電子線照射による高機能フッ素樹脂の製造技術


本新技術の背景、内容、効果は次の通りである。

(背景)
望まれている機械的特性(強靭性、耐クリープ性)に優れたフッ素樹脂

 フッ素樹脂は滑性、耐熱性、耐薬品性などの特性に優れ、パッキンやガスケット、被覆材料、各種摺動部材等、広範囲の分野で使用されている。その中でもポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、特性のバランスの良さから、フッ素樹脂の全需要のうちの約6割を占める代表的なフッ素樹脂である。
 近年、プラスチック材料に関してより高い機能化が要求されてきている。PTFEに関しては、低摩擦特性などの優れた特性を有する反面、強靭性や耐クリープ性に乏しく、滑性を要する部品などに用いる際に、PTFEにガラス繊維や炭素繊維等の充填材を加えて、機械的特性の改善を図っている。しかし、充填材を入れたPTFEをクリーンな環境を要する半導体製造装置などの精密部品に用いると、充填材によって粉塵が生じ、作業場を汚損することがある。また、充填材の種類や比率によっては、PTFEの特性である電気的特性や耐薬品性が低下するなどの問題が生じ、用途に応じた調製が必要であった。

(内容)
フッ素樹脂に融点直上の高温、酸素不在下の条件で電子線照射を行い、高分子間を架橋

 高分子材料の特性を向上させる手法として、放射線照射で高分子間に共有結合を生じさせる放射線架橋の技術がある。しかし、PTFEは放射線で分解される代表的な高分子であり、架橋することは不可能と考えられていた。
 本研究者らは、照射温度依存性を検討したところ、PTFEの融点(327℃)の直上での高温照射において、分解が著しく抑制され、弾性が増すことを見出した。また、結晶化が阻害され、白色の材料が透明体になることから、この照射条件において架橋反応が起こっているという結論に至った。一方、架橋したPTFEの特性を調べたところ、滑性や耐熱性、耐薬品性などPTFE自体の特性を損なうことなく、強靭性や耐クリープ性等の機械的特性が向上するほか、常温、空気中での放射線劣化が著しく改善されることを確認した。
 本新技術は、PTFEを融点直上で、かつ酸素不在下の条件で電子線照射による架橋を行い、高機能PTFEを製造するものである。製造において、PTFE原料を均一に加熱し、照射容器内にて高温かつ酸素不在下の環境で照射時の原料の温度を制御しながら電子線照射を行う。

(効果)
クリーンな環境を要する半導体産業での精密部品、医療、食品分野での電子線滅菌容器材料などに利用

本新技術は、

(1) PTFE自体の特性を損ねることなく、優れた強靭性や耐クリープ性、耐放射線性を付与できる。
(2) ガラス繊維や炭素繊維等の充填材が不要であり、クリーンかつ純粋な材料が得られる。

などの特徴を有し、クリーンな環境を要する半導体産業で用いられる精密部品や宇宙通信分野、及び医療、食品分野での電子線滅菌容器材料など、広範囲の利用が期待される。

* この発表についての問い合わせは、電話03(5214)8995 野田、小泉までご連絡下さい。


This page updated on March 5, 1999

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