科学技術振興事業団報 第263号
平成14年10月8日
埼玉県川口市本町4-1-8
科学技術振興事業団
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「多剤排出タンパク分子の立体構造ついに決定」

 科学技術振興事業団(理事長 沖村 憲樹)の戦略的創造研究推進事業の研究テーマ「異物排除の分子基盤」(研究代表者:杉山雄一東京大学教授)の研究の一環として、大阪大学産業科学研究所の村上聡助手・山口明人教授らのグループは、多剤排出タンパク分子の立体構造決定に世界で初めて成功し、多剤排出機構を解明した。この研究成果は10月10日付けの英国科学誌ネイチャーに発表される。
 人間から細菌まで全ての生物が持つ多剤排出タンパクは、細胞膜に存在する膜タンパク質で、抗生物質、抗菌剤や、消毒剤、あるいは抗癌剤等の細胞にとっての”異物”を細胞の中から外に排除する働きを持っている。このタンパク質は、癌細胞に抗癌剤が効きにくくなったり、院内感染として知られる病原細菌にほとんどの薬が効かなくなる多剤耐性化の問題を引き起こす主な原因となっている。
 本研究で立体構造が決定されたのは、大腸菌でもっとも代表的な多剤排出タンパクAcrBである。緑膿菌やインフルエンザ菌など多くの病原細菌にも同様の排出タンパクが存在する。大型放射光施設SPring-8(播磨・兵庫)の阪大・蛋白研ビームラインを使用して構造決定されたAcrBの分子構造は、細胞内膜に埋もれた部分と、細胞の外側に突き出た部分から成り、全体として直径約10ナノメートル、高さ約12ナノメートル(1ナノメートルは100万の1ミリメートル)のクラゲの様な外形をしていた。
 細胞内膜に埋もれたクラゲの足の部分で水素イオン濃度勾配のエネルギーを使い、薬剤をくみ出す原動力にしている。薬剤の取り込み口は、足の部分とクラゲの頭部付け根とに複数箇所存在し、標的が異なる多種の薬剤を認識して排出するのに都合の良い構造をとっていた。取り込まれた薬剤はその後クラゲの頭部に渡され、頭頂部にある孔から放出される。また頭部には、細菌の持つ細胞外膜を貫通するダクト(排気孔)が接続するしくみが存在し、細胞内から細胞膜を2枚貫通して一気に菌体外へと異物を効率よく排除する特徴的なしくみがつくられていた。
 AcrBなどの排出タンパクの働きを抑える薬剤が開発されれば、薬剤耐性化に関わる臨床上の諸問題の特効薬となる。抗生物質投与量は現在より遙かに少なくてすむことになり、副作用などの問題が大きく改善することが期待される。また多剤耐性緑膿菌などの院内感染の克服、末期癌に見られる抗癌剤耐性化を抑え抗癌剤による治療効果の上昇などが期待できる。
 膜タンパクの結晶構造解析は非常に困難な技術で、多剤排出タンパクなどの膜輸送タンパクについてはこれまで成功例が無かった。世界で始めて得られたこの立体構造情報は、膜を介した物質輸送の理解へ向けた基礎科学的興味にとどまらず、排出タンパクによる諸処の臨床上の問題に対する特効薬開発へ向けた起爆剤となることが大いに期待できる。

この研究テーマが含まれる研究領域、研究期間は以下の通りである。
 研究領域:生体防御のメカニズム(研究統括:橋本 嘉幸 共立薬科大学 理事長)
 研究期間:平成9年度−平成14年度

[補足説明]

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本件問い合わせ先
 山口 明人(やまぐち あきひと)
 大阪大学産業科学研究所
  〒567-0047 大阪府茨木市美穂ヶ丘8-1
  TEL: 06-6879-8545 FAX: 06-6879-8549   

 蔵並 真一(くらなみ しんいち)
 科学技術振興事業団 戦略的創造事業本部 研究推進部 研究第二課
  〒332-0012埼玉県川口市本町4−1−8
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