新規採択研究代表者・個人研究者および研究課題概要
さきがけプログラム
  研究領域「生体分子の形と機能」

氏名 所属機関 所属学部・
学科など
役職 研究課題名 研究課題概要
佐藤 健 理化学研究所 中央研究所 研究員 タンパク質選別輸送装置の人工膜小胞への再構成 真核生物の細胞内での物質輸送や、細胞外への分泌は、輸送小胞と呼ばれる小さな膜小胞を介して行われています。この輸送小胞には、運ぶタンパク質を厳密に選別する機構が備わっています。本研究では、輸送小胞の形成過程に起こる分子イベントを人工膜小胞上へ再構成し、その過程で生じるタンパク質やリン脂質の分子間相互作用を解析します。
沈 建仁 理化学研究所 播磨研究所 先任研究員 生体光エネルギー変換の分子機構―光化学系II複合体の構造と機能の解明とその応用 光合成の光化学系II複合体は、藻類や緑色植物のチラコイド膜上に存在する、14種の膜タンパク質と3種の親水性サブユニットの超分子複合体です。この複合体は、太陽の光エネルギーを吸収し、化学エネルギーに変換すると同時に、水を分解し酸素を発生する反応に触媒として作用します。本研究では、X線結晶構造解析を主な手段として、天然および変異を導入した光化学系II複合体の立体構造を原子レベルで解析し、その機能を解明し、太陽光エネルギーの新しい利用法の開発を目指します。
高野 和文 大阪大学 大学院工学研究科 助手 蛋白質の「配列-構造-安定性」相関の系統的解析 タンパク質の立体構造がアミノ酸配列によってどのように決められているのかは未だ明らかになっていません。本研究では、ある任意のアミノ酸配列を様々なタンパク質の環境に導入した変異体を系統的に作製し、その構造解析と安定性測定から、導入した配列が環境によりどのような構造を形成しているかを調べます。実際に配列-構造-環境・安定性の関係を構築していくことで、構造を規定している因子の解明を目指します。
田口 英樹 東京工業大学 資源化学研究所 助手 シャペロニンの役割の解明による効率的なタンパク質折りたたみ法の解明 タンパク質の折りたたみは他からのエネルギーを必要としない自発的に進行するプロセスですが、細胞内で折りたたみを助けるシャペロニンはATPを必要とし、また、シャペロニンがないと折りたたみが進行しないように見えるタンパク質が存在します。これらのことから、シャペロニンとATPがあると新しい折りたたみ経路が出現すると考え、シャペロニンがタンパク質の折りたたみに与える影響を解明し、タンパク質の折りたたみの一般的方法の解明を目指します。
濡木 理 東京大学 大学院理学系研究科 助教授 構造ゲノム科学およびプロテオミクスに基づく新規の遺伝暗号翻訳装置の同定と機能発現メカニズムの解明 遺伝暗号翻訳過程において、t-RNAはプロセシング、転写後修飾、アミノアシル化を受けてキー分子として働きます。これまでの研究により、これらの諸過程において各酵素群は弱い相互作用および強い結合によって機能ユニットごとに「装置」を形成していることが示唆されています。本研究では、構造ゲノム科学およびプロテオミクスを駆使して、新規の遺伝暗号翻訳装置を同定し、装置全体の高次構造を解明し、機能発現のメカニズムを原子レベルで明らかにします。
芳坂 貴弘 岡山大学 工学部 助手 蛍光標識アミノ酸の導入によるタンパク質の新規構造機能解析法の開発 蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)はタンパク質の構造を調べる上で有用な手法ですが、タンパク質の特定の2ヶ所に蛍光基を導入することはこれまで困難とされてきました。本研究では、4塩基コドンを用いてFRETのドナー・アクセプターとなる蛍光標識アミノ酸を特定の2ヶ所に導入したタンパク質を合成します。これにより、その2ヶ所の間の距離を求めたり、さらに基質などの結合によるタンパク質の構造変化を検出することが可能になります。
松浦 友亮 Universitat Zurich Biochemisches Institut postdoctral fellow 分子進化工学的手法による新規トポロジーを有する蛋白質の探索 本研究では、リボソームディスプレー法により、αヘリックスやβシートなどを形成する傾向の強い配列をランダムに連結したタンパク質ライブラリーから、単一構造に折りたたまれるタンパク質、および機能性タンパク質を選択し、これらの構造特性を明らかにすることを目指します。最終的に、天然に存在する配列、構造はタンパク質物理的に可能な唯一の解なのか、また、少数のタンパク質を基に現存する物が構成されたのかについて検討します。
村上 聡 大阪大学 産業科学研究所 助手 薬剤耐性化問題の克服を目指した多剤排出蛋白質の薬剤認識機構の解明とその応用 多剤排出蛋白質は、細胞から抗生物質や、抗がん剤などの多種多様な薬剤を排出する膜蛋白質です。細胞に入って有効性を発揮する薬剤を、細胞外に排出して、それを無効にしてしまいます。これは院内感染や、抗がん剤耐性の主因であり、臨床上大きな問題になっています。多種の薬剤を認識して排出してしまう仕組みを構造的に明らかにすることにより、これら薬剤耐性化の問題に対する特効薬の開発につなげます。

総評:研究総括 郷 信広(日本原子力研究所 特別研究員)
 タンパク質分子は生命活動を構成する色々な要素機能の担い手の分子であり生命と物質の接点に位置しており、そこには生物進化の過程で作り出され、遺伝情報の形で伝承されている洗練された分子レベルの技術の粋が凝縮している。ゲノム情報解読が急速に進行し蛋白質研究も新時代に入ってきた。それには生命科学と物質科学のそれぞれの面からの多様な研究が必要であり、純粋理学的研究と同時に、分子が本来もつ技術を応用に結びつける研究も大きな生命科学研究の流れの推進力として重要である。このような観点から独創的な発想に基く研究提案を公募したところ大学・国公立、独立行政法人等の様々な研究機関から83件の公募があった。
 提案された研究計画は8名の領域アドバイザーによる書類審査を行い、まず18件を選定した。この18件については面接による審査を行い、最終的に研究総括、領域アドバイザーの合意により8件の採択課題を決定した。選考された研究課題は動物のみならず植物、微生物に関連する蛋白質の構造と機能に関する広範囲に亘る研究分野からなり、昨年度採択された研究課題とあわせて、さらに広い分野の研究の進展に貢献し、国際的な生命科学の研究レベルを高め、又産業界に刺激を与え、新産業の創生など社会的にも貢献するものと確信する。

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This page updated on October 31, 2002

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