科学技術振興事業団報 第226号

平成14年5月16日
埼玉県川口市本町4-1-8
科学技術振興事業団
電話(048)226-5606(総務部広報室)
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「レーザートラップ三次元生細胞分離システム」の開発に成功


科学技術振興事業団(理事長 沖村 憲樹)は、大阪大学教授 増原 宏氏らの研究成果である「レーザートラップ三次元生細胞分離システム」を当事業団の委託開発制度の平成11年度課題として、平成12年3月から平成14年3月にかけてエレクトロン機器株式会社(代表取締役社長 佐藤 節哉、本社 大阪府三島郡島本町高浜203−6、資本金 1000万円、電話:075-962-5200)に委託して開発を進めていた(開発費約1億2千万円)が、このほど本開発を成功と認定した。

現在、顕微鏡で判別された特定の細胞や組織を直接操作し採取する作業はおもにマイクロピペットと呼ばれる細いガラス管をもちいて行われている。しかし、検体の損傷を避けてマイクロピペットを扱うことは、熟練と忍耐を要する作業であり、より簡易な細胞操作の実現が望まれている。

本新技術は、顕微鏡下で細胞操作を行う際に、マイクロピペットの代わりに、レーザー光を用いて、細胞を分離(光ピンセット)や切断(光カッター)等をすることが可能となるシステムに関するものである。

本システムは、モニター画面上でマウスにより、捕捉、移動、切断といった操作が行えるので、熟練と忍耐を要したマイクロピペットの作業が簡素化され、効率的かつ簡易な操作が出来る。今後バイオテクノロジーにおける細胞操作ツールの一つとして広く利用されることが期待される。

本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。

(背景)生体から一つの細胞を分離して取り出す細胞単離操作には、主にマイクロピペットを用いる方法が使われていたが、熟練を要する作業であり、また、その過程で細胞壁の損傷が多かった。

顕微鏡で判別された特定の細胞や組織を直接操作し採取する方法は、従来では主に細いガラス管で作製したマイクロピペットと呼ばれる細いガラス管をもちいて行われていた。しかし、観察試料を必要以上に潰さないようにマイクロピペットを扱うことは、熟練と忍耐を要する作業であり、より簡易な細胞操作の実現が望まれている。

一方、レーザートラッピング技術(光ピンセット)は、顕微鏡下集光レーザービームにより、微小領域にある物質を高速かつ非接触に操作するピンセットの役を果たす技術である。また、照射するレーザーの波長を選ぶことにより、細胞を切開するカッターとして用いることも出来るが、レーザーにより生細胞を操作する技術はまだ確立されていない。

(内容)レーザーによる細胞保持機能(光ピンセット)と細胞単離機能(光カッター)を組み合わせて用いることにより、時間効率が良く、細胞を傷つけない細胞単離を実現した。

本システムは、近赤外レーザー、紫外光もしくは超短パルスレーザー、マイクロセル、微量送液ポンプ等から構成され、細胞に吸収されない近赤外光により細胞にダメージを与えることなく捕捉や移動等の操作を行い、細胞に吸収される紫外光等により切断、穿孔等の微細加工を行う。

光ピンセット機能は顕微鏡対物レンズにより集光されたレーザー光を用いることにより、微小物体を非接触で操作を行うことが可能となる技術で、生細胞の捕捉や配列、移動などの操作に用いるものである。また、光カッター機能は、生細胞に対して影響の大きな波長もしくは短パルスのレーザーを用いることにより切断、穿孔、除去、融合を行うものである。この光ピンセットと光カッターのレーザー光を同軸上に重ね合わせ、顕微鏡に導入し、生体試料の加工操作に利用した。また、これらのレーザー技術とともに、顕微鏡下での微量の生体試料の取り扱いを容易にするため、微少量溶液制御システムを組み合わせた。このシステムは、生体試料を含む微少量溶液を取扱うマイクロセル、溶液の注入、抽出を行うための微量送液ポンプ、バルブを組み合わせることにより、顕微鏡下で取扱う程度の微小量溶液の制御を行う。(図1図2

本システムの光カッター機能を用いて、酵母細胞を切り離し、切り離されたそれぞれの細胞が正常に増殖することを確認した。(図3)また、光ピンセット機能を用いて、酵母細胞を顕微鏡下で効率良く移送させる機能も確認した。約500ミクロンの距離を1分で移送出来る。(図4

(効果)細胞操作の効率化と簡易化が可能となり、バイオテクノロジーにおける細胞操作ツールの一つとして役立つ。

本システムは従来の細胞操作と比較して、光ピンセットと光カッターによる効率化と簡易化が特長であるが、更にコンピュータによる自動化に向いている。

これらの特長を活かして、細胞群の中からある特徴を持った細胞をコンピュータで認識し、これを単離し移動して、別のマイクロチャンバーへ選り分けるといった作業を自動的に行わせることが出来る。

また、このような単純な作業に止まらず、光ピンセットと光カッターには微細かつ複雑な作業を行える可能性が秘められている。

このシステムを応用することで組織中の個々の細胞、さらには細胞中の個々の染色体での特異的部位や細胞内小器官を解析できるようになり、また単一細胞の操作による異種細胞融合や幹細胞からの発生・再生医療にも活用が期待される。



(注)この発表についての問い合わせは以下の通りです。

科学技術振興事業団  開発部  第二課長 日江井 純一郎
第二課    菊地 昭 [電話(03) 5214-8995]
エレクトロン機器株式会社研究開発部 技師 松本 由多加 [電話(075)-959-0720]

開発を終了した課題の評価


This page updated on May 16, 2002

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