「急速加熱粉末鍛造法によるアルミニウム合金部品の製造技術」


(背景) 強度と靱性(注1)に優れたアルミニウム合金の出現が要請されていた。

 機械産業の分野では、高効率化や省エネ化が進められており、この方策の一つとして従来の鉄系部品をより軽量なアルミニウム系部品で置き換えることが検討されている。このため、高強度のアルミニウム合金が開発されたが、この合金は強度を維持しながら十分な靱性を得ることは困難であった。運動機械部品として用いるには高強度だけでなく高靱性であることも必要であり、この両者の特性を併せ持つ軽合金部品の実現が強く望まれていた(図-1)。

(内容) 金属組織を微細構造(微少な結晶粒子)とすることで、強度および靱性に優れたアルミニウム合金が製造できた。

 一般に金属の変形は金属結晶粒子内の転位(注2)の移動によるが、結晶粒子が小さいほど転位の移動量も少なくなるため変形が抑えられ、したがって高強度になる(注3)。また、結晶粒子が微細であると衝撃力が加わった時に、その力が一点に集中せず亀裂が発生しにくいため、靱性も向上する。以上のことから高強度と高靱性の両立にはできるだけ小さい金属結晶粒子とすることが必要となる。従来のアルミニウム合金は金属結晶粒子の大きさが数十〜数百マイクロメートルであるのに対して、本新技術で製造した結晶粒子の大きさは数百ナノメートルと従来の1/100〜1/1000程度まで小さくすることができ(図-2図-3)、高強度と高靱性の両立に成功したものである。
 本開発における合金の製造(図-4)は、まず主原料であるアルミニウムにジルコニウム、遷移金属(Ni)及び希土類金属(Ce,La)を少量加えて合金原料を溶融させ、高圧のガスにより噴霧し急冷凝固させてアルミニウム合金の粉末を作成する。この時、ジルコニウムはアルミニウム結晶粒の成長核(Al3Zr)となるため、これを分散させることで、溶融合金中のあらゆるところで結晶粒の成長が開始する。そして急冷するため一つのアルミニウム結晶粒子がゆっくり大きく成長することはない。遷移金属、希土類金属もアルミニウム化合物として分散し、結晶粒を大きく成長させない作用があると考えられており、結果的に非常に小さい結晶粒子が数多く存在する金属組織を持つ合金粉末となる。次にこのアルミニウム合金粉末を、固化形成させるために加圧・加熱が行われる。従来技術では加熱する過程において高温により結晶粒子が肥大化してしまうが、本新技術では極短時間で加熱・冷却するため、結晶粒子が成長して肥大化する前に、固化形成が完了し、微細な結晶粒子構造が維持される。
 以上の金属組成及び製造方法により、高強度と高靱性を有する新アルミニウム合金が開発できた。また、高温でも金属組織が変わり難いため高温での強度が保持され、疲労強度(注4)にも良好な特性のあることも確認された。

(効果) 強度、靱性、疲労強度に優れているため、各種機械における運動機械部品への応用が期待される。

 本新技術によるアルミニウム合金部品は、軽量で、高温強度、靱性、疲労強度に優れた合金であるため、以下のような分野において利用されることが期待される。

(1) 航空機や輸送用車両用部品
動弁系部品など高速で動く部品やリベット、留め具
(2) 家電製品
エアコンのコンプレサー部品やベーンなどの運動部品
(3) 生活用品
自転車やメガネフレーム

This page updated on October 12, 2000

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