科学技術振興事業団報 第250号
平成14年8月27日
埼玉県川口市本町4-1-8
科学技術振興事業団
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可視光域が利用可能な酸化チタン光触媒の製造法の開発に成功

(科学技術振興事業団 委託開発事業)

 科学技術振興事業団(理事長 沖村 憲樹)は、大阪市立大学大学院 理学研究科 教授 小松晃雄氏らの研究成果である「金属超微粒子担持光触媒の製造技術」を当事業団の委託開発事業の課題として、平成11年3月から平成14年3月にかけて大研化学工業株式会社(取締役社長 原田昭雄、本社 大阪市城東区放出西2丁目7番19号、資本金48,900千円、電話:06-6961-6533)に委託して開発を進めていた(開発費約2億円)が、このほど本開発を成功と認定した。

(開発の背景)
 光触媒は近年、光を当てるだけで働き、ほぼすべての有害化学物質を分解・無害化することができるため、衛生陶器や包丁、まな板などの抗菌、シックハウスガスやたばこ臭の成分であるアセトアルデヒドなどの悪臭の分解、生ゴミ処理機用脱臭等の様々な用途分野に適用するための研究開発や実用化が進められている。従来、光触媒反応に高い活性を示すアナターゼ型酸化チタンが用いられているが、光触媒反応に利用できる光は、紫外光に限られており、エネルギーの有効利用の観点から、可視光も利用できる光触媒が望まれている。

(開発の内容)
 本新技術は、ルチル型酸化チタン微粒子にナノスケールの金属超微粒子を担持させるという方法により、青色可視光域を励起光源とする高活性の光触媒を製造する技術に関するものである。

(開発の効果)
 本新技術は、蛍光灯など可視光を利用できる等、優れた特徴を有することから、空気浄化、抗菌・防汚等、屋内外にわたり幅広い用途での利用が期待される。  本新技術の背景、内容、効果は次のとおりである。


(背景)
可視光域でも利用できる光触媒が望まれる

 地球規模で環境問題が問われている現在の社会状況との関連から、光触媒技術が産業界から大変注目されている。特に、酸化チタン(TiO2)を光触媒とする技術の研究開発及び実用化が、空気浄化、抗菌・防汚、脱臭等の幅広い用途でなされている。
 酸化チタンは光半導体としての特性を持ち、バンドギャップエネルギーに相当する紫外線を吸収して価電子帯の電子が伝導帯に励起され、荷電子帯には正孔が生成される。それらが表面で外部の物質と酸化・還元反応を起こすことを光触媒のメカニズムとしている。酸化チタン内に励起された電子と正孔は、外部で反応を起こす前に再結合して消滅する場合があり、これが光触媒効率を制限していることから、白金等の金属を酸化チタン上に担持し、酸化チタン表面に正孔を、金属に電子をそれぞれ分離させる方法が提案されていた。しかし、担持金属の粒径がミクロンサイズに留まっており、量子サイズ効果を発現できる範囲に担持金属の粒径を小さくすることが要求されていた。
 酸化チタンは、一般には高温相のルチル型と低温相のアナターゼ型の2種類があり、光触媒活性はルチル型よりアナターゼ型が高いことから、従来から光触媒にはアナターゼ型酸化チタンが用いられている。しかし、アナターゼ型酸化チタンの光触媒反応が利用できる光は、紫外光にかぎられており、エネルギーの有効利用の観点からすると、可視光をも利用できる光触媒が望まれている。

(内容)
ルチル型酸化チタン微粒子にナノスケールの金属超微粒子を担持

 本新技術は、ルチル型酸化チタン微粒子を用い、白金等の有機金属錯体コロイド溶液を噴霧、焼成し、酸化チタン微粒子表面上にナノスケールの金属超微粒子を格子整合に近い状態で担持させた(写真1)光触媒を製造する技術である。本光触媒の製造工程は、以下のとおりである。
(1) 原料調整:バルサム白金等の有機金属錯体と酸化チタンを、トルエン等の有機溶媒に混合し、攪拌・分散してスラリーをつくる。このとき、金属超微粒子の粒径や担持密度を適正に調整する。
(2) 噴霧乾燥:スラリーをアトマイザーに送り霧化状とし、瞬時に溶媒を飛ばし乾燥させ、酸化チタン微粒子上に有機金属錯体超微粒子を担持させる。
(3)焼成:有機金属錯体超微粒子を担持した酸化チタンを高温で加熱、焼成して有機物を分解し、金属超微粒子を担持した光触媒を生成する。(写真2)

(効果)
空気浄化、抗菌・防汚等、屋内外にわたり幅広い用途での利用が期待

 本新技術には、次のような特徴がある。
1.従来のアナターゼ型酸化チタン単体と比較して、高い光触媒効率を有する。
2.ルチル型酸化チタンを使用するため、青色可視光域でも励起光源とすることができる。
3.担持する金属の種類の選択や、粒径や担持密度の調整ができ、用途に応じた光触媒機能設計が可能である。
4.粉体として製造できるため、多様な二次製品への展開が容易である。
そのため、空気清浄、抗菌・防汚等、屋内外にわたり幅広い用途での利用が期待される。


・開発を終了した課題の評価
・写真1 酸化チタン表面上に担持されている
白金の高分解電子顕微鏡写真
・写真2 噴霧乾燥・焼成炉製造設備写真

(注)この発表についての問い合わせ先は以下の通りです。
科学技術振興事業団 開発部第二課 日江井純一郎、熊川二位
[電話(03) 5214-8995]
大研化学工業株式会社 研究開発一部 部長 西  毅
[電話06-6961-6533]


This page updated on August 27, 2002

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