新規採択研究代表者・個人研究者および研究課題概要
CRESTプログラム
戦略目標
「水の循環予測及び利用システムの構築」

  研究領域「水の循環系モデリングと利用システム」

氏名 所属機関 所属学部・
学科など
役職 研究課題名 研究課題概要
太田 岳史 名古屋大学 大学院生命農学研究科 教授 北方林地帯における水循環特性と植物生態生理のパラメータ化 北方林は緯度45°~70°と広範な地域に成立しており、世界の気候変動に大きな影響を与えます。高緯度森林帯の環境因子に対する応答特性の地域性を、水・エネルギー・炭素循環特性の面から明らかにし、他地域よりも著しいと言われている当該地域の気温上昇が、水循環変動、ひいては日本・世界の気候変動に与える影響を予測するための基礎データを得ます。
岡本 謙一 大阪府立大学 大学院工学研究科 教授 衛星による高精度高分解能全球降水マップの作成 熱帯降雨観測衛星(TRMM)搭載の降雨レーダ、マイクロ波放射計等の観測データにより降水強度の観測精度は向上してきましたが、水循環モデリングに必要な全球での降水量分布とその変動データは十分な精度ではありません。本研究では、新しい降水物理モデルに基づいた降水強度推定アルゴリズムを開発し、複数の衛星データを用い全球の高精度、高分解能降水マップを作成、全球降水分布の変動を解明し、長期水資源管理の基礎資料を得ます。
神田 学 東京工業大学 大学院理工学研究科 助教授 都市生態圏-大気圏-水圏における水・エネルギー交換過程 本研究が目的とする「都市生態圏強制力モデル」の構築は、都市域の水循環系とエネルギー循環系とを1つのフローとして捉えるところに特長があります。本研究により、大都市圏の大気圏・陸域・沿岸域における水・エネルギーの交換過程が明らかにされ、水循環とエネルギー循環を一体とした解析ならびに予測の精度を大きく向上させることが期待されます。
丹治 肇 農業工学研究所 水工部河海工水理研究室 室長 国際河川メコン川の水利用・管理システム メコン川流域の水循環の特徴を配慮しつつ、持続可能な水利用のルール化の検討、社会制度の検討、政策提言の検討を進めます。検討に当たっては、従来不足していた自然科学的側面を配慮した政策実現性を強く意識し、合わせて社会科学的な面から持続可能な水利用システムの探索と提言を行い、メコン川流域の水問題に対して貢献します。このメコン川の事例からの基礎的な知見は、需要の抑制、水資源の再配分、平等性等の解決に対して有益な情報源として21世紀の世界の水資源問題に貢献します。
船水 尚行 北海道大学 大学院工学研究科 助教授 持続可能なサニテーションシステムの開発と水循環系への導入 2035年には約55億人が衛生状態の悪い状態での生活を余儀なくされると推定されています。水資源不足、飲料水の量的・質的不足、水環境の悪化はサニテーション問題と密接な関係にあります。非水洗トイレによるし尿の水循環からの分離とコンポスト化による物質循環ルートの確立を狙いとし、分離と分散をキーワードとした持続可能なサニテーションシステムを提案します。これにより、アジアの開発途上国の社会基盤施設整備計画立案に貢献し、実質味のある国際援助への道を日本発の技術により開くことが可能となります。
古米 弘明 東京大学 大学院工学系研究科 教授 リスク管理型都市水循環系の構造と機能の定量化 今後の水資源不足の深刻化を想定すると、都市自己水源である雨水や涵養地下水や再生水の利用をさらに推進することが望まれていますが、それには多種多様なリスクが想定されます。そのため、望ましい都市水循環系の構築には、水質リスクを理解して、それを管理・制御することが求められます。本研究では、流域外からの水を含めた都市域での水収支、リスク発現物質の動態把握、水質リスク評価を行い、都市域水循環系の本来あるべき構造や有すべき機能を定量的に評価します。

総評:研究総括 虫明功臣 (東京大学 生産技術研究所 教授)
「水循環の諸過程の科学的解明と予測に基づいた、持続的な水の利用システムの構築を目指して」
 この研究領域は、本年度が第2回目の公募であった。
 前世紀後半から始まった急激な人口増加と人間活動の拡大にともなう世界的な水問題、すなわち、飲料水の不足、食糧生産のための水需要の増大、水環境の劣悪化、水災害の激化、さらには気候変動にともなう地球規模での水資源分布の変化などは、今世紀にわたってさらに深刻さを増すと懸念されている。この研究領域では、こうした問題の解決に向けて、地球規模から地域規模まで様々なスケールにおける水循環とそれにともなう物質循環の諸過程に関する科学技術的解明と予測を基礎として持続可能な水の利用システムを考究する研究を応募の対象としている。特に、世界の水問題、とりわけアジアの水問題の解決に資する研究提案が期待されている。
 第2年度目の本年度は合計33件の応募があり、その内訳は、国公私立大学から27件、国公立研究機関から4件、民間企業から1件、その他1件であった。提案の内容は、水循環系・物質循環系・生態系に関する計測技術・評価法の開発、新たな水処理技術の開発、地球規模あるいは流域規模での水循環情報基盤システムの開発、衛星センサーの新たな利用による全球高精度降水マッピング、気候条件・土地条件別のグローバルな農業灌漑・排水特性の把握など、水循環系モデリングと水利用システム構築の前提となる基礎的研究課題から、熱帯林あるいは北方林の水・熱・炭素循環に関するデータ集積とモデリング、大都市圏や都市河川流域あるいは特定地域における人間活動の影響を含む水循環モデリングなど、現象の解明に基づくモデリングを中心とする研究、そして、気象予測精度の向上と水管理への応用、地下水に焦点を当てた水利用システム、水質リスク評価を含む流域水循環系管理システム、アジア開発途上国を対象とした水処理技術と水利用システム、国際河川流域の水利用・管理システムなど、問題解決を重視した研究と広い範囲をカバーしている。海洋を対象とする2件の提案を除いて、いずれも本研究領域の主旨に沿った意欲的な提案であったといえる。
 それらの提案の中から、本領域の主旨に合致し、特に優秀で独創性と実行性のある6件が採択された。採択された課題を敢えて「現象解明型」と「問題解決型」に分類すると、衛星マイクロ波データの利用と新たな降水物理モデル開発による全球降水マップの作成、北方林地帯の水・熱・炭素循環系のパラメータ化、および東京首都圏など大都市を対象に都市生態圏と大気圏と水圏における水・熱交換/循環過程を一連のフローとして捉えるモニタリングとモデリングの3課題が前者に当たり、国際河川メコン川流域の主に農業・水産業に重点を置いた水利用・管理システム、資源還元型のサニテーションシステムの開発とアジア途上国都市へのその適用性、および水質リスク評価に基づく都市域の自己水源活用を含む水循環システムの3課題が後者に当たる。結果として、前年度の採択課題と合わせ、この研究領域における基礎的研究と応用的研究の重要な分野をバランスよく採択できたと考えている。いずれの研究課題も世界の、とりわけアジアの水問題の理解と解決に向けて、日本から発信できる貴重な成果が期待できる。
 来年度も引き続き意欲的な研究の提案を期待したい。

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This page updated on October 31, 2002

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