「近接場光学顕微分光測定システム」


本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。

(背景) 光の波長以下の微小領域へ適用できる顕微分光測定システムが望まれていた。

 光に照らされた物質からの散乱光や、発光の波長分布(スペクトル)を測定することで、物質の化学組成や構造等の情報を得ることが出来る。このような分光分析は各種分野での研究開発で広く利用されている。近年では半導体や生体組織、及び高分子材料などの微小部分についての局所分析を行う必要から、顕微分光の技術が進み、1〜10ミクロン程度の微小部分について局所分析が可能になってきた。
 しかし、半導体デバイス等の微小部分の結晶構造の分析やナノスケールの微細加工を伴う半導体製造プロセスの評価・品質管理及び非破壊で行う生物分野での細胞内の分子レベルでの微小構造の分析などの分野では、試料のさらに微小な部分を分析することが可能な高分解能の顕微分光測定の必要性が高まっている。
 従来の光学系では自由空間を伝播してきた光を取り扱うため、元の波長より小さな領域の局所的分析が可能なほど高分解能を得るのは原理的に困難である。従って、可視領域(可視光0.4〜0.8ミクロン)の光を用いた顕微分光は、従来光学系による限り、空間分解能についてほぼ限界に達していた。

(内容) 近接場光(光の波長より小さい誘電体微粒子の表面にまつわりついた光)を利用することにより、光の波長の限界を超えて高分解能の顕微分光測定システムが実現できた。

 本新技術は、可視光波長より微小な領域の分光測定を可能とする装置に関するもので、その概要は以下の通りである。石英など誘電体材料からなる光ファイバの一端を円錐状に加工し、光の波長より小さい曲率半径に先鋭化し、近接場光(波長より短い距離のみに届く光)を取り出したい開口部分を残し他の部分を金属膜などでコーティングする。このような構造を持つ光学素子を近接場プローブと呼ぶ。この近接場プローブの先端に発生した近接場光を試料に照射することにより、試料表面に照射される光のスポットサイズを光の波長以下とすることができる。その結果、極めて微小な領域の分光スペクトルを従来の顕微分光法などよりも高い空間分解能で得ることができるようになった(図1)。
 開発したシステムは次の通りである(図2)。レーザー光源部で発生されたレーザー光は、プローブへとつながる光ファイバへ導入され、プローブ開口部を通して試料表面に照射される。プローブ開口部付近には、プローブの他に、試料をナノメートルの精度でXYZに位置決めする微動試料ステージ、及び試料とプローブの間の力学的な相互作用を検出し試料とプローブの間隔をナノメートル精度で制御するためのフィードバック光学系が配置されている。試料と近接場光の相互作用の結果得られた散乱光は、プローブ開口部から光ファイバ内を通り分光器部にて波長スペクトルに分光され、検出部にて高感度検出される。

 また、プローブと試料との距離をナノメートルの精度でコントロールするため、本開発ではスパイラルフォースフィードバックと呼ばれる方法を考案した(図3)。
 この方法では、プローブを試料平面内で等方的に運動させるため分解能の低下がなく、微動ステージで試料との距離を制御しながら試料面内を移動することにより、その試料表面の凸凹形状をナノメートルの精度で測定できる様になった。
 近接場光を発生するプローブの製作は従来のプライマー法に代わり、押し付け法という独自の方法を考案し、開口径100nm〜500nmで再現性の良い開口形成が出来るようになった(図4)。さらに、プライマー法にくらべて10倍程度光透過率があがった。このため、本システムでは近接場光の照射と試料から得られる光の集光が同じ開口を通して行われるイルミネーションコレクション法(図5)が採用出来るようになり、結果として非常に高いS/Nを得ることができた。
 これらプローブの制御技術及び大幅な性能向上と高効率な分光器の開発及び光学系の最適化により、光の波長以下の微小領域での分光測定が可能となった。

(効果) 先端的な研究開発の基盤となる微小構造の分析ツール

本技術による近接場光学顕微分光測定システムは

(1) 光波長より微小な領域の試料にたいし光励起の発光や散乱光の分光測定法が適用できる。
(2) 試料表面を走査して表面形状測定と分光測定と同時に短時間で行える。

などの特徴を有し、

(1) 高集積半導体デバイス等の微小部分の組成・結晶構造の分析
(2) 生体組織等の微小な構造に局在する物質等の分析

など、各種先端的な研究開発のツールとして利用できることが期待される。


This page updated on September 7, 2000

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