補足説明


Yb:YAGレーザー
 Yb3+イオン(trivalent ytterbium ion) は、[Xe]4f116s2電子構造であるため2F5/22F7/2 の二準位しか存在せず、励起状態中に入射光を吸収しさらに高エネルギー励起状態に移行したフォトンによる光放出が起こらず単波長のみの光放出となるため、高密度励起に適している。なによりもYb:YAGレーザーは、図1(a)に示すように励起波長が940nm、レーザー発振波長が1030nmなので励起量子効率は91.4%にも達する。このためNd:YAGでは励起に付随する発熱量が43%であるのに対しYb:YAGでは10%前後に抑えられるため、3〜4倍の高出力化が期待できる。また、Yb3+のイオン半径はY3+(trivalent yittrium ion)に近い(Nd3+はY3+に比べ約1.5倍のイオン半径)ため、高添加時の濃度消光が起き難い。上準位寿命は0.95ms程度とNd:YAGの4倍程度長く、高いエネルギー蓄積効果も期待されるなど優れた特長を有する。実用的な見地からは,励起波長が900nm帯にあるため高信頼のInGaAs系のLDが利用できること,その吸収スペクトル幅は同図(b)に示すように,Nd:YAGに比べ10倍以上ブロードであり,励起用のLDに対する制約が大幅に緩和されることなども長所として挙げられる。さらに最近では、この材料の有する広い蛍光幅を利用した可能性について注目が集まっている
マイクロチップレーザー
 媒質長が1mm以下の固体レーザーを指す。ウェハー加工が可能なので量産化に適しており、体積としても数mm3と励起用の半導体レーザー(LD)とほぼ同じ寸法であるため、LDパッケージに同梱することが可能となる。従来のロッド型レーザーとの違いは、必要な波長のみを透過するエタロンそのものがレーザ共振器であるため発振周波数の単一化や、広帯域において安定した波長可変動作が容易となることにある(図2参照)。
 また、励起に付随した熱レンズ効果により、共振器ミラーに高出力を得るために複雑な計算が必要となる曲率加工を施さなくとも安定共振器が形成されるため、TEM00の基本横モードが得られ易く、周波数・強度雑音が低くなることも特長である。さらに、非線形光学波長変換素子やQスイッチ素子と複合させることによりLD単体では不可能だった多機能化も図られている。すなわち、マイクロチップレーザーはLDの空間的、スペクトル的特性を改善するコヒーレンスコンバータであり、更には時間的特性や発振波長域を拡大できる特殊光学系と位置づけられる。
エッジ励起方式
 Yb:YAGレーザーは、準四準位レーザーであるため高効率動作を実現するには下準位吸収を飽和させなければならず、強励起が必要であった。このため従来の横励起では図3(a)のように高反射(HR)鏡の真ん中に無反射(AR)コーティングの小さな窓を設け、そこにLD光を集光させ、冷却溶媒中のYb:YAGロッドを励起する必要があった。同図(b)では励起を行うため特殊な”レンズダクト”を用いロッド端面に集光させている。高出力動作は可能なもののロッド特有の特性(熱レンズ、熱複屈折など)のため効率だけでなくビーム品質も低下する。
 また図4(a)のディスクレーザーではマイクロチップレーザーによく似たアクティブミラー構成であるためビーム品質が向上するものの乏しい吸収効率を補うため8パスまたは図4(b)のように16パスの励起を行わねばならず、レーザー機構を複雑にするとともに安定性・信頼性が悪くなる欠点があった。
 今回のエッジ励起方式ではマイクロチップレーザーを側面から励起することで励起効率を保ちつつ、レーザー出力の向上を目指している。なお、この時、励起光とレーザー光のビーム重なりを改善するため拡散接合によるYb:YAG/YAGのコンポジット構造を作り込んでいるため図34の両方の特長を併せ持った構造とした。
   
(参考写真)

This page updated on December 26, 2001

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