科学技術振興事業団報 237号

平成14年7月18日
埼玉県川口市本町4-1-8
科学技術振興事業団
電話 048-226-5606(総務部広報室)

「海産ポリエーテル毒ガンビエロールの完全化学合成」

 科学技術振興事業団(理事長 沖村憲樹)は、戦略的創造研究推進事業の研究テーマ「複合体形成に基づく膜タンパク質の機能制御」(研究代表者:橘 和夫 東京大学大学院理学系研究科教授)で進めている研究の一環として、海産渦鞭毛藻Gambierdiscus toxicusが生産する微量毒成分ガンビエロールの効率的な完全化学合成に成功した。これにより、膜タンパク質への作用を含めた詳細な生物活性の解明が期待される。この研究成果は、橘チームの東北大学大学院生命科学研究科・佐々木誠教授、東京大学大学院理学系研究科・不破春彦博士らによって得られたもので、アメリカ化学会誌「Organic Letters」誌で発表された。

 海洋生物が生産する生理活性物質の多くは複雑な巨大分子構造を持つポリ環状エーテル化合物で、これまでに類を見ない強力な生物活性を示すことから生命科学関連分野において多くの注目を集めている。一方、今回全合成に成功したガンビエロールも梯子状の化学構造を持つポリ環状エーテル系天然物で、膜タンパク質への作用により生物活性をもたらすことが示唆されているが、天然からは極微量しか得られないために、マウスに対する毒性の発現機構を含めた詳細な生物活性に関しては、いまだ大部分が未解明な状況にあった。今回、佐々木教授らは、鈴木−宮浦カップリング反応を鍵反応とすることで独自に開発したポリ環状エーテル系天然物の効率的な分子構築法を駆使してガンビエロールの8環性骨格を収束的に合成した後、化学的に不安定なトリエン構造を有する側鎖を改良Stille反応により導入し、ガンビエロールの最初の全合成を達成した。
 ガンビエロールを生産する渦鞭毛藻Gambierdiscus toxicusは、サンゴ礁周辺の魚介類によって引き起こされる世界最大規模の自然毒食中毒シガテラ中毒の主要な原因毒であるシガトキシン類の生産生物として知られる。シガトキシン類はガンビエロール同様にポリ環状エーテル構造を持つ天然物で、神経の膜タンパク質であるナトリウムチャネルに作用することで毒性を示すことが分かっている。ガンビエロールもマウスの中毒症状がシガテラ中毒に似ていることから、シガテラ中毒の原因の一つと考えられている。しかし、今回の合成品でも確認されたマウスに対する致死毒性以外に関しては、渦鞭毛藻の培養による生産量が低く生物活性試験に必要な試料が天然から得ることができなかったため、標的となるタンパク質も同定されていない。
 今回の化学合成によりガンビエロールの量的供給が可能になったことで、橘チームでは今後、本毒の標的タンパク質の同定を始めとする毒性メカニズムの解明にフェーズを移して、研究を進める予定である。この結果、こうしたポリ環状エーテルに共通する膜タンパク質との相互作用メカニズムの発見、さらには新しい生理機能を有するポリ環状エーテル分子の創製への貢献が期待される。21世紀は生命科学の時代と言われ、世界的にゲノム研究が盛んに行われている。ゲノムシーケンスを解読した後のポストゲノム研究として最も緊急の取り組みが要求されるタンパク質の構造機能解析の分野において、特異的にタンパク質の機能制御する医薬品を合成する技術が必要とされる。今回得られた様な複雑な構造を有する有機分子の合成手法の蓄積はそのための基盤技術として極めて重要である。
 上に述べられたシガトキシン類に関しては、昨年すでに同じく戦略的創造研究推進事業の研究テーマ「超天然物の反応制御と分子設計」(研究代表者:平間正博 東北大学大学院理学研究科教授)においてこの一つであるCTX3Cの化学合成が達成されているが、今回のガンビエロールの全合成はこれに次ぐものであり、日本が世界に誇る有機合成化学の力を結集した成果である。

この研究テーマが含まれる研究領域、研究期間は以下の通りである。
研究領域:分子複合系の構築と機能(研究統括:櫻井英樹  東北大学 名誉教授)
研究期間:平成10年度〜平成15年度

補足説明

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本件問い合わせ先:

橘 和夫(たちばな かずお)
東京大学大学院理学系研究科化学専攻
〒113-0033 文京区本郷7-3-1
TEL:03-5841-4366  Fax : 03-5841-4366

蔵並 真一(くらなみ しんいち)
科学技術振興事業団 戦略的創造事業本部
研究推進部 研究第二課
〒332-0012 川口市本町4-1-8
TEL:048-226-5641  Fax : 048-226-2144

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