「超音速自由噴流による表面電離型検出器」


本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。

(背景) ガスクロマトグラフの検出器には数多くの種類があるが、それぞれの用途に適合した高い感度を持つ検出器が望まれている

 ガスクロマトグラフとは主に有機化合物の気体をその成分ごとに分離し、検出することで定性・定量分析を行う方法で、微量成分の分析が可能であるために多くの分野で汎用機器として利用されている。その中において、検出感度を向上させて少量の試料の成分分析を可能にする、また取扱をさらに容易にするという方向で研究・開発が進められている。分離は、充填物を詰めたカラムの一端からヘリウムなどのキャリアガスを移動層として試料を導入し、試料分子のうち充填物との親和性の弱い順に他端から放出することで行われる。分離された試料の検出には、試料をイオン化して電気的に検出する方法が多く用いられており、水素炎中で有機化合物の炭素がイオン化するのを利用して有機物の検出を行う水素炎イオン化検出器(FID)やハロゲン化合物などの有機化合物が電子を捕獲することを利用した電子捕獲型検出器(ECD)などがある。しかし、FIDは有機化合物全般の検出が可能であるが感度が低く、さらに水素ガスを使用するという操作上の面倒さがある。また、ECDは高感度であるが、放射性同位元素63Niを用いているため、取扱に関する資格、設置場所、定期的な検査などの制限があり取扱が煩雑である。その他に、分子を固体表面と接触させ、固体表面との電子の授受を生じさせること(表面電離)によりイオン化を行う表面電離型検出器(SID)があるが、第三級アミン化合物など特定の化合物のみ検出するという選択性があり、薬物動態の研究などに利用されているものの、より高感度で、幅広い化合物に適用可能な検出器が望まれている。

(内容) 検出すべき試料を真空中に高速で噴出させ、金属表面に衝突させ、高い効率でイオン化させることを特徴とするガスクロマトグラフ検出器

 本新技術は、充てんカラムによって分離された試料の各成分を加熱したノズルより真空中に噴出させ(超音速自由噴流)、高い運動エネルギーを与え、高温に保たれたレニウムなどの金属表面に衝突させて有機化合物をイオン化させ(表面電離)、イオン電流を測定することで試料分子を検出する検出器に関するものである。
 カラムから分離された試料分子は微小径(直径数十μm)のノズルを通過する。その際、外側が真空に保たれているため試料分子が勢い良くノズルから噴出し超音速自由噴流となり、高い運動エネルギーを得る。その試料分子を高温に保たれたレニウムなどの金属表面に衝突させ、表面電離によりイオン化を行う際に、運動エネルギーが電子エネルギーに移行し、試料分子のイオン化に利用されるので高い効率でイオン化されるようになる。その後、イオン化された試料分子によるイオン電流を測定することにより試料分子の検出を行う。

(効果) 薬物動態の研究への利用のほか、環境分析などへの応用も期待される

 本技術では、従来の表面電離検出器(SID)との比較において、より広範囲の有機化合物が高感度で検出可能となる装置であり、アミンへの選択性を活かした薬物動態の研究のほか、環境分析などへの応用も期待される。


This page updated on July 13, 2000

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