詳細説明


(背景)fused somites遺伝子の単離の要請
体節形成は筋肉や脊椎骨といった体の重要な組織を作るということのほかにも、その規則正しい分節性から(ニワトリでは90分、ゼブラフィッシュでは20分に一つと決まっている)、以前から実験生物学者だけではなく理論生物学者の興味も引いてきた分野である。特に近年、この一定リズムの分節化に同調して発現の変動が見られる遺伝子産物が発見されるに至り、もっともホットな研究分野になりつつある。ゼブラフィッシュにおいても、5種類の体節形成の変異体を対象にしてその原因遺伝子を単離し、体節形成にかかわる分子機構を明らかにしようとしてきたが、そのうちの4種類はマウスやニワトリでも知られた遺伝子やその関連遺伝子ばかりであり、新規の遺伝子の単離には至っていなかった。一方、fused somitesだけは、これら4種類と明らかに異なる異常を示していたことから新規の遺伝子をコードしていることが予想されていた。しかし、新規であるがゆえにその原因遺伝子の単離は難しく、1996年の発表以来原因遺伝子の単離に関してはまったく進まず、結局適当な候補遺伝子も見つからないまま今日に至っていたものである。
(研究の具体的内容)モルフォリノオリゴノックアウトによる機能欠損実験がfused somites遺伝子発見の契機となった
我々は、当初体節形成に関するtbx遺伝子の関与を検討する目的で、fused somitesの遺伝子を単離するという目的とは無関係に、体節形成領域に発現するtbx遺伝子を単離していた。そして、それらの遺伝子の機能を解析するために近年ゼブラフィッシュで使われてきた方法であるモルフォリノオリゴノックアウト(註1)を行ったところ、その中のひとつのtbx24が偶然にもfused somites 変異体とまったく同じ表現型を示した。そこでこの遺伝子がfused somitesの原因遺伝子であることを示すために、実際にfused somites変異体からtbx24遺伝子を単離したところ明らかな変異が見つかったため、この考えが正しいことが明らかになったのである。
(今回の発表の効果)体節形成の研究者にとって長年ベールに包まれてきた変異体の原因遺伝子が明らかになった
今回我々が行った研究が評価された最大の理由は前々項目でも述べているように5年以上に渡って不明であったfused somites変異体の原因遺伝子を同定したことにある。この変異体は単に最後の一つというだけではなく、他の4種の変異体に比べ、明らかにその異常が強いこと(体節が完全にできないものはfused somites?だけで、他は一部形成される)、他の4種類は基本的には同じ異常であり、同じ遺伝子から始まる刺激伝達経路に関わっていることが予想されること、そしてその刺激伝達経路は他の実験動物で知られているものであるため、新規性が薄いことなどから、唯一他の実験動物に対しても原因遺伝子の単離の意味があるものであったといえる。今回我々の研究でfused somitesの原因遺伝子が明らかになったことを受け、今後本研究の成果は、ニワトリやマウスといった体節形成に関する知見がより豊富な実験動物へと還元されるであろうと思われる。これらの実験動物においては体節形成の正確な周期性に関与する遺伝子として多くが単離されているが、これらとの関わりがまず検討され、体節形成の分子機構に関してより深い理解が得られるであろう。


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