科学技術振興事業団報 第186号

平成13年11月1日
埼玉県川口市本町4−1−8
科 学 技 術 振 興 事 業 団
電話 (048)-226-5606(総務部広報室)

「ナノ構造半導体の電子の波を見た
:量子ドット内の電子分布の直接測定に成功」

 科学技術振興事業団(理事長 沖村憲樹)の戦略的基礎研究推進事業の研究テーマ「相関エレクトロニクス」(研究代表者:平山祥郎、NTT物性科学基礎研究所)で進めている研究において、独自技術で作製した半導体ナノ構造を用いて、量子的に閉じ込められた電子の波の性質を直接観察することに、世界で初めて成功した。これは量子力学が古くから教えてきた量子的に閉じ込められた状態(*1)が半導体ナノ構造で本当に実現されていることを、あたかも顕微鏡を覗くように明らかにしたものである。この研究成果は、NTT物性科学基礎研究所量子物性研究部量子電子物性研究グループによって得られたもので、平成13年11月5日付けの米国物理学会発行の 「Physical Review Letters」 に発表される。

 半導体素子の高集積化が進む中、素子寸法はミクロン(千分の一mm)からナノメータ(百万分の一mm)の時代に移行しようとしている。しかし、電子が「波」としての性質を強めるナノ領域においては、電子を「粒子」として扱う従来の素子動作原理ではなく、量子力学を応用した新たな動作原理が必要とされる。そのため、現在、電子の波としての性質を解明する研究が、世界各国で進められている。特に、電子の波長と同程度の微小なサイズに電子を閉じ込めたナノ構造半導体(量子ドット *2)は量子力学を応用した革新的なデバイスである量子コンピュータ(*3)の基本構造になると期待されることから、注目を浴びている。しかし、その根幹となる、「ナノ構造半導体における電子の波としての性質」の直接観察には、誰も成功していなかった。一般の半導体では表面に電子がたまらず、ナノ構造は半導体中に埋め込まれていたためである。

 NTT物性科学基礎研究所の研究チームは、今回、インジウム砒素(InAs)と呼ばれる化合物半導体の特別な方向の表面を用いることで、世界で初めて「ナノ構造半導体において量子的に閉じ込められた電子の波としての性質」をナノスケールで直接観察することに成功した。このInAs面には表面近傍に伝導電子(*4)がたまるという優れた性質があるた
め、半導体内部の伝導電子の状態を表面から直接見ることが可能となった。さらに、この半導体では結晶成長中に正四面体の微細構造が形成され、ちょうどピラミッドが頂点を下にして埋め込まれたナノ構造ができる点も、有効であった。電子はこのナノ構造に閉じ込められるため、ナノ構造は量子ドットとして働く。今回の成果は、このナノ構造の中に量子的に閉じ込められた電子の状態を、表面に出ている三角形の平らな面から直接走査型トンネル顕微鏡(STM *5)の針で調べたもので、得られた測定結果は量子力学をもとにした理論的な電子分布の予測と良く一致している。また、量子的に閉じ込められた状態に特徴的な、電子が存在できる状態が特定のエネルギーに共鳴的に集中した状態も観測された。

 半導体素子で実際にその動作を担っている電子の波としての振る舞いがナノ構造半導体で顕微鏡を覗くように測定可能になったことは、電子の波としての性質が大切になる半導体ナノ構造デバイスの進展に大きく貢献するものと期待される。

 
本件問い合わせ先:
 (研究内容について)
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  主幹研究員(グループリーダ) 
    平山 祥郎(ひらやま よしろう)
       TEL: 046-240-3440
  主幹研究員
    山口 浩司(やまぐち ひろし)
       TEL: 046-240-3475
  主任研究員
    蟹澤 聖 (かにさわ きよし)
     TEL: 046-240-3567
   
なお本件に関しまして、直接上記研究者にインタビューの御希望がある場合は、科学技術振興事業団戦略研究課の高橋または金子まで連絡下さい。場所・時間をアレンジさせて頂きます。
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 (事業について)
   小原 英雄(おはら ひでお) 
   科学技術振興事業団 戦略的創造事業本部
   研究推進部 戦略研究課 課長
   〒332-0012 埼玉県川口市本町4-1-8
   TEL: 048-226-5635
   FAX: 048-226-1164

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