有機溶媒耐性抗体による貝毒の測定技術


本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。

(背景)
難水溶性・下痢性貝毒の簡便、短時間な測定法の開発を要望

 本来は無毒な食用二枚貝(ホタテガイ、ムラサキイガイ、アサリなど)が、季節的、地域的に毒化する事例が知られている。これは主に貝が食べる植物性プランクトンのうち、有毒種が増殖したときに起こり(食物連鎖)、毒素は貝の中腸腺(脊椎動物の肝臓及び膵臓に相当)に蓄積される。
 従来、下痢性貝毒の検査には、毒素を貝の中腸腺から有機溶媒により抽出し、これをマウスの腹腔内に投与して致死活性を測定する方法が公定法として用いられている。しかしながら、この方法は、結果が出るまでに24時間程度を要する。このため、簡便で短時間にこれらの下痢原性毒素(オカダ酸群化合物(オカダ酸・DTX1・DTX3)を測定する方法の開発が望まれていた。

(内容)
有機溶媒耐性の抗体を用いることで、簡便、短時間、高感度の測定を実現

 本新技術は、有機溶媒耐性のモノクローナル抗体を産生する融合細胞を選別し、この分泌物として得られた抗体を用いて、貝毒を抽出したアルコール類などの有機溶媒中で抗原抗体反応により貝毒を検出する。(1)毒素の抽出が有機溶媒による1回抽出で済むこと、及び(2)検出方法が抗原抗体反応を用いていること、により、貝毒を簡便、短時間、高感度に測定することが可能となった。
 これまで、抗原抗体反応は水系で行われていたが、本研究者らにより初めて有機溶媒中(アルコール類、ケトン類、アルコール=エーテル系混合溶媒など)における定量的な抗原−抗体反応を実現した研究成果が本新技術の基礎となっている。これは、(1)難水溶性の化合物の貝毒を親水性のキャリアー(ヒトIgGなど)と反応させ複合化抗原を作製し、これを用いて効果的にマウスを免疫する手法を見出したこと、(2)有機溶媒中でもその特性を失わないモノクローナル抗体を産生する新しい融合細胞を作製したこと、により実現したものである。 
 本新技術による下痢性貝毒(オカダ酸群化合物)の測定技術は、有機溶媒耐性モノクローナル抗体の製造工程及び酵素学的免疫測定法を行う工程より構成される。

 〔モノクローナル抗体の製造工程〕

 難水溶性の貝毒とヒトIgGを反応させ、水溶性の複合化抗原を作製する。これをマウスの腹腔内に投与し、抗体産生能が高くなったマウスの脾臓を摘出する。ポリエチレングリコールを用いてこの脾臓細胞とマウスミエローマ細胞(骨髄腫細胞)の融合細胞を作製し、培養後、有機溶媒耐性で、かつ、抗原に対して高い特異性を有する抗体を産生する融合細胞を選別する。
 選別した融合細胞を培養して、培養液からモノクローナル抗体を精製する。

 〔酵素免疫学的測定法〕

(1) 検体の添加      : オカダ酸群化合物に対する既知量のモノクローナル抗体を固定化したマイクロプレートに、有機溶媒で抽出した未知濃度の検体を加え、抗原抗体反応を生じさせる。
(2) 酵素標識抗原の添加  : プレートを洗浄して試料中の夾雑物を除去した後、酵素で標識したオカダ酸を過剰に添加し、反応させる。この反応によりプレート上に未反応で残っていた固定化抗体が全て反応する。
(3) 発色基質の添加    : 酵素に対する基質を添加し、基質酵素反応を生じさせ、その生成物量を吸光度を用いて測定する。
(4) 未知濃度検体の濃度決定: 得られた吸光度を、予め既知濃度の標準物質(オカダ酸群化合物)で作成しておいた検量線と比較して、濃度を決定する。

以上の酵素免疫学的測定をキット化し、操作の簡便化、短時間化、高感度化を図った。

(効果)
難水溶性の下痢性貝毒(オカダ酸群化合物)を簡便、短時間、高感度に測定

 本新技術には次のような特徴がある。

(1) 有機溶媒耐性抗体を用いた測定法であるため、検体(中腸腺)からの抽出、精製が簡便。
(2) 酵素免疫学的測定であるため、測定が1時間程度と極短時間、かつ公定法の約1万倍と高感度。

従って、以下の用途に利用が期待される。

(1) 下痢性貝毒のうちオカダ酸群化合物による食中毒の発生を予防するためのモニタリング。
(2) 公定法で測定する前に、大量の検体を測定するためのマススクリーニング。

特に水揚げ直後の貝の毒化を短時間でチェックできる効果は大きい。

注)この発表についての問い合わせは電話(03)5214-8996 内野までご連絡ください。  
   (企業連絡先)(株)ヤトロン 未来技術担当 百瀬
                  第一開発部 金子 (電話 03-3862-1761)


This page updated on March 5, 1999

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