(別紙3)

「戦略的基礎研究推進事業」平成12年度採択研究課題の概要


1.研究領域「高度メディア社会の生活情報技術」

研究代表者: 木戸出 正継
所属・役職: 奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 教授
研究課題名: 日常生活を拡張する着用型情報パートナーの開発
概   要:  日々違った事象に遭遇する日常の社会環境で、ユーザの置かれた状況に応じた強力な生活支援をオンデマンドに、更にはユーザが意識して欲求しなくとも自発的に提供できる携帯型の汎用情報デバイス、すなわち現代人の「情報パートナー」を実現する。具体的な研究開発は、プラットフォーム基盤技術(OS、データベース、ネットワーク)、入出力インタフェース、知的アプリケーションの各レベルの連携をさせながら統合的に推進する。

研究代表者: 舘 ワ
所属・役職: 東京大学 大学院工学系研究科 教授
研究課題名: テレイグジスタンスを用いる相互コミュニケーションシステム
概   要:  空間と時間の壁を乗り越えることと等価な体験を与え、バーチャルな意味での「存在感」の相互提示を行うことが、テレ・コミュニケーション(遠隔通信)のめざす理念である。この理念に基づき、テレイグジスタンス技術を用いて利用者がお互いに物理的に遠く離れていても、あたかも同一の空間を共有し、すぐそばにいるかのように顔を合わせて会話することができる相互テレイグジスタンスシステムの開発を目標とする。

研究代表者: 辻井 潤一
所属・役職: 東京大学 大学院理学系研究科 教授
研究課題名: 情報のモビリティを高めるための基盤技術
概   要:  ネットワーク社会において、発信者・受信者が個別に持っている「情報の背景に存在する知識(オントロジー)」を、情報の収集、構造化、提示の各過程で反映する能動的な技術について研究する。
 具体的には、(1)テキストとオントロジーの相互関係を扱う自然言語処理、(2)能動的な情報収集を行うエージェント技術、(3)オントロジーの相互変換と統合を行うオントロジー工学、(4)能動的な情報収集を分散的な環境で行うソフトウェア技術、を有機的に統合して研究を行い、真に「情報のモビリティ」が高いコミュニケーション技術の開発をめざす。

研究代表者: 橋田 浩一
所属・役職: 工業技術院 電子技術総合研究所 情報科学部 部長
研究課題名: 人間中心の知的情報アクセス技術
概   要:  意味構造を明示した情報コンテンツを半自動的に作成し利用する技術、およびユーザの置かれた状況を検知してそれに適応する技術の研究開発を行う。これに基づき、人間の優れた知的能力を最大限に活用することによってさまざまな情報に効率よくインタラクティブにアクセスするための技術体系の構築をめざす。

2.研究領域「電子・光子等の機能制御」

研究代表者: 鈴木 義茂
所属・役職: 工業技術院 電子技術総合研究所 材料科学部 主任研究官
研究課題名: 固体中へのスピン注入による新機能創製
概   要:  エレクトロニクスにおいて電子スピンの自由度をより積極的に利用する技術を確立するために、固体中に非平衡スピンを注入し、その伝搬と相互作用を研究する。具体的には、スピン依存共鳴トンネリングによる電流のスイッチングの実現、スピン偏極電流の注入による磁化反転と磁気相転移の誘起をめざす。この研究は、強磁性体RAM(M−RAM)において情報の書き込みと選択スピンにより行う新しい技術を与える。

研究代表者: 中村 和夫
所属・役職: 日本電気株式会社 基礎研究所 研究部長
研究課題名: 量子暗号の実用化を可能にする光子状態制御技術
概   要:  物理法則に絶対的安全性を保証された量子暗号が注目されているが、現在、短距離専用線の限られた応用しか見えない。広範な実用化の為には、伝送距離向上の中継技術等、ブレークスルーが必要である。この為には「絡み合い」と呼ばれる量子力学的性質の利用が不可欠で、この研究では小型化にに必須な固体素子による「絡み合い」の生成と制御を実現し、量子暗号への応用を図る。又、「絡み合い」の理論を進展させ、素子開発への指導原理を得る。

研究代表者: 野田 進
所属・役職: 京都大学 大学院工学研究科 教授
研究課題名: フォトニック結晶による究極の光制御と新機能デバイス
概   要:  独自の極微細構造融着技術を用いて、様々な欠陥や発光体を含むフォトニック結晶を作製し、発光や光伝播に与えるフォトニック結晶の効果を明らかにするとともに、超高効率発光デバイスや、極微小曲がり導波路等の光部品を備えた革新的な極微小光デバイス・回路の実現をめざす。これらにより、真に光チップと呼べる新しい光回路が可能となるのみならず、量子演算可能な新しい場の提供や、高非線形機能、光メモリー等への展開が期待される。

研究代表者: 花村 榮一
所属・役職: 千歳科学技術大学 光科学部 教授
研究課題名: 強相関電子系ペロブスカイト遷移金属酸化物による光エレクトロニクス
概   要:  強相関電子系ペロブスカイト型遷移金属酸化物の特性である強い振動子強度、電子の伝播性及び超伝導を活用した光デバイス開発をめざす。第一に、可視域で発振可能なレーザー物質の開発。第二にこれを用いたLEDとLDの作成。第三に電子型・正孔型超伝導体と反強磁性絶縁体からなる光導波路を作成し、電子クーパー対と正孔クーパー対の消滅によるコヒーレントな超短光パルスを対発生させ、その特性を研究しデバイス化を試みる。

3.研究領域「分子複合系の構築と機能」

研究代表者: 香月 勗
所属・役職: 九州大学 大学院理学研究科 教授
研究課題名: 次世代合成のための多機能集約型触媒の構築
概   要:  触媒活性が高く、かつ耐久性に優れた触媒の開発と酸素分子などの小分子の活用は「グリーン合成」の達成のために不可欠である。この研究では、安定で設計容易な触媒先駆体に高度な不斉認識能、新規活性種の発生、さらには小分子活性化などの多機能を賦与し、その簡便な活性化法を導入することにより、多機能集約型触媒の構築を行い有機合成のトータル効率の飛躍的な改善をめざす。

研究代表者: 清水 敏美
所属・役職: 工業技術院 物質工学工業技術研究所 有機材料部 研究室長
研究課題名: 一次元孤立微小空間構造の組織化と機能発現
概   要:  分子をボトムアップ的に自己集合させて繊維状の有機ナノチューブを大量、簡便に合成する。その従来にない10〜20ナノメートルの一次元孤立微小空間構造を利用してファブリケーション(形態・構造制御、安定化)とマニュピレーション(基板等への固定化、配列・組織化)を実現するとともに、液相ナノ空間科学を解明する。さらに、DNAなどの有用高分子を認識、包接、分離、放出できる機能発現をめざす。

研究代表者: 田中 晃二
所属・役職: 岡崎国立共同研究機構 分子科学研究所 教授
研究課題名: 化学エネルギー変換素子の構築
概   要:  2電子の授受が可能な配位子を有する金属錯体上でのアコ基とオキソ基の安定な酸−塩基平衡(プロトン解離)反応の確立、生成したオキソ金属錯体の電気化学的酸化種による触媒的な有機化合物の酸化反応とアコ金属錯体を再生する反応系の開発を行う。さらに、有機化合物の酸化(アノード反応)と酸化還元(カソード反応)により有機化合物の酸化反応を動力源(化学エネルギー)とするエネルギー変換素子(発電素子)の構築をめざす。

研究代表者: 戸部 義人
所属・役職: 大阪大学 大学院基礎工学研究科 教授
研究課題名: 混合混成型巨大炭素パイ電子系の創出
概   要:  次世代の機能性物質なりうる新奇なパイ電子系を創出する目的で、sp2混成炭素とsp混成炭素から構成される、一次元、二次元あるいは三次元的に広がった多様な構造を有する巨大炭素パイ電子系を合成し、それらの物性と機能について調べる。特に、有機合成化学の最新の手法を用いるとともに、新奇構造創製のための合成ブロックを開発することにより、従来合成できなかった巨大パイ電子系を構築し、構造・物性科学の新天地を開拓する。

研究代表者: 中西 八郎
所属・役職: 東北大学 反応化学研究所 教授
研究課題名: 有機ナノ結晶の作製・物性評価と多元ナノ構造への展開
概   要:  有機化合物のナノサイズの結晶作製法として、簡便で汎用可能な再沈法を探求・確立し、共役化合物を中心に、サイズ・形状・分散制御したナノ結晶を作成して物性評価することで、金属や半導体のナノ結晶とは異なる有機系ナノ結晶に固有の特性と発現機構を明らかにする。さらに、多元物質からなるナノ構造体への展開を含め材料化手法について研究し、これらの新物質系に特徴的な応用として、液・晶デバイスの例証をめざす。

4.研究領域「ゲノムの構造と機能」

研究代表者: 武田 俊一
所属・役職: 京都大学 大学院医学研究科 教授
研究課題名: 高等真核細胞で標的組み換えの効率を上昇させる方法の開発
概   要:  高等真核細胞でDT40細胞を含むニワトリBリンパ細胞株だけが標的組み換えとランダムインテグレーションを同頻度でおこす。この研究の目的は、なぜニワトリBリンパ細胞株でのみ標的組み換えが効率良く起こるのかを解明し、その性質をヒトや植物細胞にも移植することにある。この目的が達成できれば、遺伝子治療、品種改良、遺伝子ノックアウトが容易になる。

研究代表者: 鍋島 陽一
所属・役職: 京都大学 大学院医学研究科 教授
研究課題名: klothoマウスをモデルとしたゲノム機能の体系的研究
概   要:  老化研究の優れたモデル実験系であるklothoマウスを用いて、個体老化に関わる遺伝子群の網羅的体系的解析、老化疾患の成立に関連する遺伝子素因、遺伝子多型の解析、更に個体レベルの新たな遺伝子機能解析技術の開発に関する研究を行い、ゲノム研究の新たな方法論の開発と老化の分子機構、老化疾患の分子病態の解明をめざす。

研究代表者: 新川 詔夫
所属・役職: 長崎大学 大学院医学研究科 原爆後障害医療研究施設 教授
研究課題名: 染色体転座・微細欠失からの疾病遺伝子の単離と解析
概   要:  単一遺伝子疾患と染色体転座を合わせもつ患者では、転座によって遺伝子断裂が起き遺伝子病が発症すると考えられるため、疾病遺伝子の同定や単離の絶好の材料であると認識されている。一方、染色体の微細な欠失を伴う(と考えられる)患者が多数存在し、そのうち一定の臨床像を伴うものは微細欠失(または隣接遺伝子)症候群と呼ばれ、数個の遺伝子が欠失しているとの共通認識がある。この研究では、このような症例を全国規模でかつ組織的に集積し、転座切断点および微細欠失領域から多くの疾病遺伝子の単離・同定をめざす。

研究代表者: 八木 健
所属・役職: 大阪大学 細胞生体工学センター 教授
研究課題名: クラスター型カドヘリンのゲノム構造・機能の解析
概   要:  シナプスに局在するCNRファミリーは、多様化した新規カドヘリンでありゲノム上で遺伝子クラスターを形成している。この研究ではCNRを含むクラスター型カドヘリンの、神経細胞分化にともなうゲノム構造変化、分子機能を解析することにより、神経回路網形成の新たな分子機構を明らかにする。また、神経系体細胞レベルでのゲノム構造変化を網羅的に解析し、ゲノム構造と精神神経疾患との関係、治療応用への可能性を探る。

5.研究領域「内分泌かく乱物質」

研究代表者: 交久瀬 五雄
所属・役職: 大阪大学 大学院理学研究科 教授
研究課題名: 高感度質量分析計の開発と内分泌かく乱物質の分析
概   要:  位置検出器を装備した1−2桁高感度質量分析計を開発する。内分泌かく乱物質検出の前処理を簡素化する、また現状の処理方法を用いた場合、サンプル量を1−2桁少なくして多数サンプルの迅速処理(ハイスループット)をめざす。

研究代表者: 川戸 佳
所属・役職: 東京大学 大学院総合文化研究科 教授
研究課題名: 脳を制御する神経ステロイドの作用を撹乱する環境ホルモン
概   要:  脳内でチトクロムP450系が合成する神経ステロイド(女性ホルモン、ストレスステロイドなど)は第4世代情報伝達物質である。脳神経細胞の情報伝達や神経ネットワーク構築は、神経ステロイドや性器官・副腎から分泌される性ホルモン・ステロイドによって大きな制御を受けるので、女性ホルモン類似内分泌攪乱物質(ビスフェノール、有機スズなど)が、脳の記憶・学習や神経ネットワーク構築に急性的・慢性的に大きな攪乱を与える。これを実時間・高感度で捉え解析する方法を確立し、膜状受容体を解する攪乱など未知の機構を解明する。

研究代表者: 武田 健
所属・役職: 東京理科大学 薬学部 教授
研究課題名: 大気中に存在する新しいタイプの内分泌撹乱物質
概   要:  ディーゼル排ガス成分中にはエストロゲン様作用やAhレセプター刺激作用など今まで知られている作用に加え、新たに性ステロイドホルモンレセプターの発現抑制やステロイドホルモンの合成を阻害する内分泌攪乱物質が含まれていることが明らかになってきた。この研究では、大気中にガス状物質として、あるいは微粒子など浮遊物質として存在する様々な内分泌攪乱物質の性状と作用を明らかにする。

研究代表者: 長濱 嘉孝
所属・役職: 岡崎国立共同研究機構 基礎生物学研究所 教授
研究課題名: 魚類生殖内分泌系に及ぼす内分泌かく乱物質の影響の分子メカニズム
概   要:  これまで、魚類生殖腺における性分化、卵や精子の形成を制御する性ホルモン因子を単離・同定するとともに、試験管の中での魚類の生殖腺・配偶子形成を再現させることに成功している。本研究では、この実験系を駆使して内分泌かく乱化学物質(EDC)の生殖過程に及ぼす影響と作用メカニズムを分子・細胞レベルで明らかにする。また、トランスジェニック魚類を用いたEDCのモニタリングシステムの開発やリスク評価を行い、内分泌かく乱物質問題への対処方策検討へとつなげる。

研究代表者: 宮本 薫
所属・役職: 福井医科大学 医学部 教授
研究課題名: 生殖系での低濃度内分泌撹乱物質関連遺伝子データーベースの構築
概   要:  環境中に存在し得る程度の低用量の内分泌かく乱物質が生殖内分泌系に与える影響はまだ良く判っていない。この研究ではサブトラクションクローニングの手法を用いて、ヒトを含めた哺乳類動物の卵巣−子宮系細胞での遺伝子発現の変化を的確にとらえ、低用量内分泌攪乱物質によって誘導、もしくは抑制される遺伝子データベースを構築し、公開する。

6.研究領域「資源循環・エネルギーミニマム型システム技術」

研究代表者: 井上 晴夫
所属・役職: 東京都立大学 大学院工学研究科 教授
研究課題名: 水を電子源とする人工光合成システムの構築
概   要:  地球温暖化の主因とされる二酸化炭素を化学的に固定するには還元剤(電子源)が必要である。しかし固定化するための還元反応が新たな汚染物質を生成するのでは意味がなくなる。この研究ではエネルギー的にも物質循環の視点からも理想的な電子源としての水分子に着目し提案者が独自の発想とアプローチで最近見出した錯体分子触媒による「水を電子源、酸素源とする人工光合成型エネルギー変換、物質変換システム」を構築する。

研究代表者: 太田 健一郎
所属・役職: 横浜国立大学 工学部 教授
研究課題名: 電気化学エネルギー変換の擬似三次元界面設計
概   要:  電気化学エネルギー変換の代表である高分子形燃料電池の高効率化には、今後最も大きな課題となる酸素極の反応抵抗を極限に下げる必要がある。このための電極設計を新たな概念の擬似三次元構造化モデルをもとに、その基礎物性のデータ集積を行い、酸素電極を試作して試験、検証する。これにより高効率化が実現できれば、真の意味での地球に優しい発電装置が出来上がり、自動車用を含めて、燃料電池の普及が加速される。

研究代表者: 小林 光
所属・役職: 大阪大学 産業科学研究所 教授
研究課題名: 新規化学結合を用いるシリコン薄膜太陽電池
概   要:  大規模な電力用太陽電池の開発に成功すれば、エネルギー問題と地球環境問題に根本的な解決策を与えることができる。この研究では、欠陥準位に新規化学結合を形成することによってこれを消滅さし、低コストな電力用太陽電池として有力なシリコン薄膜太陽電池の光劣化を防止すると共に更なる低コスト化をめざす。

研究代表者: 高村 仁
所属・役職: 東北大学 大学院工学研究科 講師
研究課題名: 家庭用燃料電池実現のための新たな高効率天然ガス改質システムの構築
概   要:  家庭用燃料電池の普及のためには、一酸化炭素等を含まない高純度水素ガスを大量かつ高効率に製造・供給する技術が不可欠である。この研究では、豊富で安定供給が望める天然ガスから高純度水素を製造する新しい方法として、酸素透過性セラミックスによる部分酸化法とプロトン伝導体による水素分離技術を融合した高効率天然ガス改質システムの構築をめざす。

研究代表者: 堤 敦司
所属・役職: 東京大学 大学院工学系研究科 助教授
研究課題名: コプロダクションによるCO2フリーなエネルギー・物質生産システムの構築
概   要:  既存のエネルギー・物質生産体系を見直し、エネルギーと物質のコプロダクション化を図る。産業部門では汎用熱化学ヒートトランスフォーマーを開発し化学品とエネルギーのコプロダクションを、エネルギー転換部門では化石エネルギー資源およびバイオマスから水素とカーボンのコプロダクションを行い、エネルギーと物質の消費を極力抑え、基本的には環境汚染物質を一切排出しない新たなエネルギー・物質生産体系を構築する。

研究代表者: 津野 洋
所属・役職: 京都大学 大学院工学研究科 附属環境質制御研究センター 教授
研究課題名: 資源回収型の都市廃水・廃棄物処理システム技術の開発
概   要:  生ゴミを下水道で収集する一元化システムを考え、拠点で浮遊性固形物質を回収し高温メタン醗酵によるエネルギー回収と高度処理による水資源回収を図る。また、糞尿分離型トイレや燐資源回収技術により枯渇が懸念される燐の回収を図る。これにより二酸化炭素発生量の削減、燐資源等循環の促進、健全な地域水循環の促進、衛生的生活の確保等の社会的貢献とともに、ディスポーザや関連新技術の開発による新産業の創設も期待される。

7.研究領域「生物の発生・分化・再生」

研究代表者: 上村 匡
所属・役職: 京都大学 ウィルス研究所 教授
研究課題名: 単一細胞レベルのパターン形成:細胞極性の制御機構の解明
概   要:  個々の細胞は、個体の正常な活動に必要な機能を遂行するために、それぞれの使命に応じた特殊なパターン/極性を発達させる。この研究では、神経突起のパターン形成や上皮細胞の極性化に注目して、それらの細胞が組織内における自分の位置と向きを解読し、細胞骨格を再編成させて極性を顕在化させる仕組みを明らかにする。この研究の成果は、細胞極性の発達不全が原因で起きる、遺伝病の発見につながることが期待できる。

研究代表者: 岡野 栄之
所属・役職: 大阪大学 大学院医学系研究科 教授
研究課題名: 幹細胞システムに基づく中枢神経系の発生・再生研究
概   要:  この研究は、神経幹細胞から特定のニューロンを含む神経系を構成する多様な細胞集団が発生・分化していく過程を明らかにするとともに、この知見を踏まえて、神経幹細胞あるいは胚性幹細胞から特定の細胞の分化誘導法を開発し、多種類の神経変性疾患の新しく有効な治療法の基礎を構築することを目標とする。この目標を達成する上で、神経分化制御因子の機能解析を行うとともに、神経幹細胞、中間前駆細胞、特定種のニューロンの同定・分離法を確立する。

研究代表者: 岡本 仁
所属・役職: 理化学研究所 脳科学総合研究センター チームリーダー
研究課題名: Genetic dissectionによる神経回路網形成機構の解析
概   要:  神経回路網形成の分子機構を明らかにするため、ゼブラフィッシュを用いて神経回路網(特に運動神経)の形成に異常を持つ突然変異の大規模スクリーニングを行い、それらの原因遺伝子をクローニングする。さらに、すでに開発に成功しているケージドRNA技術を用い、時期と場所に特異的な遺伝子の異所性発現を行うことによって、脳形成に関わる遺伝子の機能解析とスクリーニングを行う。

研究代表者: 小林 悟
所属・役職: 筑波大学 生物科学系 講師
研究課題名: 生殖細胞形成機構の解明とその哺乳動物への応用
概   要:  脊椎・無脊椎動物に共通する生殖細胞形成機構を解明するため、発生運命を生殖細胞に限定させる働きを持つ「生殖細胞決定因子」の全容を明らかにし、それらの分子機能を解析する。本研究は、再生に関わる未分化細胞と生殖細胞に運命づけられた細胞との共通性を理解する上でも重要であり、再生医療への応用につながることが期待できる。

研究代表者: 竹縄 忠臣
所属・役職: 東京大学 医科学研究所 教授
研究課題名: 器官形成における細胞遊走の役割及びそのシグナリングと再生への応用
概   要:  シグナルで制御された方向性を持つ細胞遊走は発生や器官形成に必須である。WASPファミリー蛋白質は細胞外刺激によって活性化され、細胞遊走に必要なダイナミックで極性を持った細胞骨格再編を引き起こし、糸状仮足や葉状仮足形成を促進する。本プロジェクトでは形態形成期に起こる細胞遊走へのWASPファミリー蛋白質の役割およびそのシグナリングを明らかにする。さらには細胞遊走や神経突起形成をコントロールする方法を開発し、筋肉や神経再生といった再生医療への応用について検討を行う。

研究代表者: 濱田 博司
所属・役職: 大阪大学 細胞生体工学センター 教授
研究課題名: 形態の非対称性が生じる機構
概   要:  形態の非対称性を生じることは、生物の体がつくられる過程で必須な機構である。この研究では、主に体の左右非対称性に焦点を当て、実験生物学と理論生物学を組み合わせることにより、対称性が破られる最初のステップから非対称な形態形成に至る一連の過程の分子機構を解明する。

研究代表者: 松本 邦弘
所属・役職: 名古屋大学 大学院理学研究科 教授
研究課題名: 発生における器官・形態形成と細胞分化の分子機構
概   要:  発生過程におけるMAPキナーゼカスケードを中心とした細胞運命、細胞極性、形態形成の制御機構の解明を第1の目的とし、さらに新規シグナル伝達因子群の同定と、発生・分化における機能解析を行い、発生・分化を規定するシグナル伝達ネットワークの解明をめざす。この研究は、高等脊椎動物の形態形成・器官形成の解明に大きく貢献し、その延長上に臓器形成の基礎研究となる「再生医学」という新しい学問領域への展開が期待される。

8.研究領域「植物の機能と制御」

研究代表者: 飯田 秀利
所属・役職: 東京学芸大学 教育学部 教授
研究課題名: 植物の重力感知の分子機構
概   要:  植物における重力感知の分子機構を解明するために、重力センサーの可能性がある伸展活性化Ca2+透過チャネルの候補遺伝子をシロイヌナズナから既に単離している。この研究ではこの遺伝子を用いて、(1)この遺伝子の産物が確かに伸展活性化Ca2+透過チャネルであることの証明、(2)この遺伝子の欠損株における重力感知能の解析、(3)この遺伝子産物の器官内および細胞内における分布および発現様式の解析などを行う。

研究代表者: 経塚 淳子
所属・役職: 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス研究科 助教授
研究課題名: 植物生殖成長のキープロセスを統御する分子機構の解明
概   要:  イネとシロイヌナズナを用いて、生殖成長を制御する分子機構を解析する。イネの花序形成遺伝子を単離・解析し、イネ育種への応用可能性を探る。それと同時に、シロイヌナズナを用いて、花成と花序形成を制御するFT,TFL1の機能とその作用機構を明らかにし、これらのイネにおける機能を調べる。生殖成長は作物生産のさまざまな局面に関与しており、この研究では生殖成長をコントロールする技術の基盤作りをめざす。

研究代表者: 近藤 孝男
所属・役職: 名古屋大学 大学院理学研究科 教授
研究課題名: 光合成生物の生物時計:その分子機構と環境適応
概   要:  生物時計(概日時計)は、生物が昼夜交替する地球環境に積極的に適応するための時間プログラム装置として、あらゆる生物で機能しており、現在、その分子機構が急速に解明されつつある。この計画では、これまでに開発した最も解析の容易なシアノバクテリアを使って、世界に先駆け概日時計の振動発生機構を解明し、さらにその成果を利用し高等植物の概日時計の解明をめざす。生命の基本機構である生物時計の解明は広く医学、農学上の発展が期待できる。

研究代表者: 斉藤 和季
所属・役職: 千葉大学 薬学部 薬用資源教育研究センター 教授
研究課題名: ポストゲノム科学を基盤とする植物同化代謝機能のダイナミクス解明
概   要:  植物は、炭素・窒素・硫黄・リンなどの物質を植物に有用な物質に変換し合成する機能を有している。本研究では植物の持つこれらの機能の解明を行う。さらに、遺伝子組換え技術を利用し、栄養吸収同化能力や有用物質生産能力の高いイネを作出するなど、植物の生産性や品質の向上をめざした研究を行う。

研究代表者: 武田 和義
所属・役職: 岡山大学 資源生物科学研究所大麦・野生植物資源研究センター 教授
研究課題名: オオムギゲノム機能の開発と制御
概   要:  オオムギゲノムに存在する遺伝子を包括的に解析するDNAマイクロアレイ技術および巨大DNAライブラリーを用いた遺伝子単離システムを開発する。これらを用いた遺伝子機能の解析と遺伝子差異を遺伝子情報データベースとして構築する。さらに、ゲノム解析センターを形成して、オオムギ遺伝資源から有用な遺伝子を効率よく制御して実用品種を開発する。

研究代表者: 中村 保典
所属・役職: 秋田県立大学 生物資源科学部 教授
研究課題名: デンプンメタボリックエンジニアリングの開発
概   要:  デンプンの主成分であるアミロペクチンの合成代謝システムを明らかにするために、主用酵素がアミロペクチンの構造決定にそれぞれにどのように寄与するかに重点を置いて解析する。さらにそれら酵素遺伝子を組み込んだイネ形質転換体のアミロペクチンを解析して、新規デンプンを作る系の開発をめざす。

研究代表者: 村田 稔
所属・役職: 岡山大学 資源生物科学研究所 遺伝情報発現部門 教授
研究課題名: 植物における染色体機能要素の分子的解析と人工染色体の構築
概   要:  植物の染色体は、3つの機能要素(セントロメア、テロメア、複製起点)によって維持されている。この研究では、最も重要な機能要素、セントロメアについて、そのDNA構造とタンパク質との相互作用を解析し、”分配”という機能がどのように制御されているかを解明する。さらには、他の機能要素を加えた人工染色体を構築することにより、新たな巨大DNAクローニングベクターの開発をめざす。

This page updated on October 5, 2000

Copyright©2000 Japan Scienceand Technology Corporation.

www-pr@jst.go.jp