酸化チタン光触媒で養液栽培の培養液を浄化・殺菌


 
○現行の養液栽培の問題点
 現在のトマト養液栽培では、鉱物を加工したロックウールという培地を使う方式が主流です。しかし、使用した後のロックウールは自然還元が難しいため、産業廃棄物としての処分が必要であり、環境保全の観点から、自然還元しやすいヤシがら、モミがらなどの天然の有機質資材の代替培地が望まれています。
 また、培養液はトマト1株当たり1日数百mLから2Lくらいを与えて管理するのが普通ですが、植物が吸わなかった培養液は排液となり、河川や地下水の汚染につながる可能性が指摘されています。それゆえ、排培養液を再利用する循環式への切り換えが望まれています。
 しかし、ヤシがらなどの有機質培地を用いて、排液を捨てずに循環利用するためには、培養液中に有機質培地から溶出する有機汚染物の分解並びに病害拡散防止のための殺菌を行うことが必要となりますが、その方法は未だ確立されていません。
養液栽培とは

 養液栽培とは、土の代わりに固形の培地や水の中に根をはらせ、必要な栄養成分を含んだ培養液を与えて栽培する方法です。土壌から感染する植物病害の心配が少なく、作物の栄養状態の管理もしやすい。また、土の条件が悪いところでも栽培が可能です。さらに、作業性が良く、雇用がしやすく、後継者が取り組みやすい等の利点を有しているため、トマト、キュウリ、メロン、イチゴ、バラなどの栽培で近年急速に拡大しています。
○酸化チタン光触媒を用いた培養液の浄化・殺菌効果
 天然の有機質培地を使用し、かつ培養液をリサイクルすることによって、産業廃棄物となるロックウールと廃液の両方の問題点の解決を図るため、酸化チタン光触媒を用いた培養液の浄化・殺菌効果について検討しました。
 光触媒を利用した水処理装置には、コンパクトな装置の中で酸化チタンに紫外線ランプなどを当てながら行うものが多くあります。しかし、装置が高価になるとともに処理費用も高くなり、人手がかからず大量かつ安価な処理が求められる農業用液体の処理には適しません。また、光触媒を用いて農業用液体を処理するには、極めて大きな光照射用面積が要求されると考えられてきたこと、さらに、通常は被処理液を濃縮した状態で処理することが効果的ですが大量の農業用液体を濃縮するには困難を伴うことから、光触媒を農業用液体の処理に適用することは非現実的と考えられてきました。
 しかし、今回、自然のエネルギーである太陽光のみを利用するという全く新しい発想に基づく処理方法を考案し実験を実施しました。農業は太陽の下で行うものですから太陽光が当たる場所は広くとれます。太陽エネルギーは比較的希薄エネルギーですが、面積で補って十分に実用的な処理効果が確保できるようにしました。また、被処理液の濃縮処理を必要とせず、たとえ雨水等によって希釈された状態にあっても十分に実用的なレベルにまで処理することを狙いました。なお、太陽光利用により、実用化のポイントとなる低ランニングコスト化が可能となります。
酸化チタン光触媒とは

 酸化チタンに光が当たることで有機物分解、殺菌効果が生じ、防汚、脱臭、抗菌などに用いられています。空気清浄機、トイレや浴室の抗菌タイル、自動車のボディコーティング、照明器具など多方面への応用・商品化が進んでいますが、農業への応用は今のところほとんど見あたりません。
 下の図1が実験に用いた装置の概略です。(写真1は栽培の様子)
 酸化チタンは白い粉末状の物質です。光のあたる面積が広いほど反応は速くなります。そこで、この装置の中では、光が酸化チタンに良く当たるよう多孔質基材に酸化チタンを塗ったフィルターを用いました。(写真2
 トマトをヤシがら培地に植え、給液タンクの有機物量(TOC:全有機体炭素)を追跡した結果が図2です。 × で示したように、光触媒処理を行わないで循環すると、有機物量は2週間で最初の約6倍まで上昇します。すなわち、それだけ汚染物質や細菌類が培養液中に蓄積します。これに対して、今回開発した方法で光触媒処理すると、培養液を循環しても、有機物量はほぼ一定を保ち(  )、かけ流し( ▲ )とかわらない濃度を維持しています。
 一方、処理タンク内の有機物濃度をみると(図3)、処理開始時の濃度は100r/Lを超えているにもかかわらず、2〜3日で5r/L以下に下がっています。光触媒による処理効果は明らかです。
 
グラフの説明

循環・処理・・・図1により処理を行って培養液を循環利用した区
循環・無処理・・・浄化・殺菌処理しないで培養液を循環利用した区
かけ流し・・・排液を利用しない区
グラフの説明

 酸化チタンに光を当てることで有機物分解され、処理タンク内のTOCが減少している。なお、天候にかかわらず処理を行ったため、晴天時には乾燥のため処理液は減少し、雨天時には雨水流入のため処理液は増加した。
 今回の実験をとおして、光触媒処理により目的とする培養液中の有機物分解が達成でき、天然の有機質培地を使用した循環型養液栽培の実現に道を拓いたといえます。
 今後は、さらにスケールアップしたパイロットプラントによる実験、光触媒フィルターの最適化など、実用化に向けた試験研究に取り組んでいきます。また、トマトの重要病害の防除効果についても検討する予定です。
 なお、本研究による処理方法は、養液栽培の培養液浄化・殺菌に限らず、農業用地下水の処理、消毒などのために使用された農薬含有残液の処理など、農業・畜産業分野で広範囲な応用が可能と考えられ、環境保全型農業・畜産業の実現に大いに寄与するものと期待しています。
 

This page updated on January 21, 2002

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