「カルシウム振動」プロジェクトの概要


 細胞は外部の刺激に応答して様々な生理作用を示す。外界の情報を伝える物質が細胞膜の受容体に結合すると、細胞内で新たに別の情報伝達物質が作られ、これが細胞の代謝を調節したり、構造を変化させたりすることで生理作用が引き起こされる。二価の金属イオンであるカルシウムイオン(Ca2+)は、濃度変化により細胞機能を調節する働きをもっており、普遍的に全ての細胞で働き、作用が多様なことが特徴である。
 Ca2+は遺伝子の転写、細胞骨格蛋白質の重合・脱重合、あるいは細胞接着の他、免疫、内分泌、神経伝達など様々なレベルの生命現象に関与しているが、Ca2+が細胞の多様な生理機能の発現を制御する仕組みについてはこれまで解明が進んでいなかった。
 近年、小胞体からのCa2+放出の制御が細胞の生理作用の制御に重要な働きをすると考えられるようになり、Ca2+放出の制御を担うのはイノシトール3リン酸(IP3)受容体であろうと想定されたが、この分子の実体が不明であった。
 御子柴教授らは小脳失調動物で欠落している分子がIP3受容体であることを突き止め、IP3受容体のアミノ酸配列(当時世界で二番目に大きな分子であった。)を決定し、分子レベルでの研究が可能となった。
 これらの研究の進展に伴い、IP3受容体の制御のもとで小胞体からCa2+が放出されると細胞内Ca2+濃度に振動が現れ、このいわゆるCa2+振動がどのような機構で生じるのかということが疑問として現れた。さらに最近、Ca2+振動が疾病にも関わることが明らかとなってきたため、Ca2+振動機構の研究は重要性を増してきている。相手側研究者のAperia教授らは、細菌毒素がCa2+振動を起こすことを発見しており、両チームの共同研究により、この現象の解明が加速すると期待される。
 本共同研究では、Aperia教授は主として細胞・組織・個体レベル、一方御子柴教授は分子(遺伝子、蛋白質)レベルの解析からアプローチしていく。
 Ca2+振動と、生理機能の発現メカニズムや疾病を引き起こす病態発現メカニズムの関わりを解明していくとともに、細胞機能をコントロールする医薬品の開発にもつなげていく。また、Ca2+振動の産生機構の研究についてはバイオリズムの解明へも大きな切り口になると考えられる。


This page updated on December 12, 2000

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