新規採択研究代表者・個人研究者および研究課題概要
戦略創造プログラム
戦略目標
「医療・情報産業における原子・分子レベルの現象に基づく
精密製品設計・高度治療実現のための次世代統合シミュレーション技術の確立」

  研究領域「シミュレーション技術の革新と実用化基盤の構築」

氏名 所属機関 所属学部・
学科など
役職 研究課題名 研究課題概要
青木 百合子 広島大学 大学院理学研究科 助教授 超効率的高分子物性機能計算システムの開発 量子化学計算は、小さい分子に対して有効ではあるものの、生体高分子等巨大系に適用することは困難です。本研究は、効率的な電子状態計算が可能なElongation法を、量子化学的機能・物性解析方法を組み合わせることにより、機能性高分子の分子設計統合システムの構築と、その関連ソフトウエアを開発するものです。本ソフトウエアは機能性高分子等の分子設計の助けとなり、材料開発の大幅なコスト削減が期待できます。
今田 正俊 東京大学 物性研究所 教授 相関電子系の新しい大規模計算アルゴリズム 新物質探求や次世代のエレクトロニクス開発の展望を切り開くために、物質中の電子の示す挙動をミクロなレベルから解明するための信頼性の高いシミュレーションが不可欠となっています。本研究はこれまで取り組んだ経路積分繰り込み群法を核として、複雑な系のハイブリッド型大規模計算手法とシミュレーション技術を開発するものです。本研究により、電子間クーロン相互作用とそれに伴って生じるゆらぎの定量的な取り込みが可能となり電子相関効果が大きい系での応用が期待できます。
越塚 誠一 東京大学 大学院工学系研究科 助教授 粒子法によるマルチフィジクスシミュレータ 連続体の運動を離散粒子群の運動によって近似する粒子法は、複雑な境界面に柔軟に対応でき、連続体の連成シミュレーションに有効です。本研究ではマイクロスケールに適用できる多相流体解析を粒子法により確立し、流体・構造連成解析手法の開発を目指すものです。また本解析手法に基づき、汎用マルチフィジクスシミュレータの開発を行います。将来的には、熱、化学反応、電磁場等の連成解析機能を整備し、統合的な解析ツールの開発を目指します。
斎藤 公明 日本原子力研究所 計算科学技術推進センター 主任研究員 放射線治療の高度化のための超並列シミュレーションシステムの開発 本研究は、放射線がん治療を対象として、詳細人体モデルと電磁カスケード・モンテカルロ法を用いた超並列計算により、患者に与えられる線量を短時間に高精度で計算し、治療を支援するシステムを開発するものです。さらに、高度な放射線治療を実現するために、本システムを強度変調型放射線治療(IMRT)やCT集光治療へ適用する研究を行うとともに、レーザー駆動陽子線治療を実現するための計算システムの構築と検討を実施します。
土井 正男 名古屋大学 大学院工学研究科 教授 多階層的バイオレオシミュレータの研究開発 これまでの生体現象のシミュレータは、血液流動や骨の変形などのマクロな階層に着目するものでしたが、本研究は細胞の集合体である生体組織に着目し、新たにメゾ階層(中間階層)の現象を扱うシミュレータ群を開発し、生体組織の中の物質透過・変形・成長などの現象に対するマルチスケール・マルチフィジクスシミュレーションを構築するものです。本研究の成果は、再生医工学を始めとする先端的治療法の開発に役立つことが期待されます。
中嶋 隆人 東京大学 大学院工学系研究科 助手 相対論的分子理論プログラムの開発 超伝導、半導体などの新しい機能・特性の発現を目指して、研究者の取り扱う物質は幅広い種類の原子を含む分子系へと広がりを見せています。本研究では相対論的分子理論に基づき、大規模な分子系を高精度で取り扱うことができる理論化学の構築を行い、次世代の分子軌道法プログラムの開発・公開を行います。従来の理論およびプログラムと比べ、2桁以上の計算精度向上を目指します。
中村 佳正 京都大学 大学院情報学研究科 教授 特異値分解法の革新による実用化基盤の構築 行列の特異値計算・特異値分解は様々な情報処理、情報検索の基礎となる重要な線形数値演算です。本研究では、従来より高速高精度の新しい特異値計算・特異値分解アルゴリズムである可積分アルゴリズムを提案し、標準ソフトウエアパッケージを開発します。本アルゴリズムの実証実験では100万次元行列に対して約60%少ない計算量で特異値が得られており、広い分野でのシミュレーション技術の適用が期待できます。
西田 晃 東京大学 大学院情報理工学系研究科 助手 大規模シミュレーション向け基盤ソフトウェアの開発 高速ネットワーク環境の発展に伴い、今後は大規模アプリケーションについて各種資源をネットワーク上で共有し、オープン環境で研究開発を行う機会が増えてきます。本研究は従来から個別に作成されてきた数値シミュレーションに必要な計算手法やアルゴリズムに関する基本的なライブラリを整備し、並列数値計算を可能とする標準的なソフトウエア基盤を構築することを目指すものです。
松本 純一 (独)産業技術総合研究所 計算科学研究部門 特別研究員 マイクロ流体デバイス開発のための流体-構造連成共振現象逆解析 マイクロ流体デバイスは医療・情報産業への応用が期待されています。本研究は流体-構造連成問題の共振現象に着目し、共振をうまく利用して小さな変位のアクチュエータ源で固体(壁)を動かし流体を大きく動かすことを可能にする共振制御解析を行い、大規模並列三次元解析法にて、その有効性を検証するものです。本研究の成果は解析プログラムとして公開する予定であり、近い将来のマイクロ流体デバイスの実用化に資することが期待されます。
室田 一雄 東京大学 大学院情報理工学系研究科 教授 離散・連続複合系の分散最適化シミュレーション 大規模分散システムの最適化シミュレーションは近年その重要性を増してきています。本研究は協調関係のない独立なコンポーネントから成り、数理モデル全体の詳細が把握できないような分散的状況にある大規模システムに対して数理的基礎となるアルゴリズムを確立し、離散・連続複合系の分散最適化シミュレーション技術を実現するものです。本研究の成果は分散的状況をシミュレートする医療・工学システムなど、実用化ソフトウエア開発への貢献が期待されます。
山本 量一 京都大学 大学院理学研究科 講師 ハイブリッド型分子動力学シミュレーションの開発 コロイド溶液や懸濁液など、ソフトマターの分野には理論的な取り扱いの難しいものが多く、シミュレーションによる現象の解明が望まれています。本研究はこれらのソフトマターに対して、スケールの異なる自由度の間の相互作用を正確に、かつコンピュータが扱いやすい形で実現できるハイブリッド型MDシミュレーションを提案し、プロトタイプとしていくつかの問題に対してその有効性を検証します。将来的に水中の生体分子、膜や界面が関与する問題等、他の問題への応用が期待でき、ソフトマターの物性研究におけるブレークスルーを目指します。
劉 浩 理化学研究所 情報環境室 先任研究員 生物型飛行の力学シミュレータの構築 これまで昆虫の飛行メカニズムの研究は、羽ばたきロボットを用いて行われていますが、静止飛行に限られており、急旋回などの自由飛行については未解決のままです。本研究は昆虫の羽ばたき飛行を厳密な幾何学、運動学及び力学のモデルに基づき解析し、静止・前進・旋回を含むすべての自由飛行を再現できるシミュレータの構築を目指すものです。本研究成果のシミュレータを使うことで、小型飛行体の研究開発に革新的な設計指針や技術提供を行うことが期待されます。
渡邉 聡 東京大学 大学院工学系研究科 助教授 ナノ物性計測シミュレータの開発 ナノ構造およびナノスケール局所領域の物性計測は今後ますます重要になると考えられますが、プローブや外場との強い相互作用のため、計測結果の解釈は困難なものになっています。本研究は、バイアス電圧などの電気的刺激を与えるナノ物性計測の計測データから高い信頼性で物性を予測するための解析技術の確立を目指し、計測量そのものの計算と局所物理現象を解析する計算法により、実用的ナノ計測シミュレータを開発します。

総評:研究総括 土居 範久(慶應義塾大学理工学部情報工学科 教授)
「シミュレーション技術の革新と実用化基盤の構築」研究領域は本年度から募集を開始した研究領域である。
 シミュレーション技術は、従来の理論・実験とは異なる新しい研究手法を実現し、科学技術のブレークスルー・国際競争力の強化に資する基盤技術として、その重要性が高まっている。
 しかし、さらなる技術の発展のためには、シミュレーションや可視化のための新しいアルゴリズムの開発、高機能・高性能でしかも信頼性や安全性の高いシステムの開発が必要である。
 本研究領域は、計算機科学と計算科学の連携によるシミュレーション技術の革新と、信頼性や使いやすさを視野に入れた実用化の基盤を築くことを目標としている。具体的には、ミクロからマクロに至る様々な現象をシームレスに扱える新たなシミュレーション技術、また、計算手法の飛躍的な発展の源となる革新的なアルゴリズムの研究や、基本ソフト、情報資源を取り扱いやすくするためのプラットフォームあるいは分野を越えて共通に利用できる標準パッケージ等を対象としている。
 本研究領域の提案に対し、個人研究型17件、ポスドク参加型21件、チーム研究型39件の計77件の応募があった。これらの提案を8人の領域アドバイザーと共に書類選考を行い、特に内容が優れた提案を面接対象として選考した。面接選考においては革新的技術シーズの創出を目指した基礎的研究を念頭に、研究のねらい、新規性、独創性、研究計画、研究実施体制などの観点から検討を行った。特に、分野横断的な共通基盤に寄与する研究開発を含む、シミュレーション技術の革新と実用化基盤の構築に貢献が期待できる研究提案を重視した。
 選考の結果、個人研究型3件、ポスドク参加型5件、チーム研究型5件の計13件を本年度の採択とした。医療、生体、物質、材料などの幅広い分野からの採択結果となり、将来の医療・情報産業分野の研究開発促進への貢献が十分に期待できるとともに、10年程度後の「ものづくり」に役立つ次世代統合シミュレーション技術の確立に貢献できる実用化基盤研究として大きな成果が期待できる。

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This page updated on October 31, 2002

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