科学技術振興事業団報 第261号
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「絶縁体セラミックスを半導体に変えることに成功」


 科学技術振興事業団(理事長:沖村憲樹)の創造科学技術推進事業「細野透明電子活性プロジェクト」(総括責任者:細野秀雄、東京工業大学 応用セラミックス研究所教授)は、代表的な絶縁体であるセラミックスを半導体に変えることに成功した。アルミナ(Al2O3)と酸化カルシウム(CaO:生石灰)は、私たちの身の周りにあふれ、環境にも極めて優しい物質であり、陶磁器やセメントなどのセラミックス材料として広く使われている。今回、これら材料から構成される物質12CaO・7Al2O3中に存在するナノオ−ダーの籠の中に、水素マイナスイオンを導入し、光を照射して電子を発生させ、この電子を閉じ込めることで、同セラミックスを半永久的に電気伝導性をもつ半導体に変えることに成功した。このセラミックスは透明であることも特徴である。また研究では、水素のマイナスイオンを導入した12CaO・7Al2O3に光を線状に照射したところ、照射部が導電性を持つ電気配線を形成することに世界で初めて成功した。尚、同プロジェクトがこれまでに実現した透明酸化物PN接合と組み合わせることで、透明電子回路を実現できると期待される。また、同セラミックスは透明半導体であることから、今後さらに導電率が向上すれば液晶ディスプレイなどに不可欠であるITO(Indium-Tin Oxide)などの透明電極としても期待される。この研究成果は、材料をナノ構造から見直し工夫することにより、古い材料であるセラミックスに新機能を発現させたものであり、セラミック材料の新しい可能性を拓くものである。本成果は、同プロジェクトの細野秀雄リーダと林克郎研究員らによって得られたもので、平成14年10月3日付の英国科学雑誌「ネイチャー」で発表される。

 透明な半導体は、液晶ディスプレイ、有機ELや太陽電池などの透明電極材料として広く使われている。また、紫外発光ダイオードや光センサーなどのデバイスへの展開も期待されている。これまで、透明で半導体の性質を示す酸化物は、ITOに代表されるように遷移金属や重金属イオンから成るものに限られていた。それ以外の酸化カルシウム(生石灰)や酸化アルミニウム(アルミナ)などの典型的なセラミックスの成分のみから構成される物質は、電気絶縁体であり、決して半導体にはならないというのが、この分野での常識であった。
 本研究では、セメントの原料にも使われている12CaO・7Al2O3の結晶構造が、ナノメートルサイズの籠(ケージ)からできており、その中に、通常では不安定なマイナスイオンを高濃度に包接できる特性に着目した。この性質を利用して、水素のマイナスイオン(通常の水素はプラスイオン)をケージ内に包接させ、紫外線を照射することで、水素マイナスイオンから電子が放出され、その電子はケージ中にトラップされる。ケージ中にトラップされた電子は、動き易い性質をもっているので、絶縁体だった同材料が、光照射により電気伝導性をもつ半導体に変換されたことになる。(図1参照)
 照射する紫外線の強度によって、生じる電気伝導度を制御する事ができ、また室温付近では、半導体としての性質は、半永久的に保たれ、約400度Cに加熱すると元の絶縁体に戻すことができる。更に、この物質は半導体状態に変化しても可視域に強い光吸収は生じず、透明性を維持したままである。こうした性質を利用して、光で微細なパターンを三次元的に書き込むことができるので、透明な電子回路(図2参照)や光メモリーなどへの応用が期待できる。
 今回の成果の最大のインパクトは、私たちの身の周りにありふれた物質で、古くからよく知られた材料であるセラミックスのもつナノ構造を、巧く活用して透明半導体のような機能材料を創ることができることを示したことで、セラミックスの新しい可能性を拓いたことにある。

図1 水素アニオンの包接と電子伝導性の発現
図2 絶縁状態の水素アニオン包接


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本件問い合わせ先:

細野 秀雄(ほその ひでお)
  東京工業大学 応用セラミックス研究所 セラミックス機能部門
  〒226-8503  横浜市緑区長津田町 4259
  TEL: 045-924-5359、FAX: 045-924-5339   

長谷川 奈治(はせがわ たいじ)
  科学技術振興事業団 戦略的創造事業本部
  特別プロジェクト推進室 調査役
  TEL:048-226-5623 FAX:048-226-5703
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This page updated on October 3, 2002

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