「表面力測定装置」の開発に成功


 新技術の背景、内容、効果は次の通りである。

(背景) 広範囲な物質の表面間に働く相互作用の定量的かつ簡便な測定技術が望まれていた。

 新規機能性材料の開発や、バイオ分野での生体分子の相互作用の解明、また、半導体やマイクロマシンなどの開発における微細加工技術など、現在盛んに行われている研究開発内容において共通して、物質表面における原子若しくは分子の状態を高精度に測定・制御する必要がある。
 表面力の測定は、対向する2つの試料表面間の距離を順次変えながら、一方の試料を保持している板ばねのたわみを検出することにより行っている。従来の表面力測定装置では、透明かつ平滑な面を有する雲母基板の上に作製した試料表面を用い、基板の一方を支持しているステンレス製の板ばねを上下させながら、そのたわみを検出することにより、表面間に働く力を測定している。
 この装置では、板ばねの駆動に直流モータを用いており、手動による速度制御等のため、駆動速度を精密に制御することが出来なかった。このため、板ばねを任意の速度で動かす動的な条件で表面力を測定することが困難であった。一方測定系では、表面力による板ばねのたわみ量を検出するために、試料を透過してくる光の干渉を利用しており、透明な試料しか使用できなかった。また、距離測定を目視で行っていることより自動化が難しい等の問題点がある。さらに一回の測定に数十分程度かかり、測定条件に関する制限も大きかった。
 このように、従来の装置では、迅速な測定や測定の自動化が困難であり、また、試料を含む測定条件への制限が大きく、十分な経験がないと利用するのが難しい測定装置であった。

(内容) パルスモータに作動ばね機構を組み合わせた微小移動機構とレーザプローブ(レーザ干渉式変位計)の利用により、不透明試料の測定や動的測定等様々な条件での自動測定が可能

 本新技術は、対向する2つの試料表面間の距離の制御にパルスモータと作動ばね機構を組み合わせた微小移動機構を採用することで、高分解能および高精度な距離制御を実現し、さらに入力パルス数によるモータの駆動で試料を一定速度で動かすことが出来、動的な測定も可能とした。
 また、表面力の測定にはレーザプローブを用いることで、レーザプローブからのレーザ光を分離用回折格子に通して分離された1次光の一つを装置内部で折り返し、もう片方は試料を取り付けた板ばねの裏面で反射させ、それぞれの反射光は受光部(フォトダイオード)で重なり合い、干渉させて板ばねの変位(たわみ)量を測定することにより、板ばねのばね定数と、微小移動機構の駆動距離から、2試料の表面間距離における表面力の大きさとその方向(引力または斥力)をリアルタイムで計測することを可能とした。これにより、従来不可能であった不透明試料でも測定が可能となった。さらに、これらの要素はコンピュータにより制御され、試料をセットすればあとは自動での測定が可能となるため、ユーザの負担を大幅に軽減できる装置が開発できた。

(効果) 広範囲な物質の表面・界面物性の測定および表面・界面が係わる現象の機構解明への利用が期待される。

 本新技術による表面力測定装置は、

(1) 不透明試料も含めた広範囲な試料の表面力測定ができる。
(2) 表面力の動的測定ができる。
(3) 測定の自動化ができる。

などの特徴を持つため、

(1) 様々な物質の表面・界面物性の測定および粒子の分散、凝集、組織化など表面・界面が係わる現象の機構解明
(2) 生体分子や生体膜に係わる蛋白質の機能解明や構造解析等のバイオテクノロジー分野
(3) 分子レベルでの摩擦・潤滑の評価による、微細加工技術やマイクロマシン・ナノマシンの開発

などに利用されることが期待される。


This page updated on December 25, 2001

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