科学技術振興事業団報 第209号
平成14年1月29日
埼玉県川口市本町4−1−8
科学技術振興事業団
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「オオムギ遺伝子の一塩基多型(SNP)大量検出に成功」

 科学技術振興事業団[理事長 沖村憲樹]の戦略的基礎研究推進事業の研究テーマ「オオムギゲノム機能の解析と制御」[研究代表者:武田和義 岡山大学資源生物科学研究所教授]および文部科学省科学研究費補助金特定領域研究C「統合ゲノム」[領域代表者:小原雄治 国立遺伝学研究所教授]で進めている研究の過程で、オオムギの重要品種間(ビール醸造用品種と食用品種と野生オオムギ)の差を決定すると考えられる一塩基多型(SNP:後述)の大量検出(約1000個)に世界で始めて成功した。オオムギのSNPの利用としては、(1)ビールの効率的な発酵・醸造、(2)みそなどの発酵食品や炭水化物としての食糧生産性向上、(3)他品種への遺伝子導入といったことなどが考えられ、産業的な応用が期待できる。この成果は岡山大学資源生物科学研究所の佐藤和広助教授および武田和義教授、ならびに国立遺伝学研究所の小原雄治教授との共同により達成されたものである。

 動物や植物に対する遺伝子解析の研究は急速に進んでいるが、中でも一塩基多型(SNP:single nucleotide polymorphism)と呼ばれる遺伝暗号の解読が重要視されている。例えばヒトであれば、顔や体型が個々に違うように、遺伝子の塩基配列もそれぞれで異なった部位が存在する。一般にこの塩基配列の違いは「多型」と呼ばれ、疾患へのかかりやすさなどに影響を及ぼすことがあり、このため特定の一つの塩基の違いである「一塩基多型(SNP)」の持つ機能の解明は重要な研究対象になっている。SNPは、ヒトのような動物ばかりではなく、植物についても品種間の差の解明などについて研究が進んでいる。        
 今回の研究は、オオムギの複数の一塩基多型「SNPs」の解析を行ったもの。オオムギのSNPは、進化過程や長年の栽培過程で突然変異によって生じたと考えられ、ビールの醸造特性、みそなどの食用としての生産性、植物の病気の抵抗性などの重要な形質を決定する役割を持つ。特に、SNPの発現作用は、遺伝子を構成するDNA配列中のどの位置に塩基の変化が起こるかによって異なっており、遺伝子固有の作用を調節する部分や、タンパク質の変化に関わる部分の変化が、形質の差、品種間や個体の差などを誘起する要因となっていると考えられる。
 今回のオオムギのSNPsは、国産ビール醸造用品種(はるな二条)、麦飯やみそなどの原料となる食用品種(赤神力)、およびカスピ海周辺で収集された野生オオムギの3つの品種間で見つけられた。これらの代表的な品種間で確認されたSNPsは、ビール醸造や食料生産に関わる重要な形質の差異を引き起こす可能性が非常に高いほか、オオムギのDNA鑑定、品種の持つ遺伝子の種類の判定、遺伝子操作技術による細胞導入、そして、有用遺伝子を一挙に選抜する高能率な育種技術(DNAチップ)への応用などが考えられる。
 オオムギの遺伝子研究は、米国、ドイツ、フィンランドなどで公的機関が企業と連携して進められている。日本では、岡山大学資源生物科学研究所が、1940年代から我が国を代表するオオムギ遺伝学研究の拠点として世界的に認められ、多数の遺伝子資源と研究成果を蓄積している。
 佐藤助教授らの研究では現在世界最多の5万を超えるオオムギのEST(※1)解析を終了しており、この配列を用いて、数万と推定されているオオムギの遺伝子全体の染色体地図(カタログ)の作成を進めている。今回の大量SNPsの発見はこのカタログ化の過程で見いだされたものである。
 今回確認されたSNPsについては、岡山大学より特許出願処理を行っており、オオムギに関する知的財産の権利の確保に寄与するところはたいへん大きい。

(※1) EST…Expressed Sequence Tagの略。発現する遺伝子で塩基配列が解読されているものをさす。ゲノムの中の遺伝子を全体から探し出すために、発現しているもの(mRNA)のみを集めて、逆転写酵素でDNAに逆に転写を行い、cDNA(相補DNA)にして塩基配列を決定したもの。遺伝子の地図化に利用されている。

この研究テーマが含まれる研究領域、研究期間は以下の通りである。
研究領域: 植物の機能と制御
(研究統括:鈴木 昭憲 秋田県立大学長)
研究期間: 平成12年度〜平成17年度

 補足説明資料

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本件問い合わせ先:

武田 和義(たけだ かずよし)
    岡山大学資源生物科学研究所 大麦・野生植物資源研究センター
    〒710-0046 岡山県倉敷市中央2-20-1
    TEL:086-434-1243  Fax : 086-434-1243

小原 雄治(こはら ゆうじ)
    国立遺伝学研究所 生物遺伝資源情報総合センター
    〒411-8540 静岡県三島市谷田1111
    TEL:0559-81-6854  Fax : 0559-81-6855

小原 英雄(おはら ひでお)
    科学技術振興事業団 戦略的創造事業本部 研究推進部 戦略研究課
    〒332-0012 川口市本町4-1-8
    TEL:048-226-5635  Fax : 048-226-1164
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