科学技術振興事業団報 第267号
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「テロメア凝縮を区切る酵素を発見」

−細胞寿命の人工制御に道−

 科学技術振興事業団(理事長:沖村憲樹)の創造科学技術推進事業の研究プロジェクト「堀越ジーンセレクタープロジェクト」(総括責任者:堀越正美、東京大学分子細胞生物学研究所助教授)において、染色体の末端(テロメア)付近で起こる染色体凝縮が他の領域に広がらないように染色体を区切る酵素(Sas2)を世界で初めて発見した。この発見は、細胞老化の解明やがんの治療薬等の開発につながることが期待される。この研究成果は、同プロジェクトカスケードグループの木村暁研究員と梅原崇史研究員らによって得られたものであり、11月10日付の米国科学雑誌「ネイチャー・ジェネティクス」に発表されるが、印刷版に先立ち10月15日に同誌のホームページ上に公開される。

 染色体には「生命の設計図」となる遺伝情報がコードされている。また、染色体の末端にはテロメアと呼ばれる構造体が存在する。テロメアは、細胞の分裂回数を規定すると考えられ、ゲノムの損傷を防ぐために通常の染色体領域より凝縮した複雑な構造をとっている。このため、テロメアの近くに存在する遺伝子は「眠って(=抑制されて)いる」が、染色体上で遺伝子の「眠っている」領域と「起きて(=発現して)いる」領域の境目がどのように形成されるのか、そのメカニズムは解明されていなかった。
 同プロジェクトでは、「ジーンセレクター」と名付けた遺伝子発現制御因子の発見を通して染色体構造を解析してきたが、今回、「ジーンセレクター」の1種としてSas2という酵素を発見し、この酵素がテロメア付近のコアヒストン(注1)にアセチル基を結合することによって、染色体の凝縮がテロメアから他の領域に広がらないように防ぐ役割があることを見出した。これまでの研究ではテロメアの凝縮に関わる蛋白質は数多く知られていたが、その凝縮が他の領域に広がらないように区切る仕組みはわかっていなかった。今回の研究によって、テロメアを凝縮させるのに働くSir2と呼ばれる酵素とのバランスを通して、Sas2が染色体上に「境目」を作っている仕組みが明らかとなった。
 テロメアは、がんなどの不死化した細胞やクローン動物などで異常があることが知られている。本研究でテロメア周辺の染色体の構造形成の仕組みを明らかにしたことにより、細胞寿命の制御やがん細胞の分裂異常の原因解明などの応用展開につながるものと期待される。

[用語説明]
注1コアヒストン
コアヒストンはH2A、H2B、H3、H4の4つの蛋白質が2つずつ集まった複合体であり、DNAをその分子表面に巻きつける性質がある。ヒトを始めとする真核生物の染色体は、遺伝情報物質であるゲノムDNAが凝縮した構造体となっているが、この凝縮構造はDNAがコアヒストンに巻きつくことによって起こっている。

[補足説明] 別紙参照

本件問い合わせ先:

梅原 崇史(うめはら たかし)
 科学技術振興事業団 創造科学推進事業
 堀越ジーンセレクタープロジェクト 研究員
 TEL:0298-47-9357 FAX:0298-47-9358

長谷川 奈治(はせがわ たいじ)
 科学技術振興事業団 戦略的創造事業本部
 特別プロジェクト推進室 調査役
 TEL:048-226-5623 FAX:048-226-5703


This page updated on October 14, 2002

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