(別紙3)

戦略的基礎研究推進事業
平成13年度採択 研究課題概要一覧


 

<たんぱく質の構造・機能と発現メカニズム>
−たんぱく質の機能発現メカニズムに基づく革新的な新薬、診断技術及び物質生産技術の創製を目指して−

氏名 所属機関 所属学部・
学科など
研究課題名 研究課題概要
岩井 一宏 大阪市立大学 大学院 医学研究科 分子制御分野 教授 ユビキチン修飾による蛋白質機能変換機構の解析 ユビキチンは基質タンパク質に結合してその機能を変換させる翻訳後修飾分子であり、分解のみならず多様なタンパク質機能を制御しています。本研究では、これまで明らかにしてきた酸化修飾を認識するユビキチン修飾系を中心に、広くユビキチン修飾系によるタンパク質機能変換機構の解析を進め、今後大幅な増加が予想されるユビキチン関連疾患の解明と治療法開発を目指します。
甲斐荘 正恒 東京都立大学 大学院理学研究科 化学専攻 教授 ゲノム蛋白質の高効率・高精度NMR解析法の開発 構造ゲノム科学で必要とされるNMR構造解析法は、迅速性と精度を兼ね備え、且つ高分子量蛋白質へも適用可能でなくてはなりません。本研究では、立体整列重水素化等の新しい安定同位体標識概念、及び無細胞蛋白質合成等の蛋白質調製技術を駆使し、医薬品開発のターゲットとなる高分子量蛋白質、更にはゲノム蛋白質の3割を占めると推定される膜蛋白質にも有効なNMR構造解析技術を開発します。
佐々木 裕次 (財)高輝度光科学研究センター 生物医学G(生物チーム) 副主幹研究員 X線1分子計測からのin-vivo蛋白質動的構造/機能解析 蛋白質分子の動的構造情報/機能相関を詳細に解析するには、原子レベル以下の精度でin-vivo動的1分子構造情報が安定に得られ、同時に1分子機能計測も併用可能なX線1分子計測法が最も有効です。本法を膜蛋白質分子のin-vivo計測へ適用し、また本法と計算科学を合体させた全く新しい蛋白質構造決定法を検討します。本研究は、敏速な蛋白質分子の構造・機能情報の取得を可能にすることで、医薬利用等とならび1分子技術、バイオ技術、そしてナノ技術との融合を目指します。
七田 芳則 京都大学 大学院理学研究科生物科学専攻生物物理学教室 教授 ロドプシンをモデルとしたG蛋白質共役型受容体の構造・機能解析 G蛋白質共役型受容体(GPCR)はヒトゲノム中に1000種程度が同定され、創薬分野における最も重要なターゲット蛋白質です。GPCRの中で最も研究の進んでいるロドプシンのリガンド結合機構やG蛋白質活性化機構を原子レベルで解析し、その知見をもとに一般のGPCRの構造・機能解析を進めると共に、ロドプシンの構造を改変してリガンド結合型のGPCRに変換することを目指します。これにより膨大なGPCRについて、簡便な機能解析の戦略を提供します。
永田 和宏 京都大学 再生医科学研究所 教授 小胞体におけるタンパク質の品質管理機構 細胞は異常な蛋白質が生じた場合、それらを監視して再生ないしは分解処理する品質管理機構を備えています。本研究では小胞体における蛋白質の品質管理機構について、1)蛋白質の正しいフォールディングを促進する機構、2)不良蛋白質を分解する機構、および3)それら2つの機構に必要な因子をそれぞれ供給する機構の3つについて研究を進めます。本研究は、品質管理の破綻による神経変性疾患をはじめとするフォールディング異常病の病態の理解及び治療への道を開くものとなります。
箱嶋 敏雄 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス研究科 教授 タンパク質の動的複合体形成による機能制御の構造的基盤 タンパク質は他の分子との相互作用を通して様々に構造変化して、分子機能の発現と制御を実現しています。本研究では、複数の分子と相互作用する多機能性タンパク質の分子複合体のX線構造解析を通して、分子認識と、その結果起こる構造変化を通した分子機能制御の構造的基盤を明らかにします。これにより、細胞機能の制御ネットワークにおけるシグナルの分岐や統合の分子的基礎を理解するとともに、創薬の糸口を探ります。
          ※ 下線部は、研究の実施により期待される技術の発展や新技術の創製を示す。 
 

<免疫難病・感染症等の先進医療技術>
−遺伝子レベルでの発症機構の解明を通じた免疫難病・感染症の新たな治療技術の創製を目指して− 

氏名 所属機関 所属学部・
学科など
研究課題名 研究課題概要
河岡 義裕 東京大学 医科学研究所感染・免疫部門 教授 インフルエンザウイルス感染過程の解明とその応用 ウイルス感染症は多大な被害を及ぼしています。本研究は、インフルエンザウイルス増殖過程の理解を深め、そこで得られた知識を、新規ワクチンおよびワクチンベクター開発に応用することを目的とします。その成果は、抗ウイルス薬開発のターゲットを提示し、新しい概念のワクチンならびにワクチンベクターの創製につながるとともに、他のウイルス感染症研究のモデルとなる可能性が期待されます。
瀬谷 司 大阪府立成人病センター研究所 研究所長 自然免疫とヒト難治性免疫疾患 Innate Immunity(自然免疫、リンパ球以前の微生物認識系)の分子機構と機能を解明して、免疫活性化の一般則をデータベース化します。癌と自然免疫の関連を細胞応答、DNAarray、プロテインチップ、SNP/Bioinformaticsなどの資料で解析します。既成のリンパ球(獲得免疫)系の知識で説明し難かった現象や細胞応答などを自然免疫の視点から展望し、癌の免疫療法の開発を目指します。
高井 俊行 東北大学 加齢医学研究所遺伝子導入研究分野 教授 IgL受容体の理解に基づく免疫難病の克服 イムノグロブリン様受容体(IgLR)分子群は、免疫系を正と負の両方向にバランスよく制御しています。本研究ではIgLRによるその制御のしくみを解明するとともに、IgLRが基礎となるアレルギー、自己免疫病、脳神経系異常を克服するためのモデル動物などの開発を通して、先進医療に貢献します。免疫難病に対する画期的な治療法や薬剤の開発につながることが期待されます。
中西 憲司 兵庫医科大学 免疫学・医動物学教室 教授 IL−18を標的とした自然型アトピー症の治療戦略 本研究では、アレルゲン/IgEの関与なしに起こるアトピー性皮膚炎、あるいは感染が引き金となって発症する気管支喘息が、病原体成分で刺激を受けた上皮細胞が産生したIL-18の作用で誘導されることを明らかにします。また、この様なアレルゲンあるいはIgE抗体が介在しない「自然型アトピー症」に対して、IL-18あるいはIL-18Rに対する抗体等を用いて、その有効な治療法の樹立を目指します。
三宅 健介 東京大学 医科学研究所感染遺伝学分野  教授 病原体糖脂質認識シグナル伝達機構の解明 エンドトキシンは病原体糖脂質の中で最も強く免疫機構を活性化し、多くの疾患と関連するだけでなく、それ自体がエンドトキシンショックを引き起こします。エンドトキシンショックは治療薬がなく、特に病院での死因として重大で(本邦約12万人/年、米国年間10万人以上)、しかも増加傾向にあります。本研究ではTLR4/MD-2によるエンドトキシン認識機構を解明し、エンドトキシンショック治療薬開発のための糸口をさぐります。
          ※ 下線部は、研究の実施により期待される技術の発展や新技術の創製を示す。 
 

<情報社会を支える新しい高性能情報処理技術>
−量子効果、分子機能、並列処理等に基づく新たな高速大容量コンピューティング技術の創製を目指して−

氏名 所属機関 所属学部・
学科など
研究課題名 研究課題概要
伊藤 公平  慶應義塾大学 理工学部物理情報工学科 専任講師 全シリコン量子コンピュータの実現 シリコンのみから構成される現実的な量子コンピューティング素子の形態・動作原理を提案し、その開発を行います。核スピンを持たない28Si同位体ウエハー中に、29Si核スピン量子ビットを周期的に配置する本研究では、電極の作製や無理な不純物添加を全く必要とせず、これまで蓄積されてきたシリコン・テクノロジー技術の活用・展開が可能です。300量子ビットまでの拡張性が理論的にも確認されており、他の提案に対する優位性が実証されています。
井上 光輝 豊橋技術科学大学 工学部電気・電子工学系文部科学教官 教授 超高速ペタバイト情報ストレージ 本研究は、偏光コリニアホログラム記録再生技術と磁性フォトニック結晶技術を用いて、CDサイズの光ディスクに1テラバイトの記憶容量をもち、かつ光通信網に直結可能な10ギガビット/秒に達するデータ転送レートをもつ小型体積記録装置(VRD)と、VRDを多重化して得られる未曾有のペタバイト情報ストレージ装置を世界に先駆け実現することで、新規の革新的ストレージ技術に立脚した新しい情報処理手法の確立促進と、やさしい情報化社会を構築することを究極的な目的とするものです。
中島 浩 豊橋技術科学大学 工学部・情報工学系 教授 超低電力化技術によるディペンダブルメガスケールコンピューティング コモディティ技術をベースとした100万プロセッサ級のディペンダブルなメガスケールコンピューティングの実現のために、プロセッサ、コンパイラ、ネットワーク、システム構築、プログラミングの基盤技術を研究し、従来比10倍の実装密度を持つ大規模プロトタイプクラスタ上に統合します。これによりペタフロップス計算が安価かつ現実的に実現し、ライフサイエンスなどE-Scienceの問題解決が可能になります。
萩谷 昌己  東京大学 大学院情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻 教授 多相的分子インタラクションに基づく大容量メモリの構築 本研究は、形態変化や自己組織化などの複数種類の分子反応を組み合わせた多相的インタラクションによる新しい分子コンピューティングの可能性を探究します。その具体的な応用として、分子メモリ素子の実現方法に関する研究を行います。巨大なアドレス空間を実現するために、多相的インタラクションを活用した記憶やアドレス参照の方式を開発することにより、微小かつ大容量のメモリの基礎技術を確立することを目指します。
          ※ 下線部は、研究の実施により期待される技術の発展や新技術の創製を示す。 
 

<水の循環系モデリングと利用システム>
−水資源と気候、人間活動との関連を踏まえた水資源の循環予測・維持・利用のシステム技術の創製を目指して−

氏名 所属機関 所属学部・
学科など
研究課題名 研究課題概要
沖 大幹  東京大学  生産技術研究所人間社会大部門 助教授 人間活動を考慮した世界水循環水資源モデル 国際社会の枠組みの中で非常に重要になりつつある世界的な水危機に関わる情報は、ほぼ全て欧米からの発信です。そこで、アジアの視点を踏まえた日本独自の世界水資源モデルを開発し、アセスメントを行います。大規模データベースと結合された水資源モデルの開発、水田分布の推定等稲作への配慮、環境用水需要の導入などによって、世界の水危機の現状とその軽減・回避策、将来展望に対するアジアからの情報発信を可能にします。
木本 昌秀 東京大学  気候システム研究センター 教授 階層的モデリングによる広域水循環予測 水循環予測に対する社会的な期待にこたえるため、本研究では、大気−海洋−陸面過程を総合して表現する気候の数値モデルを用いて、東アジア域を中心とした広域水循環変動の長期予測可能性を探求します。雨をもたらす気象条件のより良い表現のために、雲解像モデルや領域モデルを併用して長期予測モデルの精度向上を図ります。そして、広域水循環について、どのような現象が、なぜ、またどのように予測可能なのか科学的に検討し、長期予測の実現に貢献します。
楠田 哲也 九州大学 大学院工学研究院 教授 黄河流域の水利用・管理の高持続性化 黄河流域における水循環と水供給、農業生産と土地利用、土壌浸食と土砂供給、物質輸送と浄化を観測・把握するとともにモデル化し予測評価手法を開発します。さらに、移出入物質が持つ内包水を考慮の上、国家黄河流域開発計画に基づく水環境変化を予測し、持続性の高い流域水循環システムの新デザインの決定方法と案を提示します。これにより、流域圏の安定的な発展が期待されます。
杉田 倫明 筑波大学 地球科学系 講師 北東アジア植生変遷域の水循環と生物・大気圏の相互作用の解明 乾燥・半乾燥域は、植物生産性が低く気候変動や人間活動などの影響を受けやすい地域です。本研究では、北東アジアを対象とし水循環プロセスの視点から、これらの影響を解明します。本地域では最近、年々の降水量の減少と気温の上昇とが観測され、また過放牧による砂漠化の危険性が指摘されています。そこでまず現状を観測により把握し、プロセスのモデル化を行い、さらにモデルを利用し将来予測を行い、望ましい水利用システムを提案していきます。
寶 馨 京都大学 防災研究所水災害研究部門 教授 社会変動と水循環の相互作用評価モデルの構築 成長期から安定・成熟期に入るわが国と、人口増大・経済成長・産業転換・都市化の著しいアジア諸国の社会変動が、河川流域の水循環、国際的な水循環・水収支に及ぼす影響を予測できるようなモデルを構築します。気象・水文ダイナミクス(自然科学的水循環)と社会のダイナミズムとの相互作用、アジアの淡水資源の利用可能性・リスクを定量的に評価し、わが国の水資源(食糧・産業)政策・国際貢献戦略の将来像を明らかにします。
中村 健治 名古屋大学 地球水循環研究センターセンター長、教授 湿潤・乾燥大気境界層が降水システムに与える影響の解明と降水予測精度の向上 水循環の基本的要素である降水については、近年特に大気境界層の役割が重要視されています。大気境界層は海洋・陸面や乾燥域・湿潤域で異なり、さらに陸面でも地形、土壌水分また植生により変化しています。本研究では、アジアの湿潤域と乾燥域の境となる領域において大気境界層が降水システムに与える影響とそれが中緯度アジアの水循環へ与える影響を研究します。さらにこの結果を踏まえ、降水予測精度の向上や人為的地表面改変が将来の降水分布・水資源に与える影響等の予測のための解析等を行います。
          ※ 下線部は、研究の実施により期待される技術の発展や新技術の創製を示す。 
 

<物理的手法を用いたナノデバイス等の創製>
−ナノスケールでの物理現象を応用した画期的なデバイス、センシング、操作、制御に関する技術の創製を目指して−

氏名 所属機関 所属学部・
学科など
研究課題名 研究課題概要
猪俣 浩一郎  東北大学 大学院工学研究科材料物性学専攻 教授 スピン量子ドットメモリ創製のための要素技術開発  本研究は、新しい概念に基づく超大容量のスピンメモリの創製を目指しています。基本コンセプトは室温でクーロンブロッケードが発現する磁性量子ドットを開発し、そのトンネル磁気抵抗を電圧で制御することです。ナノ構造、大きな信号電圧を可能とする材料および2次元ドットアレー作製技術の開発を行います。本研究の成果として、テラビット級の不揮発性メモリの創製およびスピントロニクスの新しい展開が期待されます。
岩佐 義宏 東北大学 金属材料研究所 教授 ナノクラスターの配列・配向制御による新しいデバイスと量子状態の創出  フラーレンをはじめとする1-10nmスケールのナノクラスターは、単体としても固体としても独特の機能性を発揮する新規な素材です。本研究では、ナノクラスターの単体および固体の電子状態・物性を、デバイス構造を用いて制御します。ナノクラスター薄膜単結晶を形成し、これを用いて新しい超伝導体の探索を行うとともに、単分子操作・認識の原理を提案実証します、デバイス技術による新しい物質科学を切り開きます。
大串 秀世  独立行政法人 産業技術総合研究所 新炭素系材料開発研究センター 総括研究員、ダイヤモンド半導体チーム長 高密度励起子状態を利用したダイヤモンド紫外線ナノデバイスの開発  当グループは、シリコン半導体並みの高品質なダイヤモンド薄膜の合成に成功し、その膜で自由励起子による強い紫外線発光(235nm)の非線形光学効果を発見しました。この現象をナノスペースで発現するようにして、ダイヤモンドでの高密度励起子状態の把握と、それから導かれる新しいコンセプト(ボーズ凝縮)による紫外線発光・センサーのナノデバイスの実現を計ります。これにより、ダイヤモンドによる携帯可能な紫外線レーザや小型超高感度紫外線センサーの開発とこれを応用した新情報技術や環境疫学の発展が期待されます。
河田 聡 大阪大学 大学院工学研究科教授 非線形ナノフォトニクス  ナノ物質・ナノ構造の計測・操作・加工をフォトンを用いて行えば、他のナノプローブ・テクノロジーでは得られない興味深い効果と新たな特徴が期待できます。本研究では、近接場光学技術と非線形分光技術とを融合させた「非線形ナノフォトニクス」の基礎技術の開発と応用を目指します。特に、フェムト秒レーザー技術とプラズモン電場増強ナノプローブ作製制御技術を取り込んだナノスペクトロスコピーとナノデバイス開発に取り組みます。
小森 和弘 独立行政法人 産業技術総合研究所 光技術研究部門グループリーダー 光量子位相制御・演算技術  本研究は、光励起直後のコヒーレントな電子状態を位相ロック光パルス列で制御する量子位相制御法を用いた新しいナノデバイスの創製に関するものです。量子ナノ構造中の励起子とフェムト秒レーザ技術の双方を用いることによって基本量子論理素子とコヒーレント制御素子の実現を目指します。これらにより、固体量子計算素子への展開、従来よりも3桁以上高速の超高速光制御素子への展開が期待されます。
三澤 弘明 徳島大学 大学院工学研究科エコシステム工学専攻 教授 量子相関光子ビームナノ加工  新しい光物理現象である「量子相関を有するもつれ合い光子」の特異な振る舞いを利用して、高いスループットを達成しつつ、光の回折限界をはるかに超えるナノメートルスケールの加工分解能を実現する多光子ナノ加工技術の開発を目指します。このナノ加工技術により、可視・紫外3次元フォトニック結晶等の高機能フォトニックデバイスの作製が可能となり、単一光子・光子スイッチをはじめとする量子通信・量子情報処理技術の開発が期待されます。
          ※ 下線部は、研究の実施により期待される技術の発展や新技術の創製を示す。 
 

<化学・生物系の新材料等の創製>
−ナノスケールでの化学や生物系の革新的な機能材料、分子機械、バイオ素子、バイオセンサ技術の創製を目指して−

氏名 所属機関 所属学部・
学科など
研究課題名 研究課題概要
宇田 泰三  広島県立大学 生物資源学部・生物資源開発学科 教授 健康・福祉のためのナノバイオ材料およびバイオ素子としての「スーパー抗体酵素」の創製 「スーパー抗体酵素」は抗体でありながら抗原を酵素的に完全に分解します。 この研究ではガンや悪性ウイルスあるいは薬剤耐性菌に対する「スーパー抗体酵素」を作製し、引き続いて病因である標的抗原をナノスケールで効果的に攻撃・分解できるバイオナノ材料およびバイオ素子を創製します。 これにより人類の脅威となる感染症やガンなどの病気をナノテクノロジー技術を利用して予防・診断・治療できるようになることが期待されます。
大須賀 篤弘 京都大学 大学院理学研究科 教授 巨大ポルフィリンアレーのメゾスコピック構造デバイス 構造の明確な巨大ポルフィニノイドを有機合成し、それらの単一分子観察を行います。 ナノギャップ電極への接合を通じて、巨大ポルフィニノイドを集積・組織化して、メゾスコピックな物性の計測や金属-ポルフィリン界面を通じた電子輸送現象を解明します。 これらの研究により、将来の分子エレクトロニクス実現のための基盤の確立が期待されます。
岡野 光夫  東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 教授・所長 新規組織再構成技術の開発と次世代バイオセンサーの創製 細胞や組織はナノメーターサイズにドメイン化されており、機能発現・機能制御の最小単位となっています。 合成高分子、有機・無機ハイブリッド、金属・半導体を駆使してナノドメイン操作材料を創製します。 細胞が示すナノオーダーの出力を超高感度・リアルタイム・非侵襲的に検出するナノデバイスを用いて、高度な情報統合能をもつ細胞をインテリジェント材料として活用する中核技術と概念を世界に先駆けて確立します。
岡畑 恵雄 東京工業大学 大学院生命理工学研究科 教授 生体分子間相互作用を連続的に検出するための多機能型水晶発振子マルチセンサの設計と開発 代表者らはこれまで、水晶発振子ナノデバイスを用いることによりDNAのハイブリダイゼーション、DNA鎖へのタンパク質の結合、糖鎖表面へのレクチンの結合、などを定量的に評価できることを明らかにしました。 本プロジェクトでは、タンパク質を生体内のナノマシーンと見なし、細胞内でおこるタンパク質-タンパク質間の複雑な相互作用を解明、制御、構築することを目的にして、水晶発振子ナノバランスを多機能化、マルチ化し、生体内で起こる複雑な分子間相互作用を定量的に多角的に評価するための基礎研究を行い、プロテオームやガン化機構の解明に向けて実用化します。
片岡 一則  東京大学 大学院工学系研究科 教授 遺伝子ベクターとして機能するナノ構造デバイスの創製 この研究では、遺伝子を始めとする様々な医薬品を体内の狙った組織に運び、治療や診断を行う安全で高機能の「遺伝子ベクター」を、合成高分子や脂質分子の的確な自己組織化に基づいて作り出します。 このような遺伝子ベクターは、磁場や熱などの外場応答機能や天然の拡散医薬に優る機能性人工核酸の搭載などが可能なため、ウイルス本来の機能を越える分子ナノ・マシンとしての働きが期待されます。
山瀬 利博  東京工業大学 資源化学研究所 教授 ナノクラスターポリ酸を用いた分子機械の構築 金属酸化物クラスターであるポリ酸が次世代産業の根幹物質として極めて重要であることは、絶縁体から超伝導体までの電気的性質をもつ通常の金属酸化物を組み合わせたデバイスや機械が現代工業社会の根幹を形成している事実からも予測できます。 そこでポリ酸をナノテクノロジーの基盤材料と位置づけ、これまで光化学、電子材料、生物活性の多岐の分野で発見・集積してきたポリ酸の機能を組み合わせた分子機械の世界を構築します。 これはポリ酸を基盤とするナノテクノロジーの分野を我が国が主導すると同時に新しい産業の創出が期待されます。
          ※ 下線部は、研究の実施により期待される技術の発展や新技術の創製を示す。 
 

<生物の発生・分化・再生>

氏名 所属機関 所属学部・
学科など
研究課題名 研究課題概要
門脇 孝 東京大学 大学院医学系研究科内科学専攻糖尿病・代謝内科 助教授 脂肪細胞の分化・形質転換とその制御 肥満・糖尿病・高血圧・高脂血症は死の四重奏と呼ばれ、我が国の死因第一位である心血管疾患の最大の原因です。死の四重奏の根本的な病態は肥満=脂肪細胞肥大にあり、脂肪細胞の形質転換ととらえることが出来ます。本研究では、脂肪細胞の発生・分化・再生のメカニズムを解明し、その異常としての形質転換の分子機構を明らかにします。その情報に立脚して、死の四重奏の根本的治療法を確立し、活力ある高齢化社会の実現に貢献します。
坂野 仁 東京大学 大学院理学系研究科 教授 嗅覚系における神経回路形成と再生の分子機構 嗅覚系では数百種類の嗅覚受容体遺伝子により、数十万種類の匂い分子が識別されています。この識別を司る神経回路の形成は、1嗅覚受容体遺伝子−1神経−1投射部位という、基本ルールによって支えられています。本研究では、嗅覚受容体遺伝子の選択的な発現を支える分子機構と発現される受容体に規定されて生じる神経回路形成の解明を目指します。本研究で得られる成果により、生体の持つ鋭敏なセンシングシステムの新しい技術への応用、嗅覚及び味覚障害の治療などが期待されます。
佐藤 矩行 京都大学 大学院理学研究科動物学教室 教授 特異的・新規発生遺伝子の機能の網羅的解析 動物の体は数多くの遺伝子の働きによって作られてきます。この過程は非常に複雑で、体づくりに関わるもののまだその機能がよくわかっていない遺伝子がたくさんあります。本研究では、ホヤを使ってそうした新規発生遺伝子の機能を網羅的に解析し、特に重要と思われる遺伝子については両生類及びマウスでその機能を確かめます。これにより、私達ヒトの体づくりと健康に関わる遺伝子の理解の飛躍的な進展が期待されます。
野田 昌晴 岡崎国立共同研究機構 基礎生物学研究所 教授 網膜内領域特異化と視神経の発生・再生機構 網膜から伸長する視神経は視中枢に対し領域特異的な投射を行います。本研究では、この領域特異的神経結合形成の基盤をなす発生過程における網膜内の領域特異化の分子機構、また、その後に生じる領域特異的神経投射の分子機構を明らかにします。更に、哺乳動物における視神経再生の可能性を探る為、魚類を使って再生の最初期遺伝子の同定を目指します。本研究で得られた知見は再生医療への応用が期待されます。
          ※ 下線部は、研究の実施により期待される技術の発展や新技術の創製を示す。 
 

<植物の機能と制御>

氏名 所属機関 所属学部・
学科など
研究課題名 研究課題概要
岡田 清孝 京都大学 大学院理学研究科生物科学専攻植物学系 教授 植物発生における細胞間シグナリング 植物の分裂組織から器官が形成される過程や受精に至る過程において重要な役割を担っている「細胞間シグナル伝達機構」に注目し、シグナルの分子的実体や受容・伝達の分子機構を明らかにします。これにより、植物の形態と機能の多様な変化を支配する遺伝機構が明らかになり、植物形態と機能をより効率的で安全に変える人工的な制御の方法を見いだすことができると期待されます。
高林 純示 京都大学 生態学研究センター 教授 植物の害虫に対する誘導防衛の制御機構 我々は、害虫の食害を受けた植物が、その害虫の天敵を呼び寄せる匂いを救援信号として出す現象、及びこの匂いを受容した健全な株でも、誘導防衛を始める現象(植物間コミュニケーション)を明らかにしました。そこで本研究では、この匂い物質生産の分子メカニズムと、健全株での匂い受容メカニズムを明らかにします。天敵誘因物質生産に関する新たな植物の機能が解明され、天敵を効率よく利用する害虫管理技術の創出が期待されます。
西澤 直子 東京大学 大学院農学生命科学研究科農学国際専攻 教授 植物の鉄栄養制御 全陸地の25%を占める石灰質アルカリ土壌では、植物は生育に必要な鉄を吸収できず、極めて農業生産性の低い不良土壌となっています。本研究では植物の鉄栄養を制御する機構を明らかにすることによって、石灰質アルカリ土壌耐性植物を創製し、食糧の増産と砂漠の緑化を目指します。さらに超高鉄含有米を創製し、約37億人といわれる貧血症の改善を目指します。これらの新機能植物からはすべてマーカー遺伝子を取り除きます。
森川 弘道 広島大学 大学院理学研究科 教授 植物が作る未解明窒素化合物の構造と作用 代表者は植物に吸収された窒素酸化物や硝酸由来のNの約三割が、未解明のメタボライト(UN化合物と呼ぶ)に変換されることを発見しました。本研究は、この化合物の構造、生成・分解機構、生理作用を解明し、生物におけるN代謝の新しいパラダイムの提起を目指します。これにより、一酸化窒素(NO)などの活性窒素分子種の作用や硝酸過剰傷害の分子機構が解明され、他方、植物の環境修復機能や生産性の向上が期待されます。
若狭 暁 独立行政法人 農業技術研究機構 作物研究所稲研究部 遺伝子技術研究室 教授 トリプトファン生合成系における一次・二次代謝の制御と利用 植物トリプトファン生合成系はトリプトファンと二次代謝産物を合成します。本合成系の鍵酵素であるアントラニル酸合成酵素αサブユニットを改変し、タンパク質と植物体レベル機能を解析します。形質転換作物の代謝産物を解析するとともに、多様な変異体を獲得して、条件により誘導されるトリプトファン合成系ネットワークの解析を行います。これらにより、実用的で安全な高トリプトファン作物が作製され、有用な二次代謝産物の合成制御法開発への展開が期待されます。
          ※ 下線部は、研究の実施により期待される技術の発展や新技術の創製を示す。 
 

<高度メディア社会の生活情報技術>

氏名 所属機関 所属学部・
学科など
研究課題名 研究課題概要
池原 悟 鳥取大学 工学部知能情報工学科 教授 セマンティック・タイポロジーによる言語の等価変換と生成技術 本研究は、新しい原理に基づき、言語の意味処理技術を確立しようとするものです。「人間の対象把握作用には、言語に依存した思考形式が存在する」と言うセマンティック・タイポロジー(意味類型論)の観点から、言語の等価変換と文生成技術の実現を図ります。これにより、意訳型の機械翻訳システム(従来は、直訳型)と概念からの文生成技術の実現が期待されるほか、本技術は、文書の内容検索など幅広い分野への応用が期待されます。
金出 武雄 独立行政法人 産業技術総合研究所 デジタルヒューマン研究ラボ 研究ラボ長 デジタルヒューマン基盤技術 人間はシステムに関わる最も重要な要素であるにもかかわらず、その機能が最も理解されていない要素です。生理解剖、運動機械、心理認知の3つの軸にわたる人間機能を計算機上にどう統合モデル化し、実現できるか研究します。これによって、人間の形態や動きに合わせた製品、人間の感情を含む状態を理解し支援するシステム、人間的行動を行うロボットなど人間中心システムへの展開が期待されます。
高野 明彦 国立情報学研究所 ソフトウエア研究系 教授 連想に基づく情報空間との対話技術 情報空間における関連情報の探索・分析・提示と、脳における記憶の連想的探索・無意識的想起との新しい結びつきこそ、人間の創造性を高める情報技術のカギであると考えられます。本研究では、この新しい創造的相互作用を基礎づける「連想の情報学」の体系化を目指して、文書情報空間に奥行きと安心感を与える対話技法を構築します。ユーザが理解度に応じて平易な入門的解説から高度な専門的記述までを自在に渡り歩く手段の実現を目指します。
          ※ 下線部は、研究の実施により期待される技術の発展や新技術の創製を示す。 
 

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