高融点材料の直流・高周波複合プラズマ溶射装置


本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。

(背景)
高融点材料の皮膜を均一、緻密に形成できる技術が望まれていた

 ジルコニア、アルミナなどのセラミックス系高融点材料は、耐熱性、耐食性、硬度などが優れているが、硬くもろいため、単体では、機械部品として使用することが困難であった。そこで、鉄といった金属などの部材の表面にこれらセラミックス系高融点材料の皮膜を形成することで、その優れた特性を活かすことができる。そのため、これらセラミックス系高融点材料の皮膜を能率良く安価に形成できるプラズマ溶射法が注目されている。
 プラズマ溶射法とは、高温のプラズマ状態にあるガスに皮膜形成用高融点材料の原料粉末を注入、溶融し、鉄鋼などの部材に吹きつけ皮膜を形成するもので、プラズマの発生原理の違いから直流法と高周波法がある。直流プラズマ溶射法では、プラズマの流れが早いため、注入する原料粉末を完全に溶融することが困難で、未溶融粒子が混在した状態で吹きつけられる。一方、高周波プラズマ溶射法では、プラズマ内のうず流の存在から、原料粉末の均一注入が困難で、高融点材料を均一に溶かすことができず、いずれの場合も均一、緻密で均質な皮膜を形成することができなかった。

(内容)
プラズマジェットにより高周波プラズマ中に原料粉末を注入しムラなく加熱

 本新技術は、こうした、直流法及び高周波法の欠点を解決するものである。その構造は、直流と高周波プラズマ発生部等を直列に配置し、直流部では原料粉末の加速、予熱により高周波部への円滑な注入を行い、高周波部では溶融に必要な熱エネルギーを原料粉末に付与する機能を備えることにより、原料粉末をムラなく均一に加熱、溶融して部材表面に吹きつけ皮膜を形成するもので、従来困難であった高融点材料の均一で緻密な溶射皮膜の形成を可能とするものである。
 本溶射装置の基本構成は以下のとおりである。(

(1) 直流プラズマ発生、原料粉末注入部(直流トーチ)
 タングステンなどの高融点金属で作成した針状電極と水冷円筒電極を対向させ、直流電力を加え、この電極間にアルゴンなどの高圧ガスを噴射し、プラズマジェットを発生させる。次に、原料粉末を含むキャリアガスをプラズマジェットに吹き込み加熱する。
(2) 高周波プラズマ発生、原料粉末溶融部(高周波トーチ)
 耐熱容器をプラズマの熱から守るためガスを容器壁面に流しながら、高周波電磁場によりプラズマを発生させる。発生させた高周波プラズマに直流部からプラズマジェットを吹き込むと、プラズマジェット周辺の原料粉末は巻き込まれるように高周波プラズマ内に注入され、プラズマジェット、高周波プラズマ双方から熱を授受し、完全に溶融する。
(3) 溶射皮膜形成部
 皮膜を形成する部材の温度を測定し、最適温度を保つように冷却水の流量を制御しながら部材を三次元移動させ、均一な皮膜を形成する。また、管状部材表面への溶射のための回転機構を合わせ持つ。
(4) 運転制御部
 皮膜を形成する部材、電極、耐熱容器など装置各部の温度、容器内のガスの圧力、温度、流量、電源電圧、電流などを測定し、目的とする溶射皮膜を形成するための最適条件をコンピュータにより制御する。

 本開発により500kWレベルの高出力な複合プラズマ溶射装置を実現すると共に、本装置により、理論密度5.95g/cm3に対して93.2%以上の密度を持つ緻密なジルコニアの溶射皮膜が得られた。また、原料として投入されたジルコニア粉末の38.8%以上が皮膜となった。

(効果)
高融点材料の緻密な溶射皮膜を安価に形成することができる

 本装置には、最適運転条件を保つことによりジルコニア(融点2,720℃)などの各種高融点材料の均一で緻密な溶射皮膜が形成できる、直流部と高周波部の運転条件を独立に制御できるため、運転制御が容易であるなどの特徴を有するので、鉄鋼製造関係装置部品、航空機エンジン部品、固体電解質燃料電池、医用埋め込み材料の表面処理などへの利用が期待される。

(注)この発表についての問い合わせは以下のとおりです。
科学技術振興事業団 開発業務部管理課長   内野裕雄
          管理課         中田一隆[電話(03)5214-8996]
日本高周波株式会社 システム事業部技術部長 神田 稔[電話(045)939-6961]


This page updated on March 5, 1999

Copyright© 1999 JapanScienceandTechnology Corporation.

www-pr@jst.go.jp