新規採択研究代表者・個人研究者および研究課題概要
CRESTプログラム
戦略目標
「新しい原理による高速大容量情報処理技術の構築」

  研究領域 「情報社会を支える新しい高性能情報処理技術

氏名 所属機関 所属学部・
学科など
役職 研究課題名 研究課題概要
木下 佳樹 (独)産業技術総合研究所 情報処理研究部門 情報科学研究グループ長 検証における記述量爆発問題の構造変換による解決 ソフトウェア検証における現在の大きな課題は、記述の量が爆発的に増大する大規模システムの検証です。検証技術の一つに、数理モデルを使用して、ソフトウェアが仕様を満たすことを論理的な推論によって検証する技術があります。本研究では、函手意味論を指導原理とした抽象化に関する基本的な数理モデルを、実行途中の反応によって表現されるシステムおよび実時間システムに適用し、ソフトウェアの意味構造を段階的に変換することによって、検証における記述量爆発問題の解決を図ります。さらにこの数理モデルを用いて、定理証明とモデル検査を融合した大規模システム検証の具体的な手法を構築します。
坂井 修一 東京大学 大学院情報理工学系研究科 教授 ディペンダブル情報処理基盤 コンピュータとインターネットを中心とする情報システムが重要な社会基盤のひとつとなるにつれ、そのディペンダビリティ(信頼性、保全性、安全性)の確保が大きな課題となっていますが、今の情報処理環境は特定の目的に適合するように作られており、真にディペンダブルなシステムを形成しているとは言い難い状況です。本研究では、アーキテクチャ、ソフトウェア、ネットワークのそれぞれの分野でディペンダビリティ向上のための要素技術開発を行うとともに、それらを統合した情報インフラ全体に渡る基盤技術の確立を目指します。
寅市 和男 筑波大学 電子・情報工学系 教授 フルーエンシー情報理論にもとづくマルチメディアコンテンツ記述形式 シャノンの情報理論を一般化した次世代情報理論であるフルーエンシ標本化理論は、アナログ信号とそれを標本化したディジタル信号との間に、より柔軟な対応関係を定義することが可能です。本研究は、このフルーエンシ理論に基づき、通信システムにおいて、時間波形から映像までを、高精度且つ低容量で符号化・復号化する技術の確立を目的とし、また、これらマルチメディア情報を統一的に扱うことができる記述方式として実装することを目的とします。
武藤 俊一 北海道大学 大学院工学研究科 教授 量子情報処理ネットワーク要素技術 量子計算機については、種々の形態が提案されていますが、それらを光量子で繋いだネットワークを形成できれば、それぞれの量子計算機の特徴を活かした分散処理が可能になります。本研究では、量子計算機の光ネットワークへの結合のための要素技術の構築を行います。量子中継器が実現すれば、量子暗号通信など量子通信距離の飛躍的増大が期待できます。さらに大規模な量子コンピューティングに拡張できれば、量子科学技術計算などの飛躍的な発展が期待できるだけでなく、情報処理のパラダイムシフトに結びつく可能性があります。

総評:研究総括 田中 英彦(東京大学大学院情報理工学系研究科 研究科長)
「革新的な情報処理技術を目指して」
 研究領域「情報社会を支える新しい高性能情報処理技術」は、本年度は昨年度に引き続き第二回目の募集を行った。
 現在は情報の果たす役割の高い社会であるが、今後はますますその傾向が強まることが予想される。特にその利用者は一部の人に限られずあらゆる人々である。また扱う情報の種類も文章や数値だけに留まらず、音、画像など様々なものがあり、高速インターネットの発展により、それらを迅速にやり取り可能である。従って、情報処理技術に対する要求も従来になく幅広く、また厳しいものがある。新たな科学技術研究の必須ツールとしての超高速性、膨大な情報を蓄積処理する大容量性、あらゆる人々が情報システムに頼って生活するための信頼性、人々が安心してシステムを使えるための安全性、変化する処理需要や機器に対応し易い適応性、生涯に渉って使うことを可能にする継続性など様々な要求がある。
 この研究領域は、このような要求を満たすための情報処理技術を対象としており、従来のコンピュータシステムを新たな時代の要求に合わせて変革するための抜本的な要素技術として、コンピュータ性能を飛躍的に向上させる要素技術、システムの安全性や信頼性を抜本的に向上させる技術、大負荷に耐えられる大容量システム技術の他、量子コンピューティングや分子コンピューティングのように全く新しい原理に基づく処理技術を対象としている。
 本年度の募集に対し、大学や研究機関から、システムの安全性や信頼性を向上させる技術の研究、高性能大容量コンピュータシステムに関する研究、マルチメディア情報処理に関する研究、量子コンピューティングや光コンピューティングなどの要素技術に関する研究、など計19件の興味深い提案があった。これらの提案を7人の領域アドバイザと共に書類選考を行って、領域の主旨に沿った成果が期待できる提案の内、特に優れた研究提案12件を面接対象として選定し、それらに対し面接選考を行った。面接選考では、新規性と妥当性、トータルシステムへの展開イメージ、競合技術との関係、目指す到達点等を重点として検討を行い、その成果が学問的な貢献に止まらず、将来の情報社会や産業界へのインパクトが大きいと考えられる研究提案を選定した。
 選考の結果、高信頼性情報処理基盤、マルチメディアコンテンツの記述、量子情報処理、ソフトウェア検証に関する計4件の提案を採択した。今後、これらの研究が推進され、情報社会へ大きな貢献が為されることを期待したい。なお、この他にも興味深い提案があったが、採択できず残念であった。来年度ももう一度募集を行うので、引き続き優れた研究提案を期待したい。

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This page updated on October 31, 2002

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