研究主題 「スピン超構造」の研究構想の概要


 物質の磁性を主に担っているのは電子のスピンであり、結晶構造や界面構造を制御してスピンの傾きや空間的配置を操ることにより新たな磁気電子特性、磁気光学特性を発現させることができる。近年、遷移金属を含む酸化物等において、電子のスピンの向きが結晶格子上で周期的に変化している「スピン超構造」により、超巨大磁気抵抗効果(磁場印加により電気抵抗が著しく減少する効果)等の磁気電子物性が見出され、その可能性が注目されている。
 本研究では、理論的に設計されたスピン超構造を有する物質を積極的に創製し、これら物質が外部刺激を受けた際に生じる電気・磁気・光学的性質の変化を明らかにしながら応用展開の可能性を探る。特に、原子サイト間をホッピングする伝導電子が、スピンの空間的な配置により波動関数の位相変化を受けるのを活用して、実効的に数万テスラという超巨大磁場を印加したのと等価な状況を作り出すなど、これまでにない巨大な磁気電子的応答を取り出そうという未踏のアイデアに挑む。
 具体的には、スピン超構造による電子の位相変化発現の理論構築及び実証を図る一方で、スピン超構造により顕著にもたらされるであろう巨大な異常ホール効果や磁気光学効果を探求する。また、スピン超構造の設計と物質作製手法、精密なエピタキシー技術の構築などを図る。更に、これらの成果に基づいて、フェムト秒光パルスを用いたテラヘルツ域のスピン状態の超高速制御技術といった新しいスピントロニクス機能への展開の可能性を探る。
 本研究は、単なるナノスケール超格子だけではなく、原子レベルでのスピン構造まで設計した超構造系における普遍的な原理の提案と実証を試みようとするものであり、新しい原理に基づく新機能素子、超高速素子の開発に資するものとなり得る。これにより、新しい固体物性の研究領域が拓け、情報通信分野における次世代の超高速大容量情報処理技術の構築への端緒が得られると同時に、環境や医療等の分野を越えたナノテクノロジーにおける革新的新技術の創製につながることが期待される。


This page updated on April 24, 2001

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