本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。
高密度記録化のために望まれていた、接触型のハードディスク用磁気ヘッド |
近年、マルチメディアの出現により情報処理機器の大容量化が一段と進み、ハードディスクについても、現在、記録面密度600Mbit/inch2を越える製品が過半数を占めるに至っている。ハードディスクドライブは磁気の原理を利用して記録や再生を行う装置で、主に磁気ヘッドと磁気ディスク(ハードディスク)から成っている。記録・再生の原理は、磁気ヘッドからは記録させたい情報を磁気信号として出力して、磁気ディスク上に小さな磁石を作り、その磁石のN極とS極がどちらに向いているかで記録させ、また、小さな磁石から出ている磁気信号を磁気ヘッドで読み取ることで再生を行うものである。
現在のハードディスクドライブは、磁気ヘッドと磁気ディスクとの衝突による磁気信号の誤りの低減や磁気ヘッド損傷の低減のため、ディスク面から磁気ヘッドを浮上させて記録・再生を行う方式を用いている。しかしながら、磁気ヘッドが磁気ディスクから遠ざかると、出力される磁気信号が広がってしまうため、磁気ディスク上に作る磁石が大きくなり、一定の面積に記録できる量(記録密度)が大きく減少する。このため、高記録密度化の観点から接触型の磁気ヘッドが望まれていた。
このような要請から、最近、アメリカにおいて半導体製造技術を応用して、超薄型、かつ、接触部分を非常に摩耗しにくい材質で囲ったチップ状の磁気ヘッド(以下、ヘッドチップ)を薄い鉄の板(以下、サスペンション)に接合して、軽加重で押さえる接触型磁気ヘッドが提案された。しかし、ハンダなどの従来の接合方法では、ヘッドチップとサスペンションを高精度に接合することが出来なかったため、ハードディスクとの摩擦によりヘッドが複雑な振動を起こすなど安定した接触が得られず、実用化には至っていなかった。
このため、本研究者らは、高精度にヘッドチップとサスペンションとを接合する方法について検討を行い、両者に金を薄くつけ、さらにこれらを超音波を用いて相互拡散(後述)接合する手法を見いだした。
高精度接合技術の確立により接触型磁気ヘッドを実用化 |
本新技術は、ヘッドチップ及びサスペンションに各々金を薄くつけ、さらにヘッドチップの金薄膜端子とサスペンションの金薄膜配線とを超音波を用いて室温で高精度に接合することで、振動などのない安定した接触を可能とする接触型磁気ヘッドを製造するものである。
本高精度接合法は、@室温下での超音波を用いた微小振動のエネルギーにより、ヘッドチップの金薄膜端子とサスペンションの金薄膜配線との間を金原子が互いに行き来する作用(相互拡散)を利用した接合であるため、局所加熱によるサスペンションの歪みや磁性材料の特性劣化等の問題は生じない、A半導体製造技術などにより精密形成したヘッドチップの金薄膜端子とサスペンションの金薄膜配線を直接接合するため、厚さ方向の接合精度が高い、B精密に位置を合わせた状態を保持したまま接合が可能であり、平面方向の接合精度が高い、などの特徴がある。
本新技術により、磁気ヘッドの高精度接合が可能となるため、サスペンションが性能を十分に発揮し、ハードディスクへの加重のバラツキが少なくなり、振動などの問題がなく安定した接触走行が可能な磁気ヘッドが、高い歩留りで得られ量産にも適していることから、世界で初めての接触型磁気ヘッドの実用化への見通しを得た。
各種ハードディスク用磁気ヘッドへの利用が期待される |
本新技術により製造された接触型磁気ヘッドは、
(1) | 接触型のため、インダクティブ型(注1)にもかかわらず800Mbit/inch2以上の高密度記録が可能となる。 |
(2) | 浮上型の磁気ヘッドに比べ浮上用のスライダ加工が不要なため工程が簡単である。 |
(3) | 量産に適する。また、歩留りが高い。 |
などの特徴を持つため、パーソナル・コンピュータの外部記憶装置など各種ハードディスク用磁気ヘッドに広く利用が期待される。
(注)この発表についての問い合わせは以下のとおりです。
科学技術振興事業団 開発業務部管理課長 内野裕雄
管理課 中田一隆[電話(03)5214-8996]
大同特殊鋼株式会社 新分野事業部
第一プロジェクト室次長 金田安司
同 課長 近藤道雄[電話(052)871-5226]
(注1) インダクティブ型: | 磁気ヘッド内にあるコイルに入る磁気の変化をファラデーの電磁誘導の法則により電気信号に変換することで記録信号を読み取る方式。一般のテープ、ハードディスク等の磁気ヘッドに使用されている。 |
This page updated on March 5, 1999
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