科学技術振興事業団報 第202号

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「遺伝子発現コントロールでクローン技術の向上に展望」

 科学技術振興事業団(理事長 沖村 憲樹)の戦略的基礎研究推進事業の研究テーマ「哺乳類特異的ゲノム機能」(研究代表者:石野史敏 東京工業大学遺伝子実験施設助教授)で進めている研究の一環として、哺乳動物における体細胞クローン動物の遺伝子発現調節機構の解析が行われ、この技術の実用化に向けて遺伝子発現コントロールが重要な位置を占めていることが明らかにされた。
 この研究成果は戦略的基礎研究推進事業のもとで東京工業大学遺伝子実験施設の石野史敏助教授と国立感染症研究所の小倉淳郎室長の両チームの共同研究によってなされたものであり、1月11日付けの米国科学雑誌「Science」で発表される。

 体細胞クローン技術は、成体の体細胞を核移植することにより同一の遺伝的構成をもった個体を多量に作製することを可能にする技術である。これは臓器移植等の再生医療、畜産優良品種の開発・保存、有益物質・薬品の生産など、畜産・製薬分野等広い分野での応用が期待されている。これらの実用化に向けて、生産性向上、安全性の確認などの目的で活発な基礎研究が進められている。現在のところ、体細胞クローン動物では、出生率(成功率)が低いこと、新生児での致死率や先天奇形の頻度が高いこと、出生時胎盤に形態的な異常が見られること等、遺伝子発現に何らかの異常があることを予想させる結果が報告されている。

 今回、遺伝的に均一なマウスの種々の体細胞から厳密にコントロールされた条件下でクローンマウスを作製することにより、出生率は依然として低いながら、ほとんどのクローンマウスを新生児の致死や異常がなく正常に生ませることに成功した。そして、これらのクローンマウスは順調に成体まで育っている。また、遺伝子発現を解析することにより、これらのクローンマウスではこれまで異常があると言われていたゲノムインプリンティング遺伝子(補足説明資料参照)の発現も正常であることが確認された。マウスの系統、体細胞の種類、体細胞の培養条件等の実験条件を整えることで、ゲノムインプリンティングの遺伝子制御を正常に保ちながらの体細胞クローン動物作製が可能であることが示された。また、成長過程の重要な時期である新生児期に起こる異常を低く抑えることにも成功した。

 体細胞クローン技術は再生医療にも重要な位置を占めており、特にES 細胞(補足説明資料参照)はその中心的役割を果たしている。しかし、この細胞では細胞培養等の条件によってはゲノムインプリンティングの制御が乱れることが知られており、これを用いたクローンマウスでは新生児期での異常が高いことも報告されている。今回の結果は、体細胞クローン技術の医療応用にあたっては、安全性のチェック項目の一つとしてゲノムインプリンティングの情報を正確に調べておく必要性があることを示している。

 体細胞クローンにおける低出生率、胎盤の異常等のメカニズムはまだ解決されておらず、体細胞クローン技術が、個体の完全なコピーを生産する技術とは言えないが、今回の成果により、クローン技術の実用化に向けて一つの関門を越えることが期待される。

 この研究テーマが含まれる研究領域、研究期間は以下の通りである。
研究領域:ゲノムの構造と機能
     (研究統括:大石 道夫、(財)かずさDNA研究所 所長)
研究期間:平成10年〜平成15年


本件問い合わせ先:

石野 史敏(いしの ふみとし)
東京工業大学遺伝子実験施設 助教授
郵便番号226-8501 神奈川県横浜市緑区長津田町4259
Tel: 045-924-5812
Fax: 045-924-5814

小倉 淳郎(おぐら あつお)
国立感染症研究所獣医科学部 室長
〒162-8640 東京都新宿区戸山1-23-1
Tel: 03-5285-1111 (内線 2620)
FAX: 03-5285-1179

小原 英雄(おはら ひでお)
科学技術振興事業団 戦略的創造事業本部
〒332-0012 埼玉県川口市本町4-1-8
TEL:048-226-5635
FAX:048-226-1164

This page updated on January 11, 2002

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