科学技術振興事業団報 239号

平成14年7月26日
埼玉県川口市本町4-1-8
科学技術振興事業団
電話 048-226-5606(総務部広報室)

「量子二重ドットにおいて電流整流作用を確認」

 科学技術振興事業団(理事長 沖村 憲樹)の創造科学技術推進事業の「樽茶多体相関場プロジェクト」(総括責任者:樽茶 清悟 東京大学大学院理学系研究科物理学専攻教授)で進めている研究の一環として、二重量子ドットによる電流整流効果を観測した。この電流整流効果は2個の量子ドットを近接させることで、2個の電子が同じ量子状態を取れないというパウリの排他律を利用したものである。
 本研究成果は電子を「粒子」として扱う従来の半導体素子の動作原理ではなく、量子力学を応用した新たな動作原理による素子の実現につながるものであり、単一スピンデバイスや量子コンピューテングデバイスへの応用が期待される。
本研究結果は平成14年7月25日付けの米国科学雑誌「サイエンス」のweb版(http://www.sciencemag.org/)で発表される。

 近年、半導体素子の微細化が進み、素子のサイズはミクロン(千分の1ミリ)の世界からナノメーター(百万分の1ミリ)の世界に移行しようとしている。ナノメーターの領域では電子は「粒子」としての性質よりも「波」としての性質をより強く示すようになってくる。このため、ナノメーターサイズの半導体素子を実現するためには従来とは全く異なる、量子力学に基づく動作原理を確立しなければならない。

従来、整流作用を有するダイオード等の半導体素子は電子の「粒子」としての性質に基づくもので、半導体中を流れる電子が「熱による拡散」と「外から加えた電圧による力」とのバランスをとることにより動作している。しかしながら、このようなナノメーターサイズの半導体素子では「粒子」とは異なる動作原理が必要となる。

「樽茶多体相関場プロジェクト」の研究チームは今回、「2重量子ドット」を作成し、量子力学的効果であるパウリ排他律(*1)により、このデバイスが整流作用を持つことを観測した。

この「2重量子ドット」は直径500〜600ナノメーターの円柱状の構造をしており、半導体でできた2つの円盤状のドットが障壁を挟んで並んでいる(図1)。側面にはゲート電極が付けてあり、このゲート電極に電圧をかけることで電子をドット内の50ナノメーター程度の領域に閉じこめることができる。

この「2重量子ドット」の片方に1個の電子が閉じこめられた状態では、パウリ排他律の効果により、整流作用を示す(*2)。図2に「2重量子ドット」の電流電圧特性を示す。マイナスの電圧を加えたときは電流は流れるが、プラスの電圧を加えるとパウリ効果により一定の電圧範囲において電流が流れることができない。

この結果は,電子のスピン1個に反応するダイオードが実現できることを示したもので、将来の量子計算やスピントロニクスに向けて、単一スピン制御、検出用の素子への応用も期待される。

本研究は「樽茶多体相関場プロジェクト」において、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻(樽茶研究室)及び、NTT物性基礎研究所との共同研究によって行われたものである。



脚注
*1 パウリ排他律:
“2個以上のフェルミ粒子(ここでは、電子)が同じ量子状態を占有することができないというもので量子力学の基本的法則である。

*2 2重量子ドットの整流作用:(図3
2つのドットにわずかな非対称性があると、まず、どちらか一方のドット(右側のドットとする)に1個の電子が入る。簡単のため、この電子は上向きのスピンをもっているとする。この2重ドットの両側には電極が付いていて、電極−ドット−ドット−電極という電子のトンネル過程を経て電流が流れる。このような状況で、右側の電極から右側のドットに電子が流れ込む場合(負バイアス側)を考える。パウリ効果のために、右のドットには既に存在している電子のスピンと反対向き(下向き)のスピンしか入ることができない。このスピンは、左のドットへ、さらに左の電極へトンネルすることができるので、電流を発生する。今度は、左の電極から左のドットに電子が流れ込む場合を考える。この電子のスピンは、パウリ効果の制約がないので、既に右のドットにある電子のスピンと同じ向き、反対向きのいずれも許される。これが、反対向きだとするとこの電子は、右のドット、右の電極へとトンネルして電流に寄与する。しかし、一旦、同じ向きのスピンが流れ込むと、この電子はパウリ効果のために右のドットにトンネルすることができない。定常状態では、いずれ、このような状況が起こるので、結果的に電流は流れなくなる。これが整流作用である。

図1 2重量子ドットの構造
図2 2重量子ドットの電流電圧特性
図3 整流作用の説明図

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本件問い合わせ先:

長谷川 奈治(はせがわ たいじ)
科学技術振興事業団  特別プロジェクト推進室
 〒332-0012 川口市本町4−1−8
 TEL:048‐226‐5623
 FAX:048‐226‐5703

東 良太 (あずま りょうた)
科学技術振興事業団  特別プロジェクト推進室
 〒332-0012 川口市本町4−1−8
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