(別紙8)

平成12年度 「さきがけ研究21」 採用研究課題概要


「情報と知」 研究領域

◆ グラフによる細胞内メカニズムの記述と推論
  有田 正規    工業技術院電子技術総合研究所 研究員
 バクテリアの代謝とシグナル伝達のメカニズムを、グラフを用いて形式的に記述、推論できるシステムを構築します。生物実験系の研究を行う際の推論をモデルとして、矛盾や曖昧性を含むデータも取り扱える、実験支援のための推論システムの作成にあたります。
◆ 自然言語による知識の表現と利用
  黒橋 禎夫    京都大学大学院情報学研究科 講師
 自然言語で記述された知識を計算機が「使いこなす」環境の整備に向けて,自然言語のパラフレーズ(言い替え)に焦点をあてて研究を進めます。国語辞典等を知識源とし、言語表現を複合的に関連付けることによってパラフレーズを認識,生成する枠組みを明らかにするとともに、その過程で言語の理解・連想・推論などのモデル化にも挑戦します。
◆ リアルタイム音楽情景記述システムの構築
  後藤 真孝    工業技術院電子技術総合研究所 研究員
 音楽音響信号を人間のように理解できる計算機システムの実現を目指します。人間は音楽を理解する際に楽譜(音符)の記述を得ていないという立場から、何ができれば音楽を理解したといえるのかを問い直し、「しろうと」が容易にわかるメロディーや楽曲構造のような記述を、音楽CDからリアルタイムに得るシステムを構築します。
◆ 共有仮想空間におけるリアルタイム3次元通信
  斎藤 英雄    慶應義塾大学理工学部 講師
 ネットワークを通してお互いの存在を高い現実感・臨場感で観察できる「仮想環境共有型3次元通信システム」の構築を目指します。本システムの実現のために、多数のカメラで撮影された多視点画像から3次元実環境モデルを復元し、リアリティに優れた共有仮想空間のリアルタイム通信が可能な情報処理について研究を行います。
◆ 感性の開拓のための方法論構築〜デザインのパーソナル化に向けて〜
  諏訪 正樹    中京大学情報科学部 助教授
 個人が独自の感性を開拓して自分だけのデザインを提案するための方法論を構築し、それに基づく教育方針を設計することを目指します。独自感性の開拓には、外的表象中に新しい見えを知覚する能力と、それを多様な連想に結び付ける能力が必須です。認知実験により各々の能力の育成手法を探究し、上記の目的を達成します。
◆ 文字列データ圧縮に基づく高速知識発見システムの構築
  竹田 正幸    九州大学大学院システム情報科学研究院 助教授
 大量の文字列データを対象とした高速知識発見システムの構築を目指します。特に、データ圧縮という古典的研究分野に「機械発見処理の高速化」という新しい価値基準を導入し、この視点から、テキストデータ圧縮に用いられる各要素技術を再評価し、機械発見の核となる文字列処理アルゴリズムの高速化を図ります。
◆ 音楽における創造活動を触発支援するシステム
  西本 一志    北陸先端科学技術大学院大学知識科学教育研究センター 助教授
 作曲や演奏などの音楽創造活動や、音楽的知識や技能の習得/伝承を支援する手法の基礎を確立することを目指します。そのために、情報の可視化技術などを応用して楽譜や演奏データを加工処理し、これまで見過ごされていた新たな曲作りの可能性を示唆したり、語られていない音楽的ノウハウを浮彫りにするシステムを構築します。
◆ 模倣学習によるマルチエージェントシステムの構成
  野田 五十樹    工業技術院電子技術総合研究所 主任研究官
 模倣は人間の学習能力の基本の一つです。この模倣学習を基礎にして、ほぼ同等な能力を持つ他のエージェントの動作を真似することで、効率良く動作や協調作業の技能を蓄積する方法を研究します。さらに、模倣能力を基にしたエージェントモデリングなどを用いて、マルチエージェントシステムを段階的に構成することを目指します。
◆ プログラミング言語としての自然言語 〜推理システムと人間の思考〜
  戸次 大介    東京大学大学院理学系研究科 博士課程
 自然言語は大脳に対するプログラミング言語であるという視点に立ち、自然言語の量化・照応のモデル理論、証明論、推論アルゴリズムを研究します。特に、Eタイプ照応などの複雑な現象を統一的に説明する型付き動的論理を基に、人間が自然言語を用いて行う推論を処理できるシステムの構築を目指します。
◆ ヴァーチャルアクターのための動画像処理と動作生成
  星野 准一    新潟大学大学院自然科学研究科  助手
 視覚情報により実世界の俳優動作を学習して、自律的に動作することができるヴァーチャルアクターの実現を目指します。特に、ビデオ映像からの人物動作の推定、シナリオを参照した動作生成、複数俳優の協調動作の生成などの問題に取り組みます。また、これらの基本機能の実現により、エンターティンメント分野における高度なコンテンツ作成を支援します。
◆ 情報理論的に安全な秘密鍵共有法
  水木 敬明    東北大学大学院情報科学研究科  助手
 現在使われている暗号系の多くは、何らかの数学的な問題の難しさに安全性の根拠を置いていますが、その暗号系が解読されないという保証はありません。本研究では、無制限の計算能力を持つ盗聴者に対しても安全な暗号系、すなわち情報理論的に安全な暗号系の構築を目指します。


「組織化と機能」 研究領域

◆ 分子的に精密設計した色素集合体の二次元配列と光学的応用
  Olaf Karthaus    千歳科学技術大学光科学部 助教授
 同一色素であっても集合体であるかモノマーであるかにより光学的特性に大きな相違が生じるため、それを用いたフォトニクスデバイスにおいても集合状態によってその機能が決定されます。本研究は、集合体のサイズと光学特性を直接的に対応させ、分子の自己組織化を利用して集合体のサイズ制御手法を確立し、二次元規則配列を持つマイクロメーターサイズの色素パターンの創出を目指します。これにより、新たな光機能発現が期待されます。
◆ 強磁場を用いた超微細組織化による耐熱合金の強靱化
  木村 好里    東京工業大学大学院総合理工研究科 助手
 金属材料は、ナノレベルの均質な相界面を多量に持つ組織を実現することにより、優れた機能、すなわち強度と靱性が向上します。金属母相に強化相として金属間化合物が析出する固相反応に対し、外力場として強磁場を用いて格子ミスフィットなどの結晶学的因子とあわせた制御を行います。これによって均質微細なアーキテクチャを作り込むことで、強靱化のための合金設計基盤を築き上げます。
◆ 液晶秩序のナノ組織化による高速電気光学効果の発現
  菊池 裕嗣    九州大学大学院工学研究院 助教授
 従来の材料では、大きなカー係数と幅広い発現温度範囲を同時に達成できないことが、高速電気光学効果の実用化の障壁となっている。本研究では、大きなカー係数を持つ液晶分子の発現温度範囲を拡大するため、3次元的ネットワークを形成させることで、可視光の波長レベルのスケールでは等方相であるが、分子数個レベルのスケールではネマチック相となる全く新規な複合組織体を構築します。これにより薄膜型の高速光変調デバイスの作製が可能となり、光エレクトロニクス分野への応用展開が期待できます。
◆ 核酸・多糖複合体における分子認識メカニズムと遺伝子工学への応用
  櫻井 和朗    科学技術振興事業団 国際共同研究事業 グループリーダー
 β-1,3-グルカンからなる多糖は、DNAやRNAなどの核酸と複合体を作ることを見出しました。この新規な核酸・多糖複合体に関して、構造論的解析、熱力学的性質の解明、複合体形成や分子認識のメカニズムなどの研究を行うとともに、これらの知見を生かして、DNAやRNAを人工的に操作する技術(運搬、保護、複製・転写・翻訳の制御等)での新しい方法論の確立を目指します。具体的には、アンチセンス核酸のキャリヤーやmRNAの分離カラムなどの分野への応用を試みます。
◆ 金属ナノ粒子超格子の創製とナノ電子デバイスへの応用
  寺西 利治    北陸先端科学技術大学院大学材料科学研究科 助手
 粒径2 nm以下の金属ナノ粒子は室温でクーロン閉塞現象を示すことから、単電子トンネル効果を利用したナノ電子デバイスへの応用が期待されています。本研究では、金属ナノ粒子を保護している配位子間の相互作用を利用することにより、粒子間距離および組織化パターンを制御した2nm以下の金属ナノ粒子の二次元、三次元超格子を創製し、そのナノ電子デバイスへの応用を目指します。
◆ DNA二重らせんを電子機能・構造単位とする単一分子素子
  中野 幸二    九州大学大学院工学研究院 助教授
 本研究ではDNA二重らせんをベースにした分子エレクトロニクスにアプローチします。この目的のため、低分子に光結合する核酸塩基を利用して電子リレー作用を持ったDNA複合体を創製します。DNA末端を修飾試薬により構造改変させる等して、二重らせんユニット相互の接合・固定化が可能な仕組みを試みます。走査プローブ顕微鏡による分子単位での物性測定と分子ハンドリングを通じて、単一分子素子の実現に挑戦します。
◆ 生体膜で働くプロトン駆動のナノマシン
  野地 博行    科学技術振興事業団 戦略的基礎研究推進事業 研究員
 ATP合成酵素は、その内部サブユニットを回転させることで、プロトンが生体膜を通過する際に放出するエネルギーをATPのリン酸結合エネルギーに変換します。この回転のトルク発生装置が、膜内在性部分であるFoモーターです。このモーターは、それ単独でも駆動するナノメートルサイズの回転モーターだと考えられています。この研究では、Foモー夕一がプロトン流によって回転する様子を1分子単位で観察する実験系を確立し、そのメカニズムの解明を目指します。
◆ タンパク質表面構造を対象とする認識・変換素子の創製
  浜地 格    九州大学大学院工学研究院 助教授
 タンパク質表面−表面間の分子認識は、生命現象において分子同士のコミュニケーションのための共通言語です。これらを人為的に制御するための方法論として、本研究では、タンパク質表面を特異的に認識・改変できる新規な表面レセプターおよび表面モジュレーター分子の開発を目指します。細胞のコミュニケーション手段の改変を通して多くの生命現象をコントロールできる分子ツールを提供するものと期待されます。
◆ クーロンブロッケードによる階段状変位電流の測定とその応用
  真島 豊    東京工業大学大学院理工学研究科 助教授
 表面基板上の量子ドットに直流電圧を加えると、クーロンブロッケードにより微小ドットに電荷が入り、外部回路には周期的な変位電流が流れます。この変位電流を走査型振動プローブを用いて測定することにより、クーロンブロッケード条件を満たす微小ドットの電気的評価手法の確立を目指すとともに、単一電子素子と分子エレクトロニクスの両研究分野への応用を試みます。
◆ 遷移金属酸化物の動的構造の実時間測定
  森 茂生    東京工業大学大学院理工学研究科 助手
 ナノ秒の時間分解能を持つ電子カウンターを試作し、これを用いて遷移金属酸化物における、金属-絶縁体転移と密接に関係しているナノスケールでの電荷秩序構造の形成機構の解明を目指します。そのため、時間的および空間的な電荷秩序構造の揺らぎや、その秩序化過程に伴う構造ダイナミクスを実時間で測定する方法を構築するとともに、固体中の動的構造の新しい評価方法を検討します。
◆ 複数のサブユニットから成るテーラーメイド人工酵素の創製
  森井 孝    京都大学エネルギー理工学研究所 助手
 二つのサブユニットから構築した機能性ドメインは、協同性の発揮により高効率な化学反応場になると考えられます。それぞれのサブユニットにライブラリー法を適用して目的の基質に最適な化学反応場を設計し、生体内シグナル伝達の制御が可能な機能性分子を創製することを目指します。これにより任意の基質に対する人工酵素設計の新しい方法論、高エネルギー効率で環境に即応した機能性反応素子への展開が期待されます。


「認識と形成」 研究領域

◆ モルフォゲンシグナル分子の濃度調節による病的組織の修復
  安達(山田) 卓    名古屋大学大学院理学研究科 助手
 発生初期の組織に位置情報を与えるモルフォゲンの活性は、いつも決まった形の濃度勾配を作っています。濃度勾配が異常な形に変化した時には、異常な分化運命をたどる細胞が出現しますが、アポトーシスが起きることによりその多くが取り除かれ、組織を正常発生に戻そうとします。この時、なぜ異常細胞の存在が認識できるのかを説明するメカニズムを、ショウジョウバエを用いて遺伝学的に解明します。
◆ 昆虫の変態時に見られる神経回路網の再編成機構
  粟崎 健    科学技術振興事業団 戦略的基礎研究推進事業 研究員
 神経回路網が作り替えられるためには、それまでに形成されたシナプスを解除する事が必要となります。本研究では、シナプス接続の解除に着目し、変態時のショウジョウバエの脳神経回路網を解析することで、神経回路網の再編成機構の解明を目指します。
◆ 神経細胞が極性を獲得する機構
  稲垣 直之    奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科 助教授
 神経細胞は脳神経系において複雑なネットワークを形成し、その基本的な仕事は信号を受け取りこれを統合して他の細胞に伝えることです。そしてこの機能の遂行には神経細胞の持つ軸索と樹状突起および極性が重要な役割を果たします。本研究では、神経細胞がどのようにして軸索と樹状突起を形成して極性を獲得するのかを分子レベルで解析します。
◆ 1分子計測による細胞性粘菌の走化性応答の解析
  上田 昌宏    大阪大学大学院医学系研究科 研究機関研究員
 走化性は、単細胞生物の環境探索行動や多細胞生物の形態形成を支える基本的な細胞機能です。細胞はゆらぐ環境の中で走化性誘引物質の濃度勾配を的確に認識する必要があります。本研究では、1分子顕微鏡技術を駆使して、走化性誘引物質センサーである受容体タンパク質のはたらきを解明します。
◆ サイトカイニン合成酵素による植物形態形成の制御
  柿本 辰男    大阪大学大学院理学研究科 助手
 サイトカイニンは古くから知られている植物ホルモンで、構造的にはアデニンの誘導体です。最近、私はこの合成酵素を始めて同定しました。本研究では、サイトカイニン合成酵素遺伝子が破壊された植物のスクリーニングにより、得られた変異体の解析、遺伝子発現制御などを通じて植物の生長におけるサイトカイニンの役割を解明します。
◆ 線虫における生殖顆粒の機能解析
  川崎 一郎    科学技術振興事業団 戦略的基礎研究推進事業 研究員
 多細胞生物において、世代間の遺伝子情報の伝達は全能性と不死性という特別な性格を持った生殖系列によって営まれています。様々な動物の生殖細胞には生殖顆粒と呼ばれる特異的な構造が見られますが、生殖系列が体細胞系列に見られない特別な性格を持つために、この生殖顆粒が重要な働きをしていると考えられています。本研究では、線虫C.elegansの生殖顆粒が生殖系列の発生にどのように機能しているかを、分子機構的に解明することを目指します。
◆ ハキリバチによる昆虫の空間認識と巣の形成機構の解析
  金 宗潤    農水省 農業環境技術研究所 特別研究員
 ハキリバチは、植物の葉を円形と楕円形に巧みに切り分け、それを材料に巣を造ります。彼等はどのように巣の空間認識を行い、認識した空間情報を巣の形成に用いているのか?また、環境条件に応じて、巣の修復や調節をどのように行うのか?本研究では、超伝導生体磁気センサーを用いてハチの動きを捉え、昆虫の認識と形成という本能的行動の理解に新しいコンセプトを与えることを目指します。
◆ 粘菌を用いた認識と形成の数理解析によるアプローチ
  高松 敦子    理化学研究所 基礎科学特別研究員
 真正粘菌という原生生物を用いて、認識と形態形成の関係について研究します。特に、外部環境の認識、細胞での情報処理、行動決定のメカニズムについて、生物の“形とリズム”に注目して非線形科学的観点から考察します。手法としてマイクロ加工という細胞サイズの加工を可能にする技術を用いて、粘菌細胞の形を制御し、非線形数理モデルと直接比較可能な“生きた数理モデル”を作ります。
◆ 嗅覚神経回路の形成と再生の分子基盤
  坪井 昭夫    東京大学大学院理学系研究科 助手
 嗅覚神経細胞においては、一千種類にのぼる嗅覚受容体多重遺伝子群の中から一種類のみが選ばれて発現しています。また嗅球への投射に際して、同じ種類の受容体を発現する細胞は約二千個ある糸球の中の、特定の糸球を選んでその軸索を投射しています。本研究では、嗅覚神経細胞の発生と再生のメカニズムに関して、嗅覚受容体遺伝子の発現、並びに、嗅球への投射の観点から研究します。
◆ 鳥類中枢神経系の可塑的な形態形成
  浜ア 浩子    東京医科歯科大学難治疾患研究所 助教授
 生物は、経験や学習などを通して環境に適応するという驚くべき能力を持っていますが、これは、可塑的に変化することのできる中枢神経系の機能に支えられています。鳥類をモデル動物として、記憶、学習行動をつかさどる脳の部分がどこから、どのように発生していくのか、さらに、学習行動によってどのような可塑的変化をとげることができるのかについて研究していきます。
◆ 多様な中枢神経系のプロトカドヘリンによる形態形成の制御
  平野 伸二    愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所 研究員
 動物の神経系では、多種多様な神経細胞が複雑なネットワークを作っています。このような複雑な神経系ができるためには、神経細胞同士の相互作用が重要であると考えられています。最近発見したプロトカドヘリンは新しいタイプの細胞接着分子で、神経系で非常に多くの種類が見つかっています。これらのプロトカドヘリンが神経系の形成にどのような役割を果たしているかを明らかにします。
◆ 形態形成時の受容体による位置情報の提示機構
  平本 正輝    科学技術振興事業団 戦略的基礎研究推進事業 研究員
 軸索ガイダンスにおいて、分泌性ガイダンス分子の受容体はシグナル伝達だけでなくリガンドの分布を再編成し、別の細胞に提示する役割も担っていることが明らかになりました。受容体の持つこの新たな機能に注目し、形態形成において分泌性シグナル分子とその受容体が広い領域に渡って正確な位置情報を作り出す仕組みを探ります。
◆ 細胞系譜マッピングによる哺乳類の胚軸形成機構の解析
  藤森 俊彦    京都大学大学院医学研究科 助手
 マウスの初期発生において、いつ、どこでどの様に胚の軸を方向づける現象が起こるかを探ります。Cre-loxPを応用したゲノム上でのレポーターのスイッチにより、細胞系譜マッピングを行い、いつ胚の中に非対称性が現れるかを調べます。また哺乳類胚の中にどの程度のモザイク性が残されているかも探ります。
◆ 網膜における神経細胞分化のメカニズム
  政井 一郎    理化学研究所脳科学総合研究センター 研究員
 網膜は、神経板から発生し、そこではおもに7種類の神経およびグリア細胞が分化して層構造を形成することから、神経細胞の特異化やパターン形成のメカニズムを研究するよいモデルとなっています。本研究では、ゼブラフィシュの網膜をモデルに、神経細胞分化の開始と伝搬機構を解明するとともに、緑色蛍光蛋白で細胞分化を可視化したトランスジェニック系統を使って、突然変異を同定することで、神経細胞分化のメカニズムを明らかにします。
◆ 神経細胞の軸索成長の基本的メカニズム
  湯浅 純一    岡崎国立共同研究機構基礎生物学研究所 助手
 神経回路網が形成される際に、正しい神経結合の相手を見つける上で重要な役割を果たしているのが、軸索先端部にある成長円錐です。本研究では、成長円錐の舵取りを行っていると想定される細胞内タンパク質CRMPの機能解析を通して、軸索ナビゲーションの基本的メカニズムに迫りたいと考えています。


「秩序と物性」 研究領域

◆ セラミックスの超微細秩序構造と機能発現
  幾原 雄一    東京大学工学部付属総合試験所  助教授
 ジルコニア系セラミックスのプロセス要素を変えたモデル試料、高温加圧プロセスや粒界性格の制御技術を用いた特殊試料を作製し、サブナノ電子プローブによる計測と理論計算から粒内および粒界における原子・電子構造を定量的に明らかにして、粒内秩序構造や粒界量子構造を制御した高機能セラミックデバイスへの展開をはかります。
◆ 強誘電性有機低分子のナノレベル秩序制御と電子物性
  石田 謙司    京都大学大学院工学研究科 助手
 有機分子が発現する強誘電特性に注目し、効率的な機能発現を促す"秩序場"の開発と有機強誘電特性の微視的メカニズムを解明します。特に、低分子量体を用いることで精密な構造・配向制御を実現し、そのナノレベルでの構造・電気物性評価を通して、分子の秩序構造と強誘電物性の相関や分極ドメインの最小サイズなどを明らかにしていきます。
◆ 二元金属集積体の異成分挿入による磁気光学特性の制御
  大場 正昭    九州大学大学院理学研究院 助手
 二種類の金属イオンを交互配列させた結晶性分子磁性体に異種スピンを持つ同形のユニットを挿入して三元金属化することで、秩序構造内に不規則な磁気中心配列を作り上げ、磁気的性質特に磁気光学特性の系統的物性評価を行います。また、組成比に応じたマクロ物性の変化について、パーコレーションモデルを用いて検討し、高機能な磁気光学材料への手がかりを得たいと考えています。
◆ 有機-無機ハイブリッド型水素吸蔵ポリマーの創製
  北川 宏    筑波大学化学系 助教授
 有機・無機複合ポリマーを使い、プロトン共役酸化還元特性を有する非合金系の水素吸蔵物質の創製を目指します。遍歴性プロトンと電子間相互作用を解明するとともに、水素吸蔵により誘起される新物性の探索を行います。そして光や電位などの外場による水素吸蔵/放出過程の制御を試み、燃料電池・光化学電池・水の光分解触媒への応用の可能性も探ります。
◆ 秩序−無秩序人工格子による新規誘電性の発現
  田畑 仁    大阪大学産業科学研究所 助教授
 人工超格子手法により、原子配列の規則性(秩序性)を制御して新しい材料の創出、新機能の発現を目指します。特に、多彩かつ卓越した物性を示す遷移金属酸化物・カルコゲンを対象として、異なる価数を持つイオンや双極子の3次元配列、周期を原子層単位で制御し、次元性や秩序―無秩序性の段階で誘起される誘電物性との関係を明らかにします。
◆ 低次元固体の電子秩序ダイナミクスとシートプラズモン
  長尾 忠昭    東京大学大学院理学系研究科 助手
 低次元伝導物質におけるシートプラズモンの振動エネルギーや寿命の波数ベクトル依存性を通して電子の相互作用や秩序形成ダイナミクスを観測し、マクロな物性発現のメカニズムを解明します。また、シートプラズモンを応用した原子層感度を持つ新しい物性計測手法を確立して、低次元伝導構造をベースとした機能材料開発への指針を探ります。
◆ ゾル-ゲル系における階層的多相秩序構造と担体機能
  中西 和樹    京都大学大学院工学研究科 助教授
 非晶質系に特有な多相構造を与える相分離過程と不可逆なゾル―ゲル転移との組み合わせにより、無機系や有機・無機ハイブリッド系におけるマクロ多孔構造の制御を目指します。超分子鋳型を利用するメソ孔形成やミクロ多孔性結晶の析出制御によって、マクロ多孔体の内部細孔の機能化と分離媒体・担体材料用の階層的多相構造の最適化を図ります。
◆ 光波アンテナによる輻射場の制御と発光特性
  宮崎 英樹    科学技術庁金属材料技術研究所 科学技術特別研究員
 電波の領域では、散乱体を配列して製作したアンテナを用いて、電磁波の放射が自在に制御されています。本研究では、数個の微粒子を配列した光の波長サイズの半波長アンテナや八木アンテナを製作し、実際にアンテナとして機能することを実証します。さらに輻射場の状態密度を変化させ、物質の発光特性を人為的に制御できる可能性を確かめます。
◆ 分子配列制御した低次元秩序構造による有機発光素子の高機能化
  柳 久雄    神戸大学工学部 助手
 有機発光デバイスの高機能化に向けて、低次元異方性をもつ発光性分子を薄膜中で配向制御し、キャリア特性や発光の偏光特性の改善による発光増幅を目指します。さらに、素子中に有機低次元秩序構造を導入することにより、励起子や光の閉じ込め効果を利用して有機レーザダイオード開発の可能性を探ります。
◆ 制御されたナノ粒子の秩序配列と磁気特性
  米澤 徹    九州大学大学院工学研究院 助手
 既知の物質でもナノサイズになると、その配列を制御して変化させることによって異なる物性を持つものとなる可能性があります。本研究では、金属ナノ粒子を対象として、その表面に存在する保護配位子を目的に合わせて合成し、粒子のナノレベルの秩序配列形成を制御し構築することによって新しい磁気特性を発現させることを目指します。
◆ 酸化物ガラスにおける欠陥・微量成分の秩序性と高機能化
  渡辺 裕一    東京理科大学基礎工学部 助教授
 極短パルスレーザ光が誘起する酸化物ガラス中の光化学反応に関する基礎的知見を集積するとともに、物理的・化学的に修飾された3次元微細集積構造を酸化物ガラス内部に導入することにより、光メモリ素子や発光素子、およびフォトニッククリスタルをはじめとする次世代高機能光デバイスに向けた新たなガラス材料の創製を目指します。


「相互作用と賢さ」 研究領域

◆ インテリジェント・バイオマイクロラボラトリ
  新井 史人    名古屋大学大学院工学研究科 助教授
 ミクロな空間での作業を行うことが可能な人工空間を構築し、細菌の好培養条件の探索に応用します。具体的には、一菌体レベルの取り扱いと、好培養条件の自動並列探索を可能とするデスクトップシステムを構築し、人間がマイクロ領域で自由かつ効率的にバイオ実験を進めるための知的空間の構築を目指します。
◆ 人間と共に移動する生活支援ロボット
  大矢 晃久    筑波大学電子情報工学系 講師
 人間の移動時に、人間の生活を精神面、情報面、また肉体面で支援できるような知的ロボットの実現を目指します。具体的な支援動作としては、道案内などの人間の誘導、散歩中の話し相手になることによる精神的補助および情報提供、重量物を運搬して追従することによる肉体的補助などを対象とします。
◆ 非線形動力学的手法による群知能ロボット
  菅原 研    電気通信大学大学院情報システム学研究科 助手
 比較的単純なロボットが集団で協調的に振る舞うことにより高度な機能を発現する群知能ロボットシステムの研究を行います。運動形態の制御機構や、環境適応型分業のアルゴリズムなどの作製を通して、実世界で有効に機能する群知能ロボットシステム設計に向けた指針の構築を試みます。
◆ 情報検索における対象知識獲得支援システムの構築
  高間 康史    東京工業大学大学院総合理工学研究科 助手
 膨大、新鮮かつ多様な情報が存在するWWW空間上で、情報検索という“対話”を通じてユーザによる知識獲得を支援するシステムの構築を目指します。そのための構成要素となる感性的表現に基づく情報の性質分析,免疫システムを応用した漸進的可視化ユーザモデルの構築手法の提案も行います。
◆ 分散配置されたデバイスと相互作用し賢くなる知的空間
  橋本 秀紀    東京大学生産技術研究所 助教授
 人間を観測しその意図を把握して、適切な支援を提供する人工的な空間の創造を目指します。具体的には、その空間内に分散配置された多数のデバイスがNetwork化され、人間から得られる多様なデータの取得手法とその情報化及び知能化を検討し、データの持つ意味を抽出して、適切な支援を発現する仕組みを提案します。
◆ 成長するネットワーク型知能と人間中心システム
  山口 亨    東京都立科学技術大学工学部 教授
 外界や人間との相互作用によってネットワークシステム側が人間の意図を把握し協調して人間を支援する「人間中心システム」の実現を目指します。具体的には、ハードウェア技術とソフトコンピューティング技術を融合し、さらに、オントロジーを工学的にモデル化した情報共有手法によりネットワーク空間上で成長する新たな知能システムへの展開を図ります。


「機能と構成」 研究領域

◆ 効率的で正しいプログラムの自動生成
  小川 瑞史    日本電信電話株式会社 NTTコミュニケーション科学基礎研究所 主任研究員
 人間が作成するプログラムを効率の面で凌駕するプログラムの自動生成をめざします。その手法は、仕様記述を簡単な再帰関数により行い、組合せ理論とプログラム変換手法を適用することで理論的・実用的に効率の良いプログラムを生成します。応用範囲としてデータベース検索、プログラム解析の自動生成などを想定しています。
◆ 超高速I/O指向オペレーティングシステム
  河合 栄治    奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科 博士後期課程
 高速ネットワーク技術の発展により、ネットワークサービスにおける性能のボトルネックは、従来の低速な広域ネットワークからサーバホスト、特にサーバオペレーティングシステムへ移行しつつあります。本研究では、割込みに依存しない高速非同期I/Oの実現、メモリコピーの安全な削減手法確立など、オペレーティングシステムにおけるI/O機構の再構築により、超高速I/O指向オペレーティングシステムの実現を目指します。
◆ ソフトウェア自動生産のための新領域探求
  Glueck Robert    早稲田大学ソフトウェア生産技術研究所 訪問研究員
 ソフトウェアの自動生産の実現を目指して、ソフトウェアを生成するソフトウェアの構築にあたります。その実現に向けて、意味論的に扱いやすい関数型言語を用いて、 (1)プログラムに対する3つの基本的な変換操作(プログラムの結合・逆転・特殊化)、(2)変換操作のなす多重階層、および (3)インタプリタを介した変換操作の可搬性、からなる3つの基本原理を組合せて研究を進めます。
◆ 理論領域と実用領域を結ぶ新しいプログラミング単位
  河野 真治    琉球大学工学部 助教授
 コンピュータ分野では理論領域と実用領域とに大きな乖離があり、命令・関数などのプログラミング単位の差が大きいことに起因しています。本研究では、アセンブラレベル言語とJavaやC++等の高級言語との中間にあたる新しいプログラミング単位を設定し、ハードウェア領域での検証技術を実用的なプログラミングに応用するための段階的な抽象化の手法として利用します。この単位をプログラミング言語として設計・実装し、検証手法を展開します。
◆ インターコミュニュケーション・プログラミング
  関口 龍郎    東京工業大学大学院情報理工学研究科 リサーチアソシエイト
 インターネット上での人と人との双方向コミュニケーションを支援するソフトウェアを、安全で効率的に記述できるプログラミング言語システムの構築を目指します。そのアプローチとして、性能と安全性を両立させるためにポインタ演算のための型システムを利用し、機密性を高めるために言語での細粒度のアクセス制御を採り入れます。
◆ 計算状態パーソナル・スクラップブック
  Potter Richard    科学技術振興事業団 さきがけ研究21 研究補助者
 コンピュータの計算状態が直接見えないことと刻々と変化することが、これまでのプログラミングを難しくしてきました。ここでは、プログラムの作成・検査・文書化・理解を容易にする目的で、汎用プログラミング言語の実行状況のスナップショットを収集・保存し再利用することを可能にした、計算状態パーソナル・スクラップブックの研究を行います。


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