新規採択研究代表者・個人研究者および研究課題概要
戦略創造プログラム
戦略目標
「がんやウイルス感染症に対して有効な革新的医薬品開発の実現のための糖鎖機能の解明と利用技術の確立」

  研究領域「糖鎖の生物機能の解明と利用技術」

氏名 所属機関 所属学部・
学科など
役職 研究課題名 研究課題概要
伊藤 幸成 理化学研究所 細胞制御化学研究室 主任研究員 糖タンパク質の品質管理における糖鎖機能の解明 タンパク質が正常な機能を発現する上で、正しい立体構造の獲得と細胞内輸送が必要不可欠です。これらを司る細胞内タンパク質品質管理機構の解明は、ポストゲノム時代の重要な課題であるのみならず、プリオン病やアルツハイマー病との関連においても注目を集めています。本研究は、糖鎖及び糖タンパク質の精密合成、細胞内レクチン/シャペロンと糖鎖との相互作用解析を分子生物学的手法と組み合わせて、タンパク質品質管理機構における糖鎖の役割を分子レベルで理解することを目指します。
神奈木 玲児 愛知県がんセンター 分子病態学部 部長 癌の進展における細胞接着性機能糖鎖の解明 糖鎖が機能性分子としてがんの進展で主役を演じる局面を解明し、新利用技術を開発してがんの診断・治療に展開応用します。糖鎖の機能には細胞識別機能とシグナル分子機能の二つがあります。セレクチンと糖鎖リガンドを介したがん細胞の接着においては糖鎖の細胞識別・接着機能が良く発揮されており、がん細胞の CD44-ヒアルロン酸シグナル伝達系においては糖鎖のシグナル分子としての機能が良く発揮されているので、この両者のがん進展との関わりを研究します。
木曽 真 岐阜大学 農学部 教授 感染と共生を制御する糖鎖医薬品の基盤研究 ウイルスや病原性細菌の感染および細菌毒素の侵入は、多くの場合、宿主細胞が持つ糖鎖への付着により開始されます。また有用な腸内細菌が体内に止まるための足場も糖鎖複合体です。本研究では、これら糖鎖を介した相互作用の制御を目的として、化学合成法と酵素合成法を駆使することにより、天然型や非天然型の様々な糖鎖複合体を創製します。さらに感染症の抑制あるいは有益な共生の促進効果を持つ糖鎖医薬品の開発を目指します。
小山 信人 タカラバイオ(株) バイオ研究所 主任研究員 糖鎖構造の制御による癌及びウイルス疾患の予防法及び治療法の開発 糖転移酵素であるGnT-IIIの遺伝子が発現すると、B型肝炎ウイルスの発現やガンの転移が抑えられることがすでに明らかになっています。本研究ではそのメカニズムを解明し、GnT-IIIによって糖鎖転移を受ける未知の機能性タンパク質を見つけだし、そのタンパク質を抗ウイルス剤や抗がん剤として利用することを目指します。さらにヒト型GnT-IIIを用いたガンと肝炎の幹細胞遺伝子治療法の開発を目指します。
鈴木 康夫 静岡県立大学 薬学部 教授 ウイルス感染における糖鎖機能の解明と創薬への応用 変異しやすいウイルスの新興・再興、高齢化社会におけるウイルス感染症の拡大、地球温暖化による熱帯ウイルス感染症の拡大は、今世紀の重要問題です。本研究では、「糖鎖ウイルス学」の観点から、糖鎖機能によるウイルス感染症の克服研究を遂行します。ウイルス感染過程における糖鎖の役割を解明し、創薬へと結びつけます。インフルエンザウイルス、HIV、デング、パラインフルエンザウイルス等の重要ウイルスを研究対象とします。
西原 祥子 創価大学 生命科学研究所 教授 RNAi法による糖鎖機能解明と利用技術の開発 ショウジョウバエをモデル系としてヒトの基本的糖鎖機能の生理機能を解析します。ハエでは誘導型RNAi変異体システムが新規に開発されており、多数の遺伝子を短時間に解析することができます。また、ヒトの糖鎖関連遺伝子の6割がハエで保存されており、基本的糖鎖の機能解明が可能です。ハエの結果を基にヒト培養細胞系で解析し、RNAi技術を含む研究成果をヒトの遺伝病や癌、感染症などの解析や治療へ応用する事を目指します。

総評:研究総括 谷口直之(大阪大学医学系研究科 教授)
「糖鎖生物学の基礎的研究から研究成果の社会への還元をめざして」
 ヒトのゲノム構造がほぼ明らかになり、いわゆるポストゲノム研究が21世紀のライフサイエンスの中心的課題のひとつです。そのなかでもタンパク質の糖鎖による修飾反応は、翻訳後修飾のなかで最も多く、タンパク質の機能や構造に大きな影響を与えることがわかってきました。わが国は伝統的に糖鎖科学の研究で世界のトップランナーであり、事実、糖鎖を合成する糖鎖遺伝子の50%以上はわが国の研究者によりクローニングされたものです。
 このような時期に糖鎖生物学を中心にした本テーマによる公募が行われたことはわが国の科学技術の発展にとって大変望ましいことと考えます。本研究テーマには57件の提案があり、提案された研究計画の第1次審査は6名の領域アドバイザーの方々にお願いし、そのなかから15件につき第2次審査を行いました。研究の独創性、とくに欧米追従型でない研究かどうか、国際的な位置づけはどうか、研究体制の妥当性、さらに将来の社会への還元につながる基礎的研究かどうかを多面的に審査し、その結果6名の提案を採用しました。いずれもこれまでの優れた実績の上に今後の成果が期待される提案であり、今後の糖鎖科学の発展にも多大な貢献が期待される研究です。一方で、採択には至りませんでしたが、多くの優れた提案も数多くみられました。審査にあたっては、いわゆるConflict of Interest(利害関係)を排除し、厳正におこなわれたことを申し添えます。また、採択された研究代表者は他の大型予算との重複もなく、本研究に専心して成果をあげることが期待されます。

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This page updated on October 31, 2002

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