「金属磁性材料用反応性イオンエッチング技術」の開発に成功


新技術の背景、内容、効果は以下の通りである。

(背景) 反応性イオンエッチングによる金属磁性材料の超微細加工技術の開発が望まれていた。

 近年のコンピュータ機器や携帯電話等の移動体通信機器の性能向上や小型化はめざましく、高密度記録用の磁気記録媒体の高密度化、磁気ヘッドの微細化、さらにはコイルやトランス等の構成部品の微細化が望まれている。
 構成部品は金属磁性材料で、その加工には従来、リフトオフ法(注1)やアルゴンイオンミリング法(注2)が用いられているが、サブミクロン(0.5mm程度)単位の超微細加工や生産性等に限界があった。そのために金属磁性材料をより超高精度に微細加工する技術が必要となってきた。
 反応性イオンエッチングは反応性ガスのプラズマ中に存在する活性種(注3)をエッチング材料表面の原子と反応させ揮発性の反応生成物を生成させ、これをエッチング材料の表面から脱離させることによりエッチングする技術である。この技術は半導体素子の超微細加工プロセスの基本技術として確立しているが、金属磁性材料への応用例はなく、これら材料系の超微細加工を達成するうえでも反応性イオンエッチング技術の開発が望まれていた。

(内容) 一酸化炭素およびアンモニアガスのプラズマを用いた新しい形の反応性イオンエッチングによる金属磁性材料の微細加工が可能となった。

 本新技術の開発に使用したエッチング装置の概略図と写真を図1に示す。装置は上部にプラズマ源として高周波アンテナがあり、中段のプロセス室には反応ガスの導入とエッチング材料とそれにイオンを引き込むために高周波(バイアス・パワー)が印加される基板ホルダーと真空系から構成されている。
 本新技術はプロセス室中に一酸化炭素(CO)ガスおよびアンモニア(NH3)ガスを導入し、高周波によりCOガスおよびNH3ガスのプラズマを発生させる。主にスパッタリング作用により金属磁性材料を脱離させエッチングする。ここで、NH3ガスは、遷移金属の存在下でCOガスの分解抑制とエッチング速度増加を目的に混合した。また、金属磁性材料に対する選択性(注4)も向上させることができる。優れたエッチング条件を見出すために種々の条件で開発を繰り返した。その結果、エッチング速度はプラズマ電圧と基板に掛けるバイアス電圧に依存していることがわかった。また、プラズマ形成のためのコイル電流とプロセス圧力等の条件を最適化することにより、プラズマ密度分布を均一化され優れたエッチング均一性が得られた。また、新たな知見として、金属磁性材料のマスク材料にチタン(Ti)またはタンタル(Ta)を採用することにより、選択比が著しく向上した。この機構は図2に示すようにマスク材料の表面とCOプラズマおよびNH3プラズマが反応し、変質層を形成した。その結果、マスク材料のスパッタリングに対する耐性が著しく向上し、選択比が向上したと考えられる。エッチング速度比(選択比)が10倍以上あり、従来技術であるイオンミリングと比較しても2〜3倍程度大きなエッチング効果が得られた。また、選択比が大きいということはマスク厚さを薄くすることができ、超微細加工に非常に有利である。図3には実際にエッチングを行った金属磁性材料の電子顕微鏡写真を示す。従来の方法でエッチングしたものと比較して示すが、非常にきれいなエッチング形状が得られている。
 以上のように、金属磁性材料へ適用できる新しい形の反応性イオンエッチング技術が開発できた。本プロセスをHM (Hardening Mask)エッチングと名づける。

(効果) サブミクロン単位での超微細加工が可能なため、高密度用磁気ヘッド、高密度磁気記録媒体、大容量高速メモリへの応用が期待できる。

 本新技術により、サブミクロン程度の超微細加工が可能となるため、コンピュータ機器のみならず、微小機械の製造における金属材料の加工にも応用にも期待できる。以下に一例として、適用領域を示す。

 (1) 磁気ヘッド、磁気メモリ
 (2) 磁気集積回路の製造
 (3) マイクロモーター、マイクロアクチュエーター

注1 リフトオフ法
 基板上に塗布したレジスト膜に図形を形成した後に磁性体薄膜をメッキ法等により形成した後、有機溶剤による溶解などによりレジストを除去する方法。
注2 アルゴンイオンミリング法
 加速されたアルゴンイオンをエッチング面に衝突させエッチングを行う物理的エッチング方法。
注3 活性種
 ガス分子に電子やイオンが衝突することにより形成された反応性に富んだラジカル
注4 選択性
 金属磁性材料のエッチング速度のマスク材料のエッチング速度に対する比の値。この値が大きい方が、マスク材料よりも金属磁性材料の方がよりエッチングされることを示す。

This page updated on June 28, 2001

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