「可搬型蛍光X線分析装置」の開発に成功


新技術の背景、内容、効果は以下の通りである。

(背景) 容易に持ち運びができ測定現場ににおいて分析ができる蛍光X線分析装置の出現が要請されていた。

 蛍光X線分析は、X線を試料に照射し試料中の原子の内殻電子を励起させこの励起が緩和する時に放出される元素固有のX線(蛍光X線)を測定することにより、元素の特定及び定量を行う分析方法である(図-1)。この分析方法は非破壊でほとんどの元素について極微量(ppmオーダー)から100%オーダーまで広い範囲の計測が可能である特長を有している。しかし、従来のX線発生源(X線管)は高出力のため大きく、X線検出素子の冷却に液体窒素が必要となるなど装置は大型で重く、測定現場に持ち出すことは困難であった(図-2)。可搬型の分析装置も製品化されてはいたが、X線源として放射性同位体を使用するため取扱いには注意が必要であり、法律的な規制も多く、屋外に持ち出しての使用は必ずしも実際的ではなかった。このように持ち出しが困難であることにより用途もおのずと限られたものとなっていた。このため、蛍光X線分析装置の小型化を図ることによって屋外に容易に持ち出すことができかつ従来と同等以上の測定性能を有する分析装置の開発が望まれていた。

(内容) 蛍光X線分析装置の主要構成要素の小型化及び高性能な半導体検出素子の採用などにより、大幅な小型・軽量化が可能となり、さらに従来 と同等以上の分析性能を有する装置を開発した。

 本新技術は蛍光X線分析装置の主要構成要素であるX線発生部および蛍光X線検出部を小型化することで、屋外への容易な持ち出しを可能にしたものである。本装置は図−3に示すように、X線発生源(小型X線管)、X線単色化装置、X線検出器及び信号処理系の4つから構成されている。小型X線管から発生したX線はX線単色化装置により効率よく材料に照射される。試料から発生した蛍光X線はX線検出素子によりパルス信号に変換され信号処理系によって元素の特定と定量が行われる。以下にこれら個々の構成要素について述べる。

(1) 小型X線発生管
 小型の小出力X線管を開発した。一般にX線管は発熱量が大きく除熱が重要な課題であるが、出力を小さくし(50w)空気冷却方式の採用により小型化が可能となった。また、消費電力も少ないため蓄電池による駆動も可能となった。
(2) X線単色化装置
 X線管からは様々な波長のX線が発生するが、波の干渉を利用して分析に必要なエネルギー(波長)のX線のみを抽出し試料に照射することで、蛍光X線分析へのノイズが低減される。さらに試料に対してX線を収束させるため、X線の強度も高めることができ、高S/N比を達成できる。
(3) X線検出部
 半導体検出素子に蛍光X線光子が入射し、これにより電流パルスが発生する。本検出素子は応答特性を良くするために静電容量の小さい小型電極を採用し、また電極の周囲に電場を形成することで、素子内に生じる電子を効率よく収集できるようにした。さらに電極部に増幅部を作成することにより、ノイズの影響を受けずに増幅できるようにもなっている。また、半導体検出素子は熱雑音を除去するために冷却が必要となるが、本検出素子は半導体冷却素子(ペルチェ素子)を採用することで小型化が可能となった。これにより、検出素子は高S/N比で高いエネルギー分解能を有するようになった。
(4) 信号処理系
 X線検出素子から発生する電流パルスを計測する。電流パルスの数はX強度(元素の量)に、また各パルスの高さは元素の種類に対応しており、試料に含まれている元素の種類とその量を計算処理によって求める。分析結果はコンピューターのディスプレイに元素毎にそのX線強度がグラフィカルに表示される。本装置では各元素の蛍光X線データベースを参照することにより、従来よりも正確に元素の特定が行われるようになった。

 以上の構成要素により、装置を持ち出し可能な重量・大きさにすることができ、また分析性能(エネルギー分解能と検出下限値)については、従来と同等以上の性能を達成できた。(下表参照)

  重量 検出性能
エネルギー分解能 検出下限値
新技術 25kg 170eV 30ppb
従来技術 300〜800kg 170eV 100ppb

(効果) 小型・軽量で可搬型であるため、屋外などの測定現場に持ち出しての利用が期待される。

 本装置は軽量・小型であり、また放射線同位元素を使用しないため、屋外でも容易に持ち運びが可能である。このような特長を活かして下記に示すような項目について分析への利用が期待される。

(1) 工業製品(半導体、メッキ、プラスチック等)の現場検査
(2) 工場排水の現場検査
(3) 考古学資料及び犯罪資料の現場検査
(4) 鉱山の現場検査
(5) 宝石・貴金属店での品質チェック

図-4 可搬型蛍光X線分析装置(外観写真)


This page updated on August 31, 2000

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