、細胞レベル、固体レベルでの研究で行い、その結果を手がかりに、生命の設計原理を知るとともに各種疾病の理解と克服を目指す。研究に当たっては、現状を打破し将来の発展を期待させる独自の構想、斬新なアプローチ、原理の異なる手法で取り組み、明るい未来を開く独創的な発想による、まさに「さきがけ」となる研究提案を期待した。
 昨年度採択した13件の研究は上記の主旨に沿った進展を見せている。本年度は、大学、国公立の研究機関および企業等から医学、生物学、化学、物理学の幅広い研究領域にわたる177件の応募があり、8名の領域アドバイザーによる慎重な審査を行い、第1次審査(書類選考)の結果として28件を選定した。この28件について面接による第2次審査を行い、最終的に研究総括、領域アドバイザー全員の判断として採択課題12件を決定した。
 選ばれた12件の研究提案はいずれも期待された内容を含むものであり、その成果は我国はもとより国際的な生命科学のレベル向上に寄与するとともに、病気の予防、診断、治療に活用され、社会におおいに貢献するものと確信している。
 本研究領域の公募においては、比較的若い研究者からの意欲的な研究提案が多く、採択に至らなかった提案の中にもオリジナリティーの高い優れたものが多くあり、これらを採択課題に加えられなかったことは残念であった。

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This page updated on October 31, 2002

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