研究主題「ATPシステム」の研究構想の概要


  生命は、細胞という一つの閉鎖空間のなかに自律的な反応場を形成している。細胞は、この自律的な反応場を維持していくために、エネルギーを取り込み利用するエネルギー代謝システムを絶え間なく運転している。細胞内では、機能に応じてさまざまな反応が営まれているが、この反応に必要なエネルギーのほとんどはATP(アデノシン5’-三リン酸)の加水分解によって供給されている。これまで、生化学研究の世界では、これらATPの供給系とその利用系、及び調節系は、それぞれ重要な研究領域を形成してきた。しかし、逆に個々の領域の重要性が、システム相互の連関を考えた統一的なプロジェクトの形成を妨げてきた。
 本研究は、細胞内の個々の酵素分子が、ATPが供給するエネルギーで駆動される一連のシステムを形成しているという考えのもとに、細胞内のエネルギー供給システムとその調節機構、及びエネルギー利用システムとその調節機構に焦点を絞った研究と、両者を統合した自律的な反応場の創成をめざすものである。
 具体的には、水素イオンによるATP合成酵素の回転機構及びATP合成機構の探究、ATPをエネルギー源として回転する新しい分子装置の探索、ATP合成酵素の制御機構の探究、さらには、これらを用いた人工膜系や生きた細胞の制御を試みる。
 本研究によってATPエネルギーの供給、駆動、制御システムが明らかになり、人工膜による閉鎖空間に構築することが可能になれば、現在の人工的な機械とは全く異なる次元のナノサイズの分子システムを実際に設計する一つの展望を開くことになる。それは、ナノプロセス技術、計測技術などの基礎的・基盤的技術を速やかに確立することが求められている中、既存の機械や遺伝子操作による細胞の改変とは全く異なる新しい概念を提唱することになる。すなわち、バイオテクノロジーと工学の融合による、ナノテクノロジーの革新技術の創製であり、将来の生命科学や生命工学分野に応用が可能な次世代の人工分子システムを提供するものとなろう。


This page updated on April 24, 2001

Copyright©2001 Japan Science and Technology Corporation.

www-pr@jst.go.jp