新規採択研究代表者・個人研究者および研究課題概要
戦略創造プログラム
戦略目標
「非侵襲性医療システムの実現のためのナノバイオテクノロジーを活用した機能性材料・システムの創製」

  研究領域「医療に向けた化学・生物系分子を利用したバイオ素子・システムの創製」

氏名 所属機関 所属学部・
学科など
役職 研究課題名 研究課題概要
明石 満 鹿児島大学 大学院理工学研究科 教授 ナノ粒子を応用した抗レトロウイルスワクチンの開発 本研究は、優れた免疫誘導補助能を持つことが判明しているコア・コロナ型ナノ粒子を用いて、抗レトロウイルス(ヒト免疫不全ウイルスと成人T細胞白血病ウイルス)ワクチンを開発するものです。特に細胞性免疫誘導に有効な抗原を固定化した生体適合性ナノ粒子の生体内への直接、或いは膜融合リポソームを用いた投与を行います。これにより、レトロウイルス疾患の予防・治療のみならず、種々の病態細胞の排除に基づくナノ医療への展開が期待されます。
北森 武彦 東京大学 大学院工学系研究科 教授 ナノ生物物理化学アーキテクチュアの構築と応用 研究代表者らは化学システムをマイクロチップに集積する技術を開発しました。本研究では、このμmスケ-ルの化学システムに、物理化学や生物化学を活用したボトムアップナノテクを融合し、マイクロの建屋にナノのインフラを構築します。これにより、メソ・ナノ空間領域の物理化学を究明し、化学・バイオ機能の発現機序となる秩序性や階層構造を人為構築し、高度疾病センサ-や選択的機能人工臓器デバイスなど高機能化学・バイオ素子の創出を目指します。
清水 正昭 富士ゼロックス(株) 中央研究所 室長 電子細胞を目指した極微小バイオセンサーによる分子認識システムの構築 本研究では、カーボンナノチューブと生体物質を接合し、極微小で超高感度のセンサーを構築します。構築、開発したセンサ-を足がかりに、生体物質と電子回路技術を融合し、生体内で自立的に動作可能で、高効率で物質・エネルギー・情報を交換できるマイクロチップの実現を目指します。この新しいシステムは、電子的な人工細胞、いわば電子細胞(electronic-cell)とも表現すべきシステムで、医療分野、特に治療・診断の分野への展開が期待されます。
鈴木 孝治 慶應義塾大学 理工学部 教授 ナノケミカルプローブの創製とバイオ・医療計測 本研究では、化学・物理・生物・情報に関連する研究者の融合から、有機合成、バイオ、光学、電気化学、微細加工及び情報処理に関連する工学技術を巧みに利用して、ナノケミカルプローブと称する新規のバイオケミカルセンシング用プローブ(蛍光ナノミセルイメージングプローブ、アダクティブプローブ、および光・ナノ電極プローブ)を創製し、バイオ・医療計測に応用展開します。このようなナノテクノロジーを基盤とした異分野融合研究及び産学官共同研究を構築、遂行することにより、世界をリードする独創的なバイオセンシング研究を推進します。
関根 光雄 東京工業大学 大学院生命理工学研究科 教授 ゲノム制御・検出能をもつ革新的人工核酸の創製-世界最高峰の核酸合成技術を基盤にして- 本研究は塩基部位無保護DNA化学合成法や人工塩基による高精度塩基識別法などの独自に開発した新技術を基盤にこれまで不可能であった飛躍的な高性能をもつ革新的新機能人工核酸を創出するものです。これによって、さらに進んだ遺伝子診断技術や遺伝子治療法をはじめとする従来の問題点をブレークスルーした様々なバイオ関連技術を開発することができ、新しい医療・診断で大きな社会貢献が期待されます。
松岡 英明 東京農工大学 工学部 教授 疾患モデル細胞の高効率創製と機能解析 現在、膨大な遺伝情報に基づき、疾患からその原因遺伝子を求めるよりも、既知の遺伝子の改変によって生じる疾患を網羅的に調べることが強く要請されており、疾患モデル細胞は正にそれに応えるものです。本研究では、遺伝子改変試薬をマウスの卵細胞、ES細胞、体細胞を対象としてインジェクションし疾患モデル細胞を作製します。また、単一細胞操作支援ロボットを利用した細胞操作技術を確立し、一連の作業を高効率化します。遺伝子治療法開発、薬剤開発などに直結する研究成果が期待されます。
松本 和子 早稲田大学 理工学部 教授 金属錯体プローブを用いる遅延蛍光バイオイメージング 本研究では、研究代表者が開発した希土類錯体蛍光ラベル剤に、時間分解蛍光顕微鏡を組み合わせて、生細胞における生命現象の観測システムを構築します。本法により、細胞の自家蛍光が大幅に低減され鮮明な画像が飛躍的に長時間(数分から数十分)にわたり観測可能となります。多くの生命研究のツールとして使えますが本研究ではmRNAのイメージングを目標としており、FRETを利用した遺伝子解析法としての応用も期待されます。日本発の独自の技術として世界に発信できる知的財産の形成が期待されます。

総評 : 研究総括  相澤 益男(東京工業大学 学長)
「ナノテクノロジーによる新しい医療技術の創製を目指して」
 いよいよナノテクノロジーが医療の分野でも実際に利用される兆しを見せてきた。本領域の募集も2年目を迎え、領域名を「医療に向けた化学・生物系分子を利用したバイオ素子・システムの創製」と改めて、医療分野に応用できる可能性を持った技術に絞り込んで募集を行った。(旧領域名:「化学・生物系の新材料等の創製」)
 この募集に対し、国公私立大学のみならず国公立研究機関、民間企業の研究者から87件の応募があった。これらは、非常に多岐にわたる興味のある提案であった。提案は、DDSに関連するもの、検査用のプローブ、センサ等素子に関するもの、遺伝子操作に関するもの等々とバラエティーに富んだものであった。提案者の所属をみると、国公私立大学66件、国公立研究機関17件、民間企業4件であった。
 これら87件の提案について、研究総括と6名の領域アドバイザーで書類審査を行い、出来るだけ多くの研究者から話を聞くため、15件を選定して、面接を行った。
 面接では、ナノテクノロジーの意義が明確になっているもの、独創性、新規性、医療に結びつくかどうかを主な着眼点として、研究の進め方、研究体制等について質疑応答を行い、提案課題の採択に関する検討を行った。
 最終的に、7件を採択することになった。これらの提案は、各々特徴があり、研究成果が科学技術・学術的に及ぼす影響も大きいものと期待している。不本意ながら、採択に至らなかった提案の中には、非常に優れたものであるが、領域の主旨からやや離れているものや、戦略が明確に示されていないものなどがあったが、領域の主旨を十分に汲み取り、明確な戦略を立ててからの提案を期待したい。なお、今回は民間の研究者からの提案が1件採択できた。これは、この分野が研究の広がりのみならず、奥行きも深くなってきていることを意味しているものと受け止めている。

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This page updated on October 31, 2002

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