「窒化ガリウム系短波長半導体レーザの製造技術」の開発に成功


新技術の背景、内容、効果は以下の通りである。

(背景) 紫色で発光する(短波長)半導体レーザの開発が望まれていた。

 半導体レーザ素子は小型、軽量、低消費電力及び長寿命などの特徴があるため、光記録、光通信、レーザプリンタなど産業用、民生用機器の光源として広く利用されている。現在実用化されている半導体レーザ光はその波長が長く(波長:650nm〜800nm)、赤色から赤外域領域である。
 一方、光ディスクなどの光記録装置では、情報記録量のさらなる増大が求められている。集光レンズによるレーザの焦点径は、光源であるレーザの波長が短いほど小さくなり、記録密度を増大させることができる。そのため、短波長の半導体レーザが必要とされていた(注1)。また、レーザビームを用いたフルカラーディスプレイ等の実現には三原色の一つとして、青色のレーザが不可欠となる。さらにレーザプリンタの高速化、フルカラー化のためには、エネルギーの高い、波長の短い半導体レーザの開発が望まれていた(注2)。
 従来の長波長(赤色)半導体レーザには砒化ガリウム(GaAs)系の材料が用いられていたが、短波長(青紫色)半導体レーザを発振させるためには、窒化ガリウム(GaN)系の半導体結晶が必要となる。ところが、従来技術では窒化ガリウム系材料の欠陥のない良質な半導体結晶を作製することはできなかったため、多彩な用途があり多くの分野から要求されていたにも関わらず、短波長半導体レーザの実用化は困難であった。

(内容) 良質の窒化ガリウム系半導体結晶の作製等により、短波長(青紫)レーザの安定連続発振に成功した。

 本新技術では基板上に窒化ガリウム系半導体結晶を成長させる基礎として、まずサファイア基板上に低温バッファー層としての窒化アルミニウムの層を作製する。次に、この基板上に、半導体結晶を構成する元素(ガリウム,アルミニウム,インジウムおよび窒素)および不純物元素(マグネシウム,シリコン等)を含む数種類のガスを送り込み、加熱し熱分解させることで、所定の積層構造を持つ半導体結晶を成長させる(図-1)。結晶成長過程での、原料ガスの流量,圧力及び温度等の条件を最適化し、凹凸の少ない高品質の多重量子井戸構造(注3)の作製に成功した。独自の技術による結晶欠陥低減層を導入することにより、極めて欠陥の少ない結晶を作製した。また、層構造は分離閉じ込め型構造(注4)とし、多重量子井戸層にキャリア(正孔(注5)と電子)を閉じ込め光導波路となる光ガイド層の層構成を従来のGaNに代えGaInN/GaNを用いることで、光閉じ込め効率を大幅に向上させた(図−2)。
 また、レーザ発振に伴う熱の除去も半導体レーザの高出力化、長寿命化のために重要な課題であり、放熱を促進するジャンクションダウンの実装技術も開発した。
 以上のように、多くの重要技術を確立し、短波長域(波長:400 nm〜420 nm)で安定連続発振が可能な半導体レーザを実現した。図-3に短波長半導体レーザ製品の外観写真を示す。

(効果) 波長が短くエネルギーが高いため、大容量次世代DVD用光源、半導体微細加工、フルカラーディスプレイなどへの利用が期待される。

  本新技術による窒化ガリウム系材料を用いた半導体レーザから発振する光は波長が短く青紫色であり、また光のエネルギーが高いため以下のような分野への応用が期待される。

(1) 大容量DVD用の読み取り用光源
(現在の記録容量は5.2GBであるが、短波長レーザの採用により20GB以上が可能)
(2) フルカラーディスプレイ
(三原色レーザ投射方式、紫外線レーザによる蛍光スクリーンへの投影方式など)
(3) レーザライトショー
(4) レーザビームポインター
(5) ホログラフィー
(6) 半導体基板の微細加工
(7) 高速レーザプリンタ
(8) 植物栽培用光源


語句の説明

注1) レーザ光波長と焦点径の関係
 光(自然光)は光学レンズによって完全な点に集光されるわけではなく、ある程度の大きさを持った焦点となる。レーザ光(単色光、コヒーレント光)の場合にはこの焦点径とレーザ波長は比例関係にあり、波長が短いほど焦点径も小さくなり、したがって、光ディスクへの記録密度を高めることができる。現在のDVDの記録容量は5.2GBであるが、本新技術の短波長レーザを用いれば20GB以上(スーパーDVD)まで記録情報量を高めることが可能となる。
(GB:ギガバイト、バイトは情報量を表す単位、ギガは109を示す)
注2) 光の波長とエネルギー
 光の波長λとエネルギーEとの間には、
     E=C・h/λ  cは光速、hは物理定数(プランク定数)
 の関係があり、波長が短いほど光のエネルギーは大きい。このため、短波長レーザではレーザプリンタや材料加工などがより短い時間で可能となる。
注3) 多重量子井戸構造
 正孔と電子が効率よく再結合し、レーザ発振を容易にする構造。
 図−4に多重量子井戸構造のエネルギーバンド図を示す。縦軸は電子のエネルギーを示している。電子及び正孔は極めて薄い層であるエネルギーの井戸(量子井戸層)に閉じ込められ、量子状態のエネルギーをもつようになり、再結合確率が向上するとともにレーザ発振に必要な反転分布が生じやすくなる。このような量子井戸層を複数個設けた構造を多重量子井戸構造という。
注4) 分離閉じ込め型構造
 半導体レーザにおいて、光およびキャリアを閉じ込める機能の層を分離して設ける構造。
 キャリアの再結合により発光させる発光層の上下に、光を導波する層(光ガイド層)を設け、さらにその外側に、広いバンドギャップを利用して発光層内にキャリアを閉じ込める層(クラッド層)を有する構造。(図−5
 この構造により、キャリア及び光の閉じ込めが向上し、レーザ発振が容易になる。
注5) キャリア
電荷をもった担体。移動することによって、電流が流れる。負の電荷を持った電子と正の電荷を持った正孔がある。

This page updated on April 19, 2001

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