本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。
高い飽和磁束密度と優れた軟磁気特性を兼ね備えた新材料の要望 |
磁気応用デバイス用の材料としては高い飽和磁束密度と優れた軟磁気特性を兼ね備えた材料が好ましいが、従来はこのような材料がないため、ケイ素鋼、フェライト、鉄基及びコバルト基非晶質合金などが使用されている。これら材料のうち、比較的良好な特性を持つとされる鉄基非晶質合金でも、約1.5T(テスラ)の高い飽和磁束密度を持つ反面、磁歪(強磁性体が磁化するときに外形が変化する現象)が大きいために透磁率が数千のオーダーであり低い。これに対し、コバルト基非晶質合金の透磁率は数万で高いが、飽和磁束密度は1T以下であって、飽和磁束密度と軟磁気特性の両方の特性に優れた材料開発は困難とされていた。これは、大きな飽和磁束密度は合金の鉄濃度が高い場合に得られ、また、高い透磁率は磁気異方性(磁性体が磁化しやすい方向を持つ現象)と磁歪が小さい場合に得られることによる。
それに対し、平成2年に本研究者らは、鉄濃度の高い非晶質合金である鉄・遷移金属系材料を熱処理し、ナノメーターサイズの微細な鉄結晶(ナノ結晶)を均一分散析出させることにより、高い飽和磁束密度と共に優れた軟磁気特性を兼ね備える特性を見出した。さらに、この合金の磁心損失が鉄基、コバルト基非晶質合金、および、その他の軟磁性合金よりも非常に少ないことを確認した。
鉄・遷移金属系合金を500〜700℃で熱処理し鉄の微細結晶を析出 |
本新技術は、鉄にジルコニウム、ニオブなどの遷移金属を少量加えた合金組成を用い、厚さ10〜20μmの非晶質合金薄帯を得た後、一定時間熱処理して、ナノメーターサイズの鉄結晶を非晶質相中に均一に析出させることにより、高い飽和磁束密度と優れた軟磁気特性を兼ね備えた合金を得るものである。
本新技術による鉄・遷移金属系ナノ結晶合金は、80%を越える高い鉄濃度を有するために1.5T以上の高い飽和磁束密度を持つが、同時に、本質的には大きな磁気異方性を持つと考えられ、優れた軟磁気特性を得るのは困難であると考えられる。しかし、結晶粒径が5〜15nmと非常に微細であることに起因して、実効的な磁気異方性が小さくなる。また、少量加えたジルコニウム、ニオブなどは、非晶質相中にほとんど残留するが、極微量がナノ結晶中に固溶するために磁歪が低くなる。これらの結果、高い飽和磁束密度と優れた軟磁気特性の両立を可能にしているものと考えられている。
以下に、鉄・遷移金属系ナノ結晶合金の製造プロセスを示す。
@ | 母合金の作製 |
鉄にジルコニウム、ニオブ等を所定量加えて真空溶解し母合金を作製する。 | |
A | 薄帯の形成 |
真空容器中で母合金を溶解し、その溶湯を冷却した銅製ロータに吹き付けて厚さ10〜20μmの非晶質合金薄帯を得る。 | |
B | ナノ結晶化 |
薄帯もしくはその成形部品を不活性ガス雰囲気中で熱処理し、粒径10nm前後のナノ結晶を均一に析出させる。 |
こうして得られる鉄・遷移金属系ナノ結晶合金(Fe-M-B系合金、M=Zr,Nb,…)は、飽和磁束密度 1.5〜1.7T(テスラ)、透磁率 最大160,000(入力周波数:1KHz)、磁心損失80W/kg以下(入力周波数:100KHz、最大磁束密度:0.2T)、250W/kg以下(入力周波数:200KHz、最大磁束密度:0.2T)という高い飽和磁束密度と優れた軟磁気特性を両立した磁気特性を持つ。
スイッチング電源、ノイズフィルタなどの磁心の小型化、高性能化に寄与 |
本新技術による鉄・遷移金属系ナノ結晶軟磁性合金は、
(1) | 高い飽和磁束密度と優れた軟磁気特性(透磁率、保磁力など)を兼ね備える。 |
(2) | 数百kHzまでの広い周波数領域でも磁心損失が小さい。 |
などの特徴を持つため、
(1) | 電子機器 : | スイッチング電源用トランス・チョークコイル、ISDN用パルストランス、ノイズフィルタなどの磁心材料 |
(2) | 電磁シールド: | 電子機器用シールドなど |
(3) | センサ : | 磁気センサ、電流センサなど |
などに、本材料の利用が期待される。
(注)この発表についての問い合わせは以下のとおりです。
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管理課 中田一隆[電話(03)5214-8996]
アルプス電気株式会社 広報・秘書室
広報グループ 小野昭博[電話(03)5499-8001]
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