「腹腔鏡下臓器摘出手術装置」の開発に成功


本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。

(背景) 腹腔鏡下手術とよばれる開腹をしない新しい手術方法における現状は、必ずしも満足すべきものでなく、新しい手術装置の開発が要望されていた

 近年、患者の肉体的負担をできるだけ軽減させるため、開腹手術に代わって、腹腔鏡下手術が胆のう摘出術等を中心に急速に普及しつつある。腹腔鏡下手術は、腹壁に小さい孔を設け、そこに腹腔鏡(CCDカメラ)や鉗子等の器具を体内に入れて、モニター画面を観察しながら行う手術である。この手術法は開腹手術に較べ筋肉等への損傷が小さいため、術後の痛みが軽微で回復が早く入院期間が短縮でき、また傷痕が小さく患者の心理的な負担も小さくできるなどの優れた特徴を持っている。このため、消化器系を中心に広く普及しつつある。
 しかしながら、腎癌等に対しては、その大きさが要因で臓器をそのまま摘出することが非常に困難であり、その摘出のためには臓器の細切、破砕が必要となる。現在、普及しはじめている悪性腫瘍を伴う比較的大きな臓器の摘出術の方法に、臓器を指で潰してから摘出する方法の他、ここ数年報告されはじめたハンドアシスト法がある。この方法は、切開孔から術者の片手を腹腔内に入れて従来の開腹手術と同じように臓器を直接出て触れて手術を行い、もう一方の手は、他の切開孔に挿入した腹腔鏡等を体外で操作して、腹腔鏡の視野のもとに行う手術である。しかしながら、この方法では、切開孔が術者の手の大きさに伴い、約70mmにもなり、腹腔鏡下手術の利点である侵襲を最小限に押さえるという点から離反しかねない方法である。つまり、腫瘍性病変を伴う比較的大きな臓器の腹腔鏡下での摘出術は、身体への侵襲を最小限押さえるという立場から見ると理想的な術式が無いというのが現状であった。

(内容) 腎臓など比較的大きな臓器の摘出手術にも腹腔鏡下手術が可能となった

 本新技術は、腹腔鏡下臓器摘出手術装置において、従来の大きな皮膚、筋の切開に替わり、約12mmの皮膚切開孔より腹腔鏡、臓器細切装置、および鉗子等を挿入し、効率よく摘出すべき臓器の病理学的試験片を採取したあと、臓器を破砕し体外へ搬出する腹腔鏡下臓器摘出装置に関するものである。
 その方法は、

@ 切除遊離した臓器を臓器摘出ポーチに収納する。
A 臓器摘出ポーチに炭酸ガスを注入し腹腔内に新たな空間を作る。
B 臓器摘出ポーチに設けられている開口部より腹腔鏡を挿入する。
C 病理学的診断に必要な部位を腹腔鏡の画像より判断し、標本切除器により切除 遊離させ、体外に取り出す。
D 破砕鉗子により、摘出臓器を小組識片の状態に破砕し、臓器摘出ポーチごと体外に取り出す。

という流れで行われる。
 また、本装置は、@臓器摘出ポーチ、A標本切除器、B破砕鉗子、C腹腔鏡、Dトロカーの装置及び器具により構成され、その概要は以下の通りである。

@ 臓器摘出ポーチ
 切除遊離させた摘出すべき臓器を収納する。臓器を収納する際の大開口部と腹腔鏡などの器具を挿入する小開口部を設けており、腹腔内へ挿入時には小さく折り畳むことが可能な柔軟性、組織破砕時の機械的衝撃に耐える強度、腫瘍細胞を漏出しない気密性が必要とされる。
A 標本切除器
 臓器より病理学的に診断する際の組織を細切し、体外に取り出す装置である。切除用モータと把持鉗子より構成される。切除用モータは、臓器を採取するための内部が空洞の回転刃をその先端に連結した回転部本体と回転部を制御するコントロールボックスからなる。把持鉗子は先端に大きく臓器をつかむことができる構造となっており、切除用モータの回転刃を挿入するための空洞部を持つ。空洞に挿入した回転刃は鉗子把持の先端部にガードされ、臓器摘出ポーチには接触しない構造となっている。
 操作方法は切除遊離させた臓器を把持鉗子により把持した後、鉗子後方より回転刃を挿入し、病理診断に必要な組織片を円筒形に取り出す。また、この操作を何度か行うことにより、臓器をある程度破砕することにもなる。
B 破砕鉗子
 臓器を臓器摘出ポーチごと体外へ取り出すことを容易にするために、小組織片の状態に破砕するための鉗子である。誤操作により臓器摘出ポーチを挟み込んでもポーチが破損しないことは確認されている。
C 腹腔鏡
 CCDカメラ及び光源を先端部に備え、腹腔内及び臓器摘出ポーチ内の映像をテレビモニターに映し出すものである。臓器全体を観察できるものとするため、視野角が150°と従来品にはない広角レンズを搭載している。装置は、腹腔鏡本体とCCDコントロールユニットより構成される。
D トロカー
 臓器摘出ポーチに標本把持鉗子や破砕鉗子を挿入する際のガイド孔となる器具である。ステンレス製のトロカー本体とその本体に着脱可能なカートリッジバルブより構成される。

(効果) 腹腔鏡下手術の適用できる疾患が増え、患者の負担が軽減

 本新技術をもちいた手術は、開腹手術や従来の腹腔鏡下手術と比較して

患者への侵襲(傷つけること)が少ない
腫瘍の進展様式や進展度の診断を可能とする病理学的試験片が容易に採取可能

であるなどの特徴を持ち、腎癌等の摘出手術等、今まで困難とされていた手術に対しても腹腔鏡下手術が適用されるものであり、多くの患者に腹腔鏡下手術の利点を供与できるようになることが期待される。



This page updated on May 10, 2001

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