(別紙5)

平成12年度 「若手研究」 採用研究課題概要


「協調と制御」 研究領域

◆ 自然現象・社会動向の予兆発見と利用
  大澤 幸生    筑波大学社会工学系 助教授
 自然・社会における様々な重大な変化の予兆を発見し、その変化が危機ならば対策をとり利益の機会ならその予兆を利用する方策をたてて実行する方法の創生を目指します。データから未来の重大な変化の予兆を計算機によって発見する手法と、その予兆が持つ人間にとっての意味を人に気づかせ活動させる方法の両面について研究を進めます。
◆ オープンネットワークのための基盤システムソフトウェア
  加藤 和彦    筑波大学電子・情報工学系 助教授
 インターネットの最大の特質の一つは、それがオープンなネットワーク環境であるという点です。しかし、現在のオペレーティングシステム等の基盤システムソフトウェアの基本設計は、クローズな環境を仮定した、古い設計概念の上につぎ木的に行われてきたものです。本研究は、システムソフトウェアの基本設計を根本から見直し、オープンネットワーク時代に適合する基盤システムソフトウェア体系の構築を目指します。
◆ 時間順序の脳内協調表現
  北澤 茂    工業技術院電子技術総合研究所 主任研究官
 脳には水晶クロックがありません。しかも信号は多数のループを巡るので、複数の信号の間の時間順序は簡単に失われてしまいます。脳はどこで、どうやって信号の時間順序を表現、保存、再生しているのでしょうか?本研究は、信号と信号の差分に基づく「動き」を表現する領域と、信号そのものを表現する領域が協調して、信号の時間順序を再構成する、という「動き投影仮説」を手がかりとして問題解明に挑みます。
◆ 生体の力学的な信号に基づくコミュニケーション
  小池 康晴    東京工業大学精密工学研究所 助教授
 人から環境へ、環境から人へ相互に情報をやり取りすることでお互いの内部モデルが獲得できます。筋電信号などの生体の力学的な信号から、人と環境の内部モデルを獲得し、相手の意思や行動が予測できるシステムの研究を行います。そして,人と環境の円滑なコミュニケーションへの応用を目指します。
◆ 量子ビットを用いた知能デバイス
  佐藤 茂雄    東北大学電気通信研究所 助手
 現在のLSI技術では利用されていない量子ダイナミクスを使った知能処理デバイスの研究を行います。具体的には生体の脳とは違う原理を用い、人間が行っているような知能処理を正確に実行する量子計算に向けて、シリコンを材料とした核スピンによる量子ビットの実現と知能処理アルゴリズムの構築を目指します。
◆ 感覚情報・身体制御に関する発達過程
  高谷 理恵子    福島大学教育学部 講師
 制御された視覚情報を見せることで、赤ちゃんの運動がどのように変化するかという点に着目して、心理学的実験および3次元運動計測を行います。それにより自らの動きによって生じる体性感覚と視覚情報との統合過程を発達的な観点から明らかにすることを目指します。
◆ 知的創造作業を支援するインタラクションパタン
  中小路 久美代    (株)SRA 主席輔
 知的創造作業のためのソフトウェアは、従来の「機能」を中心とする視点ではなくユーザとのインタラクションという視点から捉えデザインすることが必要です。そのために、(1)優れたインタラクションの収集、(2)他のタスクへの応用による汎用性の検証、(3)インタラクション表現モデルの構築、(4)それが適する認知モードとの対応づけ、および(5)それに基づくインタラクションパタンカタログの構築を行ないます。
◆ 非言語コミュニケーションの脳内機能メカニズム
  中村 克樹    京都大学霊長類研究所 助手
 私たちには言語を直接介さないコミュニケーションの手段があります。身ぶりや表情、声の抑揚などを使って、感情・情動を他者に伝えることができます。こうした非言語コミュニケーションが言語の起源であると考えています。非言語コミュニケーションに関わる脳領域を同定し、各々の役割を明らかにします。
◆ 乳幼児における人工物・メディアの発達的認識過程
  開 一夫    東京大学大学院総合文化研究科 助教授
 小さな子どもは電子玩具やテレビ上での出来事をどう捉えているのでしょうか?本研究では人工物あるいはメディアが、子どもの発達過程に及ぼす影響を認知科学的観点から明らかにします。具体的には、TV・コンピュータゲーム・ペット型ロボットの3つを題材とし、感覚統合・素朴物理学・心の理論の初期形成に着目した乳幼児行動実験を行います。
◆ 人間共生型インターフェイス
  前田 太郎    東京大学大学院情報学環 講師
 装着者を含む外界環境に対して人間と同様に感覚情報を取り込み、人間の感覚−運動過程の行動モデルを学習によって獲得し、次第に自ら運動する代わりに装着者に対して行動要求を出すようになる共生型の装着システム・パラサイトヒューマンを提唱し、作製します。これを用いた人間機能の工学的解明と適応インターフェイスへの利用を進めます。
◆ 濃度制御に基づくDNAコンピューティング
  山本 雅人    北海道大学大学院工学研究科 助教授
 DNAコンピューティングは,DNAを演算素子として,また,化学反応や分子化学的実験操作を演算として捉えた計算手法のことです。本研究では,DNAの溶液性を利用した濃度制御によるDNAコンピューティングを提案し、大規模な問題への適用を目指します。具体的な例として最短経路問題の効率的解法を実験によって実現します。
◆ 共生関係への移行に伴う遺伝子代謝ネットワークの再編成
  四方 哲也    大阪大学大学院工学研究科 助教授
 独立に発達したネットワーク(NW)を融合させるには、動的安定性と整合性を保ちながらNW及びNW間にどのような信号伝達の制御が行われているかを知る必要があります。この問題解決に向け、独立に進化してきた遺伝子代謝NWもつ2種の生物を用いて、共生関係の進化と、その過程で起こるNWの再編成について研究します。


「タイムシグナルと制御」 研究領域

◆ 眼の再生を支える幹細胞システムの解明とその医学応用
  小阪 美津子    (財)倉敷成人病センター 主任研究員
 黒目(虹彩色素上皮)細胞の分化転換現象の解析を通じて、組織細胞の分化形質発現の安定化機構、脱分化機構を分子レベルで解明します。さらに、この細胞を眼組織再生のための幹細胞として活用し、高等動物の眼球内でレンズ、網膜神経を再構築させることを試み、ヒト眼科系疾患に対する再生医学的応用を目指します。
◆ 細胞内1分子測定でみる増殖と分化の情報
  佐甲 靖志    大阪大学大学院医学系研究科 助教授
 細胞の運命として全く反対方向である分化と増殖を引き起こす信号が、ほとんど共通した細胞内情報伝達回路によって処理されていることがわかっています。この研究では、情報伝達分子の反応の細胞内1分子計測などを使って、分化と増殖の情報処理過程の違いを明らかにすると共に、生物の基本的性質であるエネルギー変換効率の理解をより一層深めることを目指します。
◆ クロマチン情報が親鎖から娘鎖に維持伝承される機構
  柴原 慶一    コールドスプリングハーバー研究所 ポストドクトラルフェロー
 DNA複製において、クロマチン情報が親鎖から娘鎖に維持伝承される機構、即ち、クロマチン複製の解明を目指します。そこで、DNA複製直後に起きるクロマチン複製に重要な役割を果たす2つのステップ、1)複製に伴うヌレオソームアセンブリー、2)DNAメチル化の維持に注目します。その機構解析をin vivo、in vitroの双方から行い、高次のクロマチン構造体形成など未知の命題に迫ります。
◆ 免疫グロブリン受容体を介した生体防御機構
  渋谷 彰    筑波大学基礎医学系 助教授
 血液細胞に発現する免疫グロブリン受容体は病原微生物などの抗原と免疫グロブリンとで形成される免疫複合体を結合し、生体防御反応やアレルギーなどに関与している。本研究では、世界に先駆けて同定したIgM抗体に対する免疫グロブリン受容体の解析を中心に、免疫グロブリン受容体の免疫反応における役割を解明し、ワクチンなどの免疫制御法の開発にも道を拓くものです。
◆ 環状遺伝子の形成とその生物学的意義
  下田 修義    理化学研究所脳科学総合研究センター 研究員
 ゲノムは保守的な存在ですが、特定の機能を果たすために、その構造をダイナミックに変化させる能力を内包しています。最近、私はその新たな例と考えられる現象、すなわちある遺伝子の環状化をゼブラフィッシュにおいて見いだしました。環状DNAは老化や細胞分化の過程で普遍的に観察されています。本研究はその形成のメカニズムと意義を遺伝学的アプローチにより解明することを目指します。
◆ 免疫の調節機構、その制御と新しい治療コンセプト
  清野 研一郎    筑波大学臨床医学系 講師
 臓器移植後の免疫寛容を誘導するような免疫の調節機構について、新しいリンパ球NKT細胞の機能解析を中心に研究を進めていきます。また、その制御法の開発を試み、移植拒絶反応、自己免疫疾患、アレルギーなどの他、高齢化に伴って起きる様々な疾患に対する、免疫細胞の適正化や免疫寛容状態の改善による新しい治療コンセプトを模索します。
◆ 構造トポロジーを用いた細胞内蛋白質の生涯プログラム
  高田 彰二    神戸大学理学部 講師
 生体内での蛋白質の生涯は一定の過程をたどるようにプログラムされています.例えば蛋白質の自発的構造形成、ストレス構造変性からの分子シャペロンによる修復、調節機能としての蛋白質分解などです。またアルツハイマー病など加齢に伴い発症率が高まる神経疾患に見られる蛋白質のアミロイド沈着などはそのプログラムのエラーと考えらます。これら諸過程を、蛋白質の立体構造トポロジーを軸に、理論的総合的に理解することを目指します。
◆ 神経幹細胞の分化過程と神経回路網の再構築
  田中 光一    東京医科歯科大学難治疾患研究所 教授
 従来絶望視されてきた脳機能の再建は、神経幹細胞の発見により可能性が出てきました。本研究では、神経幹細胞からニューロン、グリアへの分化過程の制御機構、及び新しく生まれたニューロンがいかにして既存のニューロンと神経回路網を形成して記憶・人格などの恒常的な性質を維持するかについて明らかにし、高齢化に伴い重要な意義をもつ中枢神経系の機能再生を目指します。
◆ 大脳皮質における機能的領野のパターン形成機構
  田辺 康人    (財)大阪バイオサイエンス研究所 研究副部長
 個々の機能的領野は、皮質内因性のプログラムとともに、例えば経験といった皮質外からの外因性の作用により、それを構成する神経細胞、神経回路網がパターン化され、形づくられます。その大脳皮質発達期におけるパターン形成がどの様にしておこるのか、まず内因性神経機構に焦点を当てて、例えば運動野、体性感覚野、視覚野に見られる特徴的な組織構築がどの様にして形成されていくのか、レーザーマイクロダイセクション法、single cell PCR法などを用いて明らかにします。
◆ 老化により生じる神経細胞死を抑制する遺伝子
  中野 裕康    順天堂大学医学部 助手
 ある種の腫瘍細胞に対し細胞死を誘導する腫瘍壊死因子(TNF)が、なぜその他の正常細胞には細胞死を誘導しないかというメカニズムはいまだ解明されていません。この研究を通して、普遍的な細胞死抑制の分子メカニズムを明らかにし、最終的には老化に伴って生じる神経細胞死を抑制することを目指します。
◆ 長期記憶の分子機構の探索
  尾藤 晴彦    京都大学大学院医学研究科 講師
 長期記憶の成立には海馬錐体細胞の神経活動が不可欠です。それでは記憶の長期化の過程で、海馬シナプスでの刺激応答は、いかなる分子的、構造的、機能的変化を神経回路網に引き起こすのでしょうか? 本研究は、記憶形成にかかわるsynapse-to-nucleusならびにsynapse-to-cytoskeletonシグナリングを、神経活動依存的な可塑性変化に注目して、その分子的実体に迫ります。
◆ アルツハイマー病から脳の老化制御機構を探る:新たなAmylospheroid仮説提唱と検証
  星 美奈子    三菱化学生命科学研究所 副主任研究員
 アルツハイマー病発症の焦点であるβ‐アミロイド(Aβ)毒性の責任分子として、Aβの変化に伴って形成される新たな構造体を発見し、amylospheroid(ASPD)と名付けました。加齢によるASPD形成がアルツハイマー病発症に結びつくというASPD仮説を提唱し、生体においてこの仮説を検証します。
◆ 細胞骨格の動的再構成による細胞形態と分化の制御
  三木 裕明    東京大学医科学研究所 助手
 アクチン細胞骨格のダイナミックな再構成を制御するWASPファミリー蛋白の働きを神経組織、線虫個体という生命の場において可視化することにより解明し、細胞分化及びその秩序だった組織化における細胞形態制御の重要性を明らかにします。
◆ 免疫細胞遺伝子発現の人為的制御
  山下 政克    千葉大学医学部 助手
 免疫細胞は、いったん構築された遺伝子発現プログラムを再構築することで細胞機能を変換し、生体内に進入する病原微生物を排除しています。新しく開発したアデノウイルスベクターによる遺伝子導入法を用い、T細胞機能分化の系をモデルに、免疫細胞における遺伝子発現プログラムの再構築機構の解明を通して免疫病や老化に伴う疾患治療への道を拓くことを目指します。
◆ 蛋白質工学的手法によるタイムシグナルの人工制御系の構築
  若杉 桂輔    京都大学大学院工学研究科 助手
 シグナル伝達を制御可能にする新規機能性蛋白質をデザイン創製することにより、アポトーシス、老化などのタイムシグナルの人工制御系を構築することを目指し、生命現象の根幹をなすシグナル伝達系の全体像を分子レベルから明らかにします。
◆ 脊椎動物の神経幹細胞の分化と非対称分裂のプロセス
  若松 義雄    東北大学大学院医学系研究科 講師
 発生過程では、自己複製能を持つ未分化幹細胞が、様々な細胞種を造ります。また、神経系幹細胞は成人の脳にもあり、再生医療への応用が期待されています。したがって、幹細胞が維持され、また分化した細胞を生み出す機構を知ることは重要な意義があります。本研究は、神経系の幹細胞が分化した細胞を生み出す時、NUMBという分化制御因子が不等分配される非対称分裂に着目して、再生医学の分野で重要な意義をもつ幹細胞の分化制御機構を明らかにします。


「変換と制御」 研究領域

◆ 水を変換プロセスに利用した廃ガラスの再資源化
  赤井 智子    工業技術院大阪工業技術研究所 主任研究官
 ガラスは、高圧水蒸気と接するとガラス転移点以下でも分解・ゲル化・結晶化などが並行する複雑な反応を起こします。本研究ではこの複雑な反応を制御し、強酸水溶液処理と組み合わせて利用することで、廃ガラスからアルカリ成分を除きシリカゲル等へ再資源化することを行います。それによって新規な低エネルギーリサイクルプロセスを提案することを目指します。
◆ 光電池を目指したエネルギー変換素子
  池田 篤志    九州大学大学院工学研究院 助手
 光電池の低コスト化を目指し、有機化合物の利用が注目されています。本研究では、より安価に、しかも短期間で光電池を作成できるように、ホスト−ゲスト錯体を積層する方法を利用し、様々なゲスト分子について最適性を検討することにより、多層化、高密度化、隔離による高性能光電池の開発を目指します。
◆ 環状DNAを用いた人工光合成系の構築
  居城 邦治    北海道大学電子科学研究所 助教授
 植物や細菌などの光合成では、光エネルギーがアンテナ複合体と呼ばれるタンパク質内で環状に並んだ色素分子に捕捉された後に、化学エネルギーへと変換されています。本研究では、(デオキシ)リボ核酸の持つ特異的な構造を利用して、色素分子が環状に並んだ人工アンテナ分子をつくることで、クリーンなエネルギー変換システムを可能とする人工光合成系の構築を目指します。
◆ 超分子相互作用を用いた環境調和型物資変換プロセス
  小西 克明    東京大学大学院工学系研究科 助手
 生物の体の中では、水素結合をはじめとする微弱な力が、複数の分子団の間で多重に働くことによって、様々な機能が巧妙に発現、制御されています。これを手本に、本研究では、分子間の弱い相互作用を人工的かつ戦略的に活用して、分子の複合体(超分子)を精密にデザインし、それを用いて、クリーンで高効率、高選択的な物質合成ができるシステムの構築を目指します。
◆ 機能性炭素反応種を用いた合成反応
  新藤 充    徳島大学薬学部 助教授
 炭素反応種であるイノラートは一度の反応操作でいくつもの反応を連続的に行うことができる多機能性と特異な反応性を有していますが、これまで一般的合成法も知られておらずその化学は未開拓でありました。本研究ではイノラートの新規簡便生成法を確立すると共にその機能を徹底的に精査し、複雑な構造の化合物の短工程高効率合成を目指します。
◆ プロテインメモリーを利用した低温高機能酵素のデザイン
  田村 厚夫    神戸大学大学院自然科学研究科 講師
 タンパク質のデザインとは、自然界の「アミノ酸配列−立体構造−機能」の流れを逆にたどり、人工的に望みの機能をもつタンパク質の構造とそのアミノ酸配列を編み出すものです。本研究では、プロテインメモリー現象の利用を始めとして進化工学、新規固定化法などを組み合わせ、低温でも高機能な酵素をデザインし、高効率無添加物の反応を促進することを目指します。
◆ 廃熱から電気を作る環境にやさしいセラミックス
  寺崎 一郎    早稲田大学理工学部 助教授
 固体の熱起電力を利用して熱を電気に変換することを熱電発電といいます。熱電発電は,二酸化炭素などの老廃物なしに廃熱から電力を得ようとする試みであり,エネルギーや環境の諸問題にひとつの解答を与えるものです。本研究では,無毒で豊富な元素でできた酸化物セラミックスだけを用いて,環境にやさしい熱電発電素子の作製を目指します。
◆ ポリウレタン分解酵素の修飾と機能改変
  中島(神戸)敏明    筑波大学応用生物化学系 講師
 微生物の中にはプラスチックの一種であるポリウレタンを食べて生きてゆけるものがいます。これらは特殊な酵素を分泌してポリウレタンを分解します。本研究では、微生物の持つ様々なポリウレタン分解酵素を修飾、改変して、新しいプラスチック分解酵素を創ります。
◆ 層状ニオブ・チタン酸塩の層間修飾と光活性を利用する機能化
  中戸 晃之    東京農工大学農学部 助教授
 層状ニオブ・チタン酸塩の2つの特性、具体的には層間へ他の分子を挿入する性質と光応答性を活用して、環境保全や光エネルギー利用に資する素材の創製をめざします。水中の有害有機物質の層間への吸着と光分解とを一つの物質で行わせる、新しい汚染物質除去材料を提案します。また、可視光応答分子やレドックス活性分子の挿入と配列制御によって、効率的に光エネルギーを変換する物質系の構築を検討します。
◆ 光と相互作用するエネルギー変換高分子系の構築
  中野 環    奈良先端科学技術大学院大学物質創成科学研究科 助教授
 光と生体内の色素との相互作用によるエネルギー変換過程は生命現象のなかで重要な役割を果たしています。本研究では、人工の高分子あるいはその集合体による効率の高いエネルギー変換系の構築を目指します。このために、光を捕らえる芳香環基が隙間なく集積し、秩序をもって配列した特異な構造を持つ新しい高分子"π-スタック型ポリマー"を合成し、光との相互作用について明らかにします。
◆ C1資源を活用する不斉触媒反応
  野崎 京子    京都大学大学院工学研究科 助教授
 C1化合物は石油代替資源として注目されていますが、その利用は未だ汎用化学物質合成に限られています。この研究では、新しい不斉触媒の作製によってC1資源を光学活性化合物合成のための原料として活用します。不斉ヒドロホルミル化(不斉オキソ)および不斉重合によって、一酸化炭素や二酸化炭素から医農薬合成中間体や新材料などのファインケミカルを合成する新化学反応の創出を目指します。
◆ 蛋白質フラスコを用いた高効率酵素型触媒
  林 高史    九州大学大学院工学研究院 助教授
 ヘム蛋白質は、様々な反応の触媒となる潜在的能力を秘めたポルフィリン鉄錯体(ヘム)を補欠分子として有しています。本研究では、ヘム蛋白質から天然ヘムを除去したアポ体への機能化金属錯体(人工ヘム)の挿入、ヘム末端への基質認識部位の修飾、あるいはヘムポケットの改良などにより、テーラーメードな反応場(分子サイズのフラスコ)を構築し、蛋白質に新しい触媒機能の誘導を図ります。
◆ 高分子結晶工学を基盤とする有機材料設計
  松本 章一    大阪市立大学工学部 助教授
 結晶中の分子の並べ方によって反応や機能を制御しながら、反応溶媒を用いずに固相で高分子合成できる新しい重合法を提案し、高分子材料設計に役立つ固相有機合成への応用を目指します。結晶工学やトポケミカル反応を利用して、既存の有機材料とは異なる特性を発現できるように多次元構造が制御された高分子材料を作製します。
◆ 生体膜表面に吸着する環境ホルモンの計測システム
  叶 深    北海道大学大学院理学研究科 助手
 環境ホルモン類化合物(内分泌撹乱化学物質)は極微量でも生体のホルモンバランスに重大な影響を与えますが、細胞膜の表面における吸着状態や細胞膜内への侵入過程に関する情報は、調査手法が欠如しているため不明な点が多いです。本研究では、分子レベルで環境ホルモンの機能発現を理解するために、界面選択性が優れている和周波発生(SFG)分光の計測システムを構築し、生体膜表面における環境ホルモン分子の吸着挙動及び侵入過程の解明を目指します。


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