(資料1)

−金コーティングフォトニック結晶を用いた新しいバイオセンサーの開発−

簡便で安価な新しい透過型表面プラズモン共鳴(SPR)センサー


表面プラズモン共鳴(SPR)法とは?
 バイオセンサーは医療や基礎科学の発展に欠かせない技術であり、現在盛んに研究が行なわれています。このうち、現在最も注目されている手法の一つは表面プラズモン共鳴を用いた検出法です。
 図1に従来の表面プラズモン共鳴を用いたセンサー(SPRセンサー)の概要を示しました。SPRセンサーは、プリズムの底面に金や銀等の金属薄膜を形成し、金属薄膜の裏面からレーザーなどの光を入射します。この時、ある特定の角度から入射した光のみが、金属表面プラズモンと共鳴し吸収されます。この吸収の起こる入射角度は金属薄膜の表面状態(屈折率)に大変敏感です。そこで吸収される入射角度を変えながら反射光を測定することによって金属表面で起きる反応(例えば抗原-抗体反応)を測定することができます。
 この手法は、生体分子に放射性同位元素ラベルや蛍光ラベルでラベル化する必要がないため非常に便利な方法です。
 
従来のSPRセンサーの問題点
 従来のSPRセンサーは、図1からわかるように2次元の薄膜であり、測定のための最適な入射角度を探す必要があるため、光学系が複雑で、測定も煩雑になり、ゆえに装置が高価となり、また応用が限られていました。
 一方、金微粒子を溶液に懸濁するとプラズモン共鳴を反射系よりも簡単な透過光学系で測定できることが知られていましたが、金微粒子を基板に固定化する簡単な手法が知られていなかったために広く応用されていませんでした。
 
金コーティングフォトニック結晶センサーの開発
 今回、神奈川県地域結集型共同研究事業において、研究グループリーダーの佐藤治(光科学重点研究室佐藤グループリーダー)、顧忠沢(KAST研究員)は、より簡便に、より安価に高感度・高精度のSPR測定ができるようにするために、均一で欠陥の少ないフォトニック結晶膜の作製技術を応用し、最適なサイズの金ナノ粒子構造を利用した新しい透過型プラズモンセンサーを開発しました。
 
金コーティングフォトニック結晶センサーチップの作製法
 新しいフォトニック結晶センサーは次のように簡単な方法で作製できます。
1) 数百ナノメートルオーダーの粒径のそろったシリカ微粒子の懸濁液にガラス基盤を浸漬し、ゆっくりと引き上げ、乾燥させる。微粒子が規則的に並んだフォトニック結晶層が出来る(図2)。
2) フォトニック結晶層を、高分子と金のナノ粒子を懸濁させた溶液に浸漬し、1)と同じように徐々に引き上げる。フォトニック結晶の空隙(ナノ空間)が、高分子と金ナノ粒子によって満たされる。
3) これを最適な温度で焼成して、高分子を除去する。
4) その結果金ナノ粒子が凝集することなく均一にシリカ粒子表面に固定され、しかも、粒子間に微細な空隙が形成される。(以上について特許出願済み)(図3)。
 
金コーティングフォトニック結晶センサーの特徴
 こうして作製したフォトニック結晶センサーチップの表面プラズモン共鳴(光の吸収)ピークは、可視光の波長範囲(400〜700nm)ではっきりと現れます。このセンサーを例えば、抗原と抗体を入れた溶液に侵漬し、そこに入射光を当てると、溶液内での抗原抗体反応の度合いに応じて、透過光の吸収波長ピークが、シフトしたり、光の吸収が著しく変化します。
 
このように、透過型の光学系を組めばよいので反射型SPRセンサーのような複雑な装置は不用で、市販の一般的な分光光度計を用いて十分に高感度、高精度の検出ができます。これが、このセンサーの第一の特長です。
 さらに次のような特徴もあります。
センサーの感度は、センサーチップの比表面積に比例します。フォトニック結晶は、多くの空隙が存在しているため、比表面積が非常に大きいので高感度検出が可能です。
粒子が周期配列したフォトニック結晶では、光の回折が起こるので、表面プラズモン共鳴だけでなく、光回折の変化を用いた測定を同時に行うことができます。
 
医療や医薬開発に幅広い応用の可能性
 表面プラズモン共鳴法の用途は、臨床検査、基礎研究など医療分野や、医薬開発の分野で今後いっそう拡大するものと思われます。今回開発したセンサーが実用化されれば、複雑で高価な装置が不用なので、同法の普及が加速度的に促進されるものと期待されます。
 
 フォトニック結晶の結晶成長の高速化等、実用化のためにはいくつかの課題があります。科学技術振興事業団及び財団法人神奈川科学技術アカデミーは、意欲ある企業の皆さまが、この新技術に着目し、新商品の創出を目指した共同研究に参加してくださることを期待しています。
 

This page updated on March 22, 2002

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