「低エネルギー電子線を用いた穀物殺菌システム」


本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。

(背景) 従来の過熱水蒸気殺菌法では、耐熱性菌の殺菌が困難な上、強い熱処理による食品原材料の品質の低下を招くという問題があった。

 加工食品の製造に使用される食品原材料は、細菌等の微生物により汚染されていることが多い。これらの微生物は通常は加工段階での熱処理等によって殺菌されるが、原材料の輸送や保管の過程で増殖して、原材料や製品の品質を損なう恐れがある。さらに、近年、冷凍食品やチルド食品等の中で強い加熱処理を行わない加工食品が増加するのに伴い、微生物の汚染が少ない原材料の使用が強く求められるようになっており、原材料の殺菌は食品加工において重要な課題となっている。
 加工食品の原材料となる食品の中で、小麦、殻付蕎麦、玄米等の穀物、豆類等、乾燥状態の食品原材料の汚染は、乾燥した内部に微生物が侵入出来ないため、表面に付着する微生物によって起こることが多い。これらの微生物は耐熱性の高い細胞である胞子を形成することが多く、加熱処理や殺菌剤、乾燥等に対する抵抗性が高いため、完全な殺菌は困難な状況である。
 従来、このような乾燥食品原材料の殺菌には、過熱水蒸気殺菌法(2〜3気圧程度、150〜200℃程度)により原材料の殺菌が行われていることが多い。しかし、この方法では耐熱性の微生物の完全な殺菌が困難である上、強い熱処理によるタンパク質やでんぷんの変性、香り成分の揮散や色調の劣化等の原材料の品質低下を招く等の問題があった。このため、品質の低下を伴わず食品原材料の表面を殺菌できる技術が望まれていた。

(内容) ソフトエレクトロンを食品原材料の全表面に均一に当てることにより、小麦の表面のみを殺菌し、かつ、その品質の低下の極めて少ない殺菌システムを実現した。

 本新技術は、食品原材料に使われる乾燥状態の小麦粒等を回転、移送させながらソフトエレクトロンを均一に当てることにより、品質の低下を伴わずに原材料表面を殺菌するシステムを提供するものである。ソフトエレクトロンのエネルギーを制御すること等により、ソフトエレクトロンを小麦粒等の極表面にしか到達しないようにすることが可能であり、粒子内部の品質への影響が最小限に抑えられる。
 本開発ではソフトエレクトロンの加速電圧、線量、搬送量等を調整することにより、小麦について極表面(50〜150μm程度)のみを殺菌できるシステムを完成させた。本システムは、@ソフトエレクトロン発生装置、A食品原材料の粒子を回転、移送させながら均一に殺菌する粒子反転移動装置等で構成される。

@ ソフトエレクトロン発生装置
 真空チャンバー内に複数本のフィラメントが配置されており、真空中で加熱されたフィラメントから電子を発生させる。この電子に直流電圧を加えて加速し、外皮付きの小麦粒等の殺菌に適する強度のソフトエレクトロンを発生させる。ソフトエレクトロンは薄い金属箔の窓を通過して、粒子反転移動装置に当てられる。
A 粒子反転移動装置
 平面状の搬送面(小麦粒等の進行方向に若干傾斜)の下に振動モーターを設け、モーターを回転させることによってその搬送面を上下方向に振動させる。搬送面に供給された小麦粒等は、搬送面に弾かれることによって回転しながら前方の取り出し口へ進む。この過程で、小麦粒等がソフトエレクトロン発生装置のビームエリアを回転しながら移動する際に、その表面に着いている微生物がソフトエレクトロンのエネルギーを受け、分子レベルで破壊されることにより殺菌される。


(効果) 小麦等の食品原材料の内部品質の変性、風味、色調等の劣化が少なく、原理的には大腸菌O−157も殺菌できるシステムのため、小麦等の乾燥食品原材料の殺菌への利用が広く期待される。

 本新技術で得られた低エネルギー電子線を用いた穀物殺菌システムには次のような特徴がある。

(1) 小麦等の食品原材料の表面を殺菌できる(原理的には大腸菌O−157も殺菌可能)。
(2) 殺菌処理に伴う食品原材料の品質の低下が少ない。
(3) ソフトエレクトロンのエネルギーが低いためシステムの取扱・管理に関する法律上の義務がない。

したがって、小麦等の食品原材料の殺菌への利用とともに、加工食品の腐敗や食中毒を抑制できるシステムとして広く使われることが期待される。


This page updated on February 20, 2001

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