研究主題「過冷金属」の研究構想(概要)


 通常、溶融状態の金属は融点以下の温度になると直ちに結晶に凝固してしまう。しかしながら、1988年、マグネシウム、遷移金属、希土類金属からなる特殊な合金において、結晶化に対する異常安定化現象が見出された。異常安定化現象とは、10秒間に1度というゆっくりした冷却速度でも融点の半分程度の温度域まで過冷却状態で固化せず、さらに冷却するとガラス状態に固化するという現象で、このような現象を示す合金を「過冷金属」と呼ぶ。これは、固相、液相、気相のどれにも当てはまらない状態が広い温度域にわたり存在するということを意味している。従来、この異常安定化現象は金属や合金においては無縁であるとされてきたが、最近、3つの経験則である(1)3成分以上の多成分系であること、(2)約12%以上の大きな原子寸法比を有していること、(3)各成分が混ざるときに熱を吸収すること、を満足する合金において見られる普遍的な現象であることが明確になりつつある。
 本研究は、過冷金属が示す過冷却状態での異常安定化現象の極限と機構を探求するものである。具体的には、この異常安定化現象を合金成分、局所構造、原子間の結合性の観点から解析することを試みるとともに、原子の拡散や粘性などの物性について研究する。また、その場観察法により過冷却状態(液相)からガラス状態(固相)へ移り変わる際の動的な挙動を究明することを目指す。さらに、磁場、電場、応力などの外的因子の影響、ならびに合金成分の清浄化とドーピング効果の影響を調べ、安定化を制御するための条件を探索する。
 この研究の成果は、未知の新しい相変化の概念を切り拓くと共に、この相変化の利用により新たな機能や特性を持った新材料の創出を期待させるものであり、大きな波及効果が期待できる。

過冷金属の液相から固相への変化の特徴(図)


This page updated on March 26, 1999

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