補足説明資料


 
 岡山大学資源生物科学研究所では国立遺伝学研究所との共同によって、cDNAクローンの大量シーケンシングプロジェクトを進めており、現在までに約43,000シーケンスを解析し、約1万のUnigeneを得た。その結果を解析したところ、異なる系統に由来するクローンが同じUnigeneに含まれている場合に、一塩基多型が認められた。
 醸造用オオムギ「はるな二条」(発芽時の芽、幼苗の葉身、止葉期の上位3葉)、在来ハダカムギ「赤神力」(栄養成長期の葉身)および野生オオムギH.spontaneum (OUH602)(止葉期の上位3葉)を使用し、cDNAライブラリーをそれぞれ作成した。各クローン3'および5'の両端からシーケンス解析し、遺伝子データベースを用いてクローンのクラスタリングおよびmultiple alignmentを行った。さらに、コンティグ配列に異なる塩基配列が含まれている際にその部位を検出するアプリケーションを作成して、それぞれの遺伝子型で異なる配列が2クローン以上ある場合に一塩基多型とした(図)。
 一塩基多型の総数は約1000個であり、特にはるな二条とOUH602の間に存在する多型が最も多かった。また、一塩基多型は複数の系統間に認められる場合もあった。約1000個の一塩基多型をクラスター別に整理すると,352に集約できた。クラスター内に1つの一塩基多型を有するクラスターが最も多いものの、むしろ複数の一塩基多型を有するクラスターが多く、クラスター内に最大20の多型配列が認められた。これらの一塩基多型については、それぞれプライマーを設計してシーケンス解析し、ゲノム上の配列を再確認している。
 ヒトゲノムにおいてはゲノムシーケンシングによって約140万のSNPが検出されており、これらを用いた個人のタイピングによって、各患者に適した抗ガン剤の処方をするオーダーメード医療などの新しい技術開発が急ピッチで進められている。今回の発明と同様エクソン領域のSNP検出もヒトにおいて行われている。たとえば東京大学医科学研究所が日本人集団について開発を進めているSNPデータベース(JSNP)には5万あまりのSNPが登録されており、そのうち今回のオオムギで見つけられたESTのSNPと同様、エクソン領域に存在するものは約1万である。
 さらにエクソン領域に存在するSNPにもアミノ酸が変化しないsilent SNP(sSNP)とアミノ酸が変化するcoding SNP(cSNP)の種類があるほか、ESTに含まれるプロモーターに存在するSNPの中にも遺伝子発現に関わるSNPが存在する可能性がありregulatory SNP(rSNP)と呼ばれている。今回発見されたSNPは、遺伝子領域以外のgenome SNP(gSNP)は含まれおらず、sSNPであっても遺伝子をマップしたり検出したりするのに有用であり、価値の高いrSNPと認められるものが約2割,cSNPあるいはrSNPの可能性があるものが多数含まれており、重要なSNPが検出されたことになる。ちなみに、ヒトゲノムにおいてもオーダーメード医療に重要なのはcSNPとrSNPである。
 SNPが注目されている理由として,これまでマップ作成やDNA鑑定に利用されてきたマーカーより圧倒的に数が多いことと、共優性を示し判別能力が高いことがあげられる。現在多数の企業がSNPを用いた大量タイピングシステムを開発しようとしている。その手法も、標識したプライマーを用いてSNP部分を蛍光や偏光によって検出するものから、TOF/MASによって塩基の質量そのものを測定する方法、短い配列をシーケンス解析するものなど多様である。なかでもオリゴをスライドガラス上に合成するDNAチップと呼ばれる技術は100万もの多型を一度に検出する能力があり、有用な多数のSNPが同定されれば、それらを短時間で解析することが可能となる。

図 一つの遺伝子に含まれるESTの塩基配列を整列しSNPを縦線で示した
 

This page updated on January 29, 2002

Copyright©2002 Japan Science and Technology Corporation.