新規採択研究代表者・個人研究者および研究課題概要
戦略創造プログラム
戦略目標
「情報処理・通信における集積・機能限界の克服実現のためのナノデバイス・材料・システムの創製」、
「非侵襲性医療システムの実現のためのナノバイオテクノロジーを活用した機能性材料・システムの創製」、
「環境負荷を最大限に低減する環境保全・エネルギー高度利用の実現のためのナノ材料・システムの創製」

  研究領域「情報、バイオ、環境とナノテクノロジーの融合による革新的技術の創製」

氏名 所属機関 所属学部・
学科など
役職 研究課題名 研究課題概要
青柳 隆夫 鹿児島大学 大学院理工学研究科 教授 体外からの刺激情報伝達によるナノデバイス機能制御 ガンによる死亡割合の増加は大きな社会問題となっており、患者への負担をできるだけ少なくした効果的なガン治療法の開発が強く望まれています。本研究では、磁性微粒子が磁界内で発熱することを利用した温熱療法と、温度に応答して抗ガン剤を放出する効果的な化学療法を組み合わせた、低侵襲のガン治療を実現する高機能ナノ磁性微粒子の開発を目指します。
浅沼 浩之 東京大学 先端科学技術研究センター 助教授 生体反応の光制御を目指した人工核酸デバイスの創製 本研究では、DNAに光応答性有機分子を化学的に組み込んだ光スイッチングバイオナノデバイス(人工核酸デバイス)を構築し、遺伝子複製や遺伝子発現など核酸が関与するナノスケールの生体反応の光制御を目指します。これによってバイオテクノロジーおよび遺伝子治療・遺伝子診断など医療のための新たなツールやシステムの構築が期待できます。
安部 隆 東北大学 大学院工学研究科 助手 マイクロ・ナノマシニングを用いた水晶振動子型分子認識チップの創製 本研究の目的は、独自のマイクロ・ナノマシニング技術により開発した独立振動可能なマルチチャンネル型水晶振動子の小型化、高性能化と、これを用いた生体物質、環境汚染物質などの特定を行う水晶振動子型分子認識チップシステムを創製することです。これらにより、高価な蛍光分子の修飾を必要としない医療用診断チップ、ナノスケールの物理化学現象による微弱信号の極限センシングなどが期待されます。
新井 豊子 北陸先端科学技術大学院大学 材料科学研究科 助手 走査型相互作用分光顕微鏡の開発とナノ構造創製への応用 個々の原子・分子を識別し、組立て、特異機能を持つナノ構造を創製する手法を開拓します。このために、独自の表面局在相互作用分光法に基づき、原子・分子組立ての舞台となる基盤の電子状態を原子尺度で解析・制御し、原子・分子を操作・結合させることができる走査型相互作用分光顕微鏡を開発します。これは、未知の機能を発現するナノ構造創製法となり、ナノテクノロジーの基盤技術としての展開が期待できます。
石内 俊一 慶應義塾大学 理工学部 助手 超臨界流体ジェット法の開発による分子認識メカニズムの解明 本研究は、特に神経伝達物質に注目し、ナノバイオロジーの根幹である分子認識メカニズムを分子レベルで解明する事を目的とします。その為に、生体機能部位を溶媒等の外乱のない分子線として取り出す新技術、超臨界流体(SCF)ジェット法を提案します。これにより分子線中に神経伝達物質・レセプター錯合体を生成してレーザー分光法を適用し、分子間相互作用、即ち分子認識メカニズムを解明します。SCFジェット法は、分子線エピタキシー等による機能性超分子の多層構造膜の製作などへの応用や、新規分析技術として、生化学、環境分析への波及効果が期待されます。
板倉 明子 (独)物質・材料研究機構 材料研究所 主任研究員 自己集合膜を利用したストレスの制御とパターニング ストレスは物質の歪みや破壊に繋がるものとして悪印象がありますが、ストレスが存在する場所だけで反応性が上がったり、ポテンシャルが変化したりして、利用の可能性も秘めています。本研究は自己集合膜が作るストレスがイオン照射で大きく変わることを利用し、ストレス変調表面を作り、反応制御のパターニングを行うことを目的としています。この研究により、ナノ描画手法の一つとしてストレスを用いることが可能となります。
一木 隆範 東洋大学 工学部 助教授 微細加工によるナノバイオ情報解析デバイス創製 LSI微細加工技術による高機能バイオチップや物理的精密計測、加工技術を駆使して個々の細胞を直接的に操作し、分析するナノバイオ分析システムと分析法の実現を目指します。これらにより従来のライフサイエンスの研究手法では知ることのできない細胞内分子の生体機能を解析することが可能になり、将来のバイオ研究、医療、創薬産業に有用な基盤技術(単一細胞生命活動の精密物理計測)の開発が期待されます。
井出 徹 科学技術振興事業団 国際共同研究プロジェクト 研究員 バイオナノポアを用いた1分子センサーの開発 医薬品開発、遺伝子診断など多くの分野において、高感度で、コンパクトなセンサーの開発が強く望まれています。本研究では、これまで開発してきた生体分子1分子のイメージング・計測技術を応用して、従来型のセンサーとは全く異なる新しい原理に基づく、極めて感度の高い、微小なセンサーの開発を目指します。1本の遺伝子から遺伝暗号を読みとるなど、今までの技術では考えられなかった程の高感度センサーの開発が期待されます。
井上 将彦 富山医科薬科大学 薬学部 教授 精密分子認識に基づく人工DNAの創製とナノ材料への応用 本研究は、人工分子でDNA様の構造を構築し、生物はなぜDNAのような分子を遺伝子として選んだのかという、科学における普遍の問いかけに対して分子構造の面からアプローチします。また人工DNAの電気・光化学的特性を利用して、SNPs(一塩基多型)の効率的な検出法を確立する等、テーラーメイド医療の実現に不可欠なナノ材料を提供することを目標とします。
大久保 達也 東京大学 大学院工学系研究科 助教授 ナノ空間ネットワークの構築による超集積場の創製 人類の発展を持続していくためには、従来の機能を遥かに超えた物質・材料・デバイス群の創出が不可欠です。本研究では、ヘテロ接合手法を確立することによってナノ空間ネットワークを構築し、その中に階層の異なるゲストを形を整え、秩序よく並べる、すなわち「超集積」することで、この課題に挑戦します。本研究の成果は、ナノテクノロジーにおける発見をシステム化・デバイス化するための汎用的な仕組みを与えるものと期待されます。
大古 善久 東京大学 大学院工学系研究科 助手 酸化チタン上に析出した銀ナノ粒子の多色フォトクロミズム~新現象の機構解明と応用展開 この度、銀微粒子を担持した酸化チタン光触媒薄膜(褐色)に特定の波長の光を照射すると、薄膜が光の色と同じ色に着色し、再び紫外線を照射すると元の褐色に戻るという、見かけ上均一な材料を用いた初めての多色フォトクロミズムを見出しました。本研究では、この新現象の機構解明と、光で可逆に書き込み・消去のできる電子ペーパーなどのマルチカラー表示材料や光多重記録材料としての応用展開を進めます。
尾上 慎弥 協立化学産業(株) 研究所 研究員 集積-融合増幅型ナノ粒子センシングシステムの開発 原子や分子、複雑系分子集合体に至る物質群の高感度センシング材料として、無機ナノ粒子が注目されています。本研究では、無機ナノ粒子を安定化するために存在する有機被覆層に標的物質に応答して無機核部分の融合を誘発させる潜在型のプログラムを与え、分光学的シグナル応答を増幅します。実用化に向けた超高感度ナノ粒子センシングシステムの開発を行います。
加藤 大 静岡県立大学 薬学部 講師 生体システムを集積化した素子・システムの創製と実用化 生体物質は、複雑系における高度な調和によって、その機能を発現し生命活動を維持しています。本研究では、既に構築された開発した高含水ゲルを用いた生体物質の固定化法を利用し、生体分子、細胞、組織、器官等を微小空間に固定化し、認識、捕捉、情報伝達等の生化学反応をマイクロチップ上に集積化し、多機能付加型バイオ素子、システムの創製と実用化を行います。これにより、病態解析、創薬研究等を目的としたハイスループットシステムの開発が期待されます。
竹内 俊文 神戸大学 大学院自然科学研究科 教授 テーラーメイド分子集積による機能性三次元空間創製 独自の超分子インプリント技術を用いて、結合部位形成や触媒活性、セカンドメッセージ発信の役割をもつ機能性モノマーと三次元空間を支える役割をもつ空間構築用モノマーを意図どおりの順番や位置に自己集合・組織化させ、その構造を維持することで分子認識能を有するナノスケール三次元空間をテーラーメイド的に設計・合成し、バイオ、環境から分子デバイスに至る様々な分野で応用可能な材料ナノテクノロジー基盤技術を確立します。
冨田 知志 理化学研究所 ナノ物質工学研究室 協力研究員 強磁性金属ナノコンポジット膜を用いたLeft-Handed Materialsの実現と応用 物質の電磁気応答を決定する誘電率と透磁率が共に負となる物質は、Left-Handed Materials(LHMs)と呼ばれます。本研究では強磁性金属ナノコンポジット膜を用いて、これまで実現不可能と言われてきたLHMsを創製することを目的とします。本研究の成果は、物質の電磁気応答における従来の既成概念を打ち破るブレイクスルーとなり、将来的な光ディスクの超高密度化等に繋がる基盤技術へと発展すると期待されます。
長谷川 幸雄 東京大学 物性研究所 助教授 ナノサイズ一次元構造の電子物性評価 ナノテクノロジーを考える上で、ナノスケールのサイズを持つ構造の電子状態や電気伝導特性を評価することは重要です。特殊環境化で動作する走査トンネル顕微鏡(STM)や原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、ナノサイズの幅を持つリング構造の電子状態が磁場によってどのように変化するかを観察することによってその電気伝導特性や散乱現象を明らかにするなど、ナノスケールでの観点からその物性を捉えます。
深津 晋 東京大学 大学院総合文化研究科 助教授 シリコンをベースとする新光機能素子の創製 シリコンに代表される間接遷移物質は、高効率の光発生には不利な物性を有しています。本研究では、シリコンをベースとする新奇な材料系のナノ構造を利用して、長年、その実現が渇望されてきたシリコン系物質による高輝度光発生、レーザー発振を目指します。エレクトロニクス分野を席巻するシリコンに、新たに光発生機能が賦与されれば、全シリコンフォーマット型デバイスや、通信、生体計測など幅広い分野への展開が期待できます。
藤本 健造 北陸先端科学技術大学院大学 材料科学研究科 助教授 光応答型インテリジェント核酸を用いた遺伝子操作法の開発 本研究は、遺伝子操作の「脱酵素化」に取り組み、光応答型遺伝子操作という新しい方法論の開発を行うものです。現代の遺伝子工学は酵素を用いた遺伝子操作に基づくものですが、生体内細胞中での操作、マイクロマシン上での操作には限界があるとされてきました。光応答型遺伝子操作法はこれらの問題を解決し、細胞内での遺伝子治療、マイクロチップ上での遺伝子診断、バイオコンピューティング等へ展開することが期待されます。
森脇 和幸 神戸大学 大学院自然科学研究科 助教授 Siナノ結晶を増感材とした光導波路増幅器の創製 ファイバー型の光増幅器と異なり、平面型の光導波回路では光増幅器が実用化されていません。本研究では、従来あるSiO2膜にErを添加した膜でなく、そこに更にSiナノ結晶を添加した膜により、Erが桁違いに強く発光することを応用し、1.55μm波長の実用的な平面型光増幅器実現を目指します。もし実現できれば、受動回路である石英系光回路への能動機能追加により、光情報通信分野に飛躍的な発展をもたらすことが期待されます。

総評 : 研究総括  潮田 資勝(東北大学電気通信研究所 教授)
 この研究領域は、本年度開始された戦略創造プログラムにおいて、ナノテクノロジーに係わる10領域中ただ一つの個人研究・ポストドク参加型の研究領域であり、さらに、情報、バイオ、環境に係る3つの戦略目標に向けたナノテクノロジーを指向したものである。若い研究者が応募し易い唯一のナノテクノロジー領域だったこともあって、応募件数は265件に達し、競争率は非常に高いものとなった。
 幅広い技術の範囲をカバーするため、領域アドバイザーとして、物理、化学、生物、工学、環境の9人の専門家にお願いして審査に当たった。審査においては、専門的な見地からの検討に加え、異なる専門分野の視点からについても慎重に比較検討を行った。優れた研究提案が多くしかもその専門分野は多様であるため、書類選考は研究総括と9人のアドバイザーが合議で行い、29件の提案を面接審査の対象として選択した。面接では具体的にどのような成果がナノテクノロジーにつながるのか、成功の可能性はどのくらいか、等について説明を受けて提案内容を評価した。さらに、面接審査の結果について研究総括と9人のアドバイザーで総合的に議論・検討し、最終的に研究課題を19件に絞った。
 採択候補の選択に当たっては、研究内容が優れていることはもちろんであるが、異なる分野間のバランス、所属機関の種類間のバランス、地域的分布、年齢層なども総合的考慮の要因に含めた。19件の採択提案中、8件は物質関係、7件がバイオ関係、4件が情報関係となった。直接的に環境に係わる研究提案が採択できなかったのは残念であるが、採択された19件中には応用として環境問題にも関わる研究が含まれている。
 競争率が14倍と非常に高かったために、優れた研究内容でありながら、採択できなかった提案が数多くあったことは残念である。このような高倍率においては、特に光る点が明らかな提案だけがピックアップされることになり、類似のアイディアの中の1つといった提案は選ばれない。今回提案が採択されなかった申請者の方々もこれで自信をなくすことなく、ユニークなアイディアを考案して将来の競争的研究資金獲得に挑戦されるよう希望する。

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This page updated on October 31, 2002

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