科学技術振興事業団報 238号

平成14年7月26日
埼玉県川口市本町4-1-8
科学技術振興事業団
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「自然免疫を制御する細胞内シグナル伝達経路の解明」

 科学技術振興事業団(理事長 沖村憲樹)の戦略的創造研究推進事業の研究テーマ「発生における器官・形態形成と細胞分化の分子機構」(研究代表:松本邦弘 名古屋大学大学院・教授)で進めている研究の一環として、細胞内シグナル伝達経路のひとつであるp38 MAPキナーゼカスケードが、感染に対する自然免疫機構を制御することが明らかにされた。この研究成果は、多細胞生物に共通して存在する自然免疫機構の解明にも繋がるものである。本成果は、名古屋大学大学院理学研究科教授、松本邦弘らの研究グループと、ハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病院教授、Frederick Ausubelらの研究グループによって得られたもので、平成14年7月26日付の米国科学雑誌「サイエンス」で発表される。

 免疫には、獲得免疫と自然免疫との二種類があり、前者は抗体や補体系などによる免疫で高等動物にしか存在しないが、後者は昆虫などの下等動物から高等動物まで普遍的に存在している。前者についてはこれまでよく研究されており、かなりの部分が明らかにされているが、後者についてはいまだ不明の点が多かった。
今回、自然免疫機構を明らかにする目的で、線虫C. elegansをモデル動物として、緑濃菌を感染させた時に自然免疫が機能せずに死んでしまう変異体のスクリーニングを行った。その結果、それらの変異体には、細胞外からの情報を細胞内へ伝える細胞内シグナル伝達経路の一つであるp38 MAPキナーゼカスケードと呼ばれる経路に異常があることがわかった。線虫のp38 MAPキナーゼカスケードは3つの因子から構成されているが、それらの構成因子をコードする遺伝子の異常が、自然免疫の抑制を引き起こしていることが明らかになった。更に、緑濃菌の感染により線虫個体内のp38 MAPキナーゼ活性が上昇することも突き止めた。以上のことから、線虫の自然免疫はp38 MAPキナーゼカスケードにより制御され、p38 MAPキナーゼカスケードが自然免疫の制御に重要な役割を担っていることが示唆された。
p38 MAPキナーゼカスケードは下等動物から高等動物まで存在していることから、同様な制御機構は種を越えて存在すると考えられる。今回得られた結果をもとに、今後さらに研究をすすめることにより、自然免疫を制御するp38 MAPキナーゼカスケードのシグナル伝達経路の全容を明らかにできると思われる。さらに、この研究がヒトを含む高等脊椎動物における自然免疫の普遍的制御機構の解明にも繋がることが期待される。

この研究テーマが含まれる研究領域、研究期間は以下の通りである。 研究領域:生物の発生・分化・再生(研究統括:堀田 凱樹、国立遺伝学研究所 所長) 研究期間:平成12年度~平成17年度

補足説明
語句説明
図1.哺乳動物と線虫(C. elegans)における自然免疫を制御するシグナル伝達機構

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本件問い合わせ先:

松本 邦弘(まつもと くにひろ)
名古屋大学大学院理学研究科生体応答論講座
 〒464-8602 名古屋市千種区不老町
 TEL:052-789-3000
 FAX:052-789-2589

久本 直毅(ひさもと なおき)
名古屋大学大学院理学研究科生体応答論講座
 〒464-8602 名古屋市千種区不老町
 TEL:052-789-3000
 FAX:052-789-2589

蔵並 真一(くらなみしんいち)
科学技術振興事業団 研究推進部 研究第二課
 〒332-0012 川口市本町4-1-8
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