科学技術振興事業団
科学技術情報流通促進事業評価報告書
概 要


平成12年5月9日
総合評価委員会
第1部 事業団の機関評価にあたって
はじめに
科学技術振興事業団(以下「事業団」という)では、事業団が運営する事業の全般にわたって評価を行い、事業団が実施している事業の内容とその科学技術振興上の意義を明らかにするとともに、事業団の運営に当たっての改善事項を抽出することを主眼とする機関評価を行っている。
事業団は外部から選任される評価者からなる総合評価委員会(委員長:熊谷信昭大阪大学名誉教授)(以下「委員会」という)に機関評価を依頼した。(資料1参照
事業団は多岐にわたる事業を実施していることから、平成11年度は科学技術情報流通促進事業を機関評価の対象と選定した。
委員会では科学技術情報流通促進事業評価部会(部会長:神沼二真 国立医薬品食品衛生研究所 化学物質情報部長)(以下「部会」という)を設け本事業の評価活動を行った。(資料2参照
委員会は平成11年5月6日以降3回、部会は6回の審議を重ね本報告書をとりまとめた。(資料3参照
科学技術情報流通促進事業の機関評価を行うに当たっての委員会の基本的考え方
評価の実施に当たっては、「科学技術振興事業団の機関評価の目的及び評価の視点について」を踏まえ評価を行った。
委員会は、我が国における科学技術情報流通の現状や科学技術会議第25号答申を踏まえ、事業団の事業の評価を行い、それを越えるものは、事業団から科学技術庁等に対し提言してもらうこととした。
評価対象となる事業を文献情報関係事業、一般会計事業(公募型事業を除く)、一般会計事業(公募型事業)のグループに分け、それぞれ評価を行った後、総合的な観点から評価を行った。
第2部 評価結果
既存個別事業
(1) 文献情報関係事業
情報基盤整備事業
(ア) 収集事業関係
科学技術の変化に対応して文献を適切に取捨選択することが求められている。また、コアジャーナルが漏れなく収集されているかの評価を定期的に行うことが求められる。
医療情報は、不完全に内外の文献を収集するよりは、利用者の観点に立って我が国で公表されている症例や副作用報告等の文献をさらに網羅して収集することに重点を置くべきである。
情報資源としての文献の収集・管理は将来への継承の役割もあり、国立国会図書館との間で、文献の選定についての調整を行うとともに、国立国会図書館が保有しない文献については事業団が責任をもって保存する必要がある。
データベースの対象としてウエブサイトも考えるべきではないか。その場合には書誌事項として当該URLを記載することとなろう。
(イ) 加工事業関係
索引データの作成および抄録データの作成は人手で行う知的作業であり、情報提供までに相当の時間的な遅れが生じている。この問題を回避するためには情報加工方法の改善等の検討課題がある。特に検討が急がれる事項として、(a)索引データ付与の自動化の検討、(b)抄録データ作成の自動化がある。ただし、当面は処理結果を人手によりチェックし直す機能が必要である。
抄録データそのものの価値の検討の必要性
 抄録データを作成するのであれば、内容に意味のあるものとすべきである。また、索引データ自体に意味を持たせる工夫も必要であろう。一方、抄録データは科学技術に関する基本的な知識を得られるという観点から、教育資源としての役割もある。現在の形の抄録データの価値については、費用対効果の観点から根本的な検討を行う必要がある。
情報提供事業
情報提供事業の効率化に当たっては販売システムとマーケティング活動を有効に機能させるべきである。そのためには、販売システムを適切に構築するとともに、需要サイドの要求・要望を早く、的確に掴む必要がある。前者については予定されているJOISのSTNへの移行に当たり、ユーザーに対して十分な支援を行うこと 等の点を措置しておく必要がある。後者については事業団のマーケッティング活動を見ると潜在的需要者の把握なども十分にできているとはいいにくい状態にある。場合によっては提供事業を民間企業に行わせることも検討すべきではないか。
情報分野別に価格設定を行い価格が費用を反映する形とし、利用者と事業団の間で適切なマーケットを形成していく必要もある。
価格やサービス形態の決定に当たっては、利用者の使用形態を踏まえた上で柔軟な料金体系やシステムとすべきである。
教育利用の促進を一層進めるべきである。JOIS等の資源は良い教材となるので、教材用に無料IDを配布してJOISを知ってもらう必要性がある。また、研究利用に 際しても、非営利団体や学術利用での割引を考慮することが望まれる。
複写サービスについては、公衆送信権を含め著作権処理について、著作権関係団体と検討する必要がある。より簡便な著作権処理を行うためには集中的な権利処理体制を整備することが望まれている。
英文データベースサービス事業は、検索語を日本語へ翻訳するシステムを検索システムのインターフェース機能として提供し、検索結果を機械翻訳システムを利用して日本語に翻訳する方式を周知させることで十分と考える。
総括的事項
データベースサービスや複写サービスについてはサービス方式の改善に更に努力し、より一層利用しやすい価格とすることが望まれる。
諸外国における同種事業の運営・営業形態を研究し、参考にすべき事項があればいつでも導入するような努力が日頃から求められる。
インターネットの発展に鑑み、事業団の電子情報発信・流通促進事業(電子ジャーナル)の普及、拡充が不可欠である。
科学技術の振興を図る上で科学技術情報は基盤資源であり、その流通事業は基盤的な事業と位置付けられる。科学技術文献は、人類の共通知的資源として将来に継承すべき資産であり、教育資産としても重要な資源である。国はこのような情報の流通を確保、促進する責務を有している。文献情報関係事業の資金はすべて産業投資特別会計で賄われているが、これは必ずしも適当とは思われない。科学技術情報の中には利用者が負担するという考え方では維持できないような知的資源としての価値を有するものがあり、他の類似事業は、一般会計、あるいは一般会計資金の繰り入れの行われている特別会計で運用されている。科学技術文献情報の場合もこのような範疇に属するものは、国際的な責任も考えあわせると、一般会計での運用を検討すべきである。
(2) 一般会計事業(公募型事業を除く)
高機能基盤データベース開発事業
(ア) 高機能基盤物質データベース
金属、合金、無機物質、高分子に関する他にあまり類を見ない有用なデータベースである。まだ試験段階であるが、スペクトルデータ等さらに高度なデータを含むことにより一層の発展が期待できる。
(イ) 高機能生体データベース
世界の公開データの約5%を占め、ヒトゲノムプロジェクトのわが国における重要な役割を担っている。ヒトゲノムプロジェクトに参加している内外の研究機関と協力し、研究にとって有用なデータベースとする必要がある
研究情報流通促進システム開発事業(分散型デジタル・コンテンツ統合システム)
民間検索エンジンに対して十分差別化できなければならず、辞書を高度化するとともに、システムが研究情報の内容を認識し、知的な処理を行ってその結果を発信する必要がある。
電子情報発信・流通促進事業(電子ジャーナル)
電子ジャーナル化で先んじている外国の支配に我が国の学術出版活動が屈することのないよう先手を打ったことは高く評価される。今後、様々な分野の学会誌に広げるとともに、技術的支援を進めることが重要である。
電子ジャーナルが広く利用されるか否かは、海外の有力ネットワークとのリンクの如何にかかっている。本事業により電子ジャーナル相互および文献データベースとのリンクを張ることが可能になるが、遡及分の電子化が問題となろう。また、電子ジャーナルデータの永久保存を保証するシステムも必要である。
全文を任意のキーワードあるいはJICSTシソーラスで検索するような付加機能をもたせたり、JICSTファイルに自動的に抄録情報を吸い上げるシステムなどを開発し、事業団独自の情報資源と有効にリンクさせることが望ましい。
学協会により様々なスタイル、習慣、作法があるので、できるだけ柔軟なシステムにするとともに、学協会にメリットを与えつつ論文のフォーマットの標準化を事業団が中心となって進めてほしい。
ある程度軌道に乗ったら民間に委譲するなり、適当な料金を設定するなりして、民業とのバランスを考慮すべきである。
新産業創出総合データベース構築事業(ReaD等)
網羅的で有効なデータベースとするために出来るだけ多くの研究者からデータを集めるには、当該研究者の承諾を得た上で公開するだけではなく、個人データの不適切な利用を防ぐ工夫が望まれる。
公的な研究機関の研究者や研究活動のデータベースは種々あるので他省庁や大学関係も含めて、どれか一つ、例えばこのReaDに統合すべきである。
研究情報流通高度化事業(省際ネットワーク)
アジア太平洋高度研究情報ネットワークなどの国際的な共同プロジェクトを積極的に進めるべきである。
学術情報ネットワークやギガビットネットワーク、商用ネットワークなどとの相互運用を進めるとともに、全国にアクセスポイントを増設し、地方自治体の公的試験研究機関等との接続も推進すべきである。
研究情報国際流通促進事業
APEC諸国のニーズについて充分把握することが必要である。また、機械翻訳システムの活用が有効であろう。
共通事項
事業が多様になっているので、事業団がこれらの事業を、利用者の視点に立ってより明確な形で再構成することを提案する。
(3) 一般会計事業(公募型事業)
計算科学技術活用型特定研究開発推進事業
事業団が従来から進めてきた文献情報関係事業との関係が希薄である。
本事業は、シミュレーション機能の高度化をはじめとする新しいソフトウエアの開発を目指すのか、あるいはネットワーク利用の高度化に重点があるのか、それとも特定分野の研究開発のレベルを上げるのか、そのいずれを本質的な目的とするのか課題応募者に対し明らかにする必要がある。
ユーザーニーズにマッチした課題選定を行う必要がある。そのようなニーズを踏まえた上で、得られた成果をライブラリー化し流通させることも課題採択の条件とすべきではないか。
計算科学技術の発展をもたらすというこの事業の新規性を深く認識した上で事業の運営に当たってほしい。また、年間4課題という現在の採択数ではあまりにも貧弱である。
研究情報データベース化支援事業
データベースはメンテナンスしないと無意味であり、メンテナンスに対する支援への期待は高い。そのためにも民間に役立つようなデータベースとなる課題を選定することが必要である。
データベース化支援は3年間という短期ではなく、メンテナンスも含めより長期にわたる継続的な支援をして、その分野では世界に通用するものにする必要がある。
共通事項
本事業分野においても事業団の強みを活かすことを前提とした事業の方向の明確化をすべきであり、そのような観点から他の事業との関係、重点分野の設定、課題採択方針(選定委員の選考)について工夫すべきである。
総括的事項と科学技術情報流通政策関連事項
(1) 科学技術会議 第25号答申と事業団の事業について(略)
(2) 新しい情報科学技術のインパクト
インターネットとWWWに関連する新しい情報科学技術の急速な発達は、今回、評価の対象とした全ての事業の将来に大きなインパクトを与えることは確実である。電子ジャーナル化が進めばデータベースを介さないでも自動的な検索が可能になろうし、文献の抄録作成も自動的に行えるようになる。
このような状況を踏まえると、インターネット上に存在する、@統合的に検索できるデータベース群とA検索エンジンによって検索可能なテキスト情報の両者をどう連動させるかが大きな課題となる。また、フルテキスト、その抄録及びデータベースの三者をどう連動させるかが新しい課題として浮上してくる。生命科学や環境科学の分野では、データや知識をどのように蓄積し、どのような方式で検索するかが、研究を展開する上で極めて重要になってきている。このことは、大規模なデータや知識ベースを解析することによって新しい知識を生み出す方法論の重要性を意味しており、事業団の既存事業の見直しも迫ることになる。
今回、評価対象となったすべての事業を、統一的な理念の下に有機的に連携して積極的に進める必要がある。いうまでもなく、民間ベースで出来るものについては、出来るかぎり民間に任せるようにしなくてはならない。
(3) 21世紀の事業団の事業の進め方
21世紀の我が国にとっては、科学技術を継続的に発展させていくための基盤、環境の整備、充実が必要である。国公立及び民間の双方を含めた研究開発関係者に対する全般的な科学技術情報の中枢的な提供機関としての事業団の存在意義は大きい。文献情報の作成に当たっては今後如何なる事業が事業団の存在価値を高めることになるのかを明らかにし、その中でどこを国が負担し、どこを利用者が負担すべきかを客観的に考えていかねばならない。国内文献についてはすべて網羅することを事業の存在意義、価値と考えることも出来るので国も積極的に負担することとし、利用率は低いが網羅性の観点から不可欠なものに対しては一般会計で賄うことも必要である。外国文献については、英語による抄録を提供すれば済むことも多くなろう。それでも外国文献の日本語抄録を必要とする場合には、要した費用に対応する負担を求める必要がある。
事業団の運営に関して3つの提言をしたい。第1は、外部の人間が事業団の経営幹部に実質的な助言をする仕組みを作ることである。第2は、情報科学技術の劇的な進歩に効果的に追随できるように、外部のコンサルタントあるいはそれに相当する人間の助言を得る仕組みを作ることである。第3は、大がかりな評価作業を何年かに1回行うのではなく、より短い期間に、素早い見直しを行うことである。
おわりに
委員会は、評価対象となる事業をその性格ごとに個別に分析、評価した。その結果、それぞれの事業ごとに改善点や検討すべき課題を指摘したが、全体として事業団は様々な制約の下で、これらの事業に誠実かつ上手く取り組んでいると評価できる。
今回の評価は先ず事業団の過去の実績を対象とし行ったが、評価の過程で委員会としては、明日の姿を考えることが重要ではないかという認識を次第に深めるようになった。
その第1の理由は、我が国の科学技術情報流通政策が先進諸国に比べるとまだ見劣りする段階にあることである。事業団は我が国の直面する課題の解決に寄与できる数少ない国の機関であり、大きな可能性を秘めている。しかし、現在のところその強みは十分認識されていない。
第2の理由は、インターネットに象徴される情報科学技術の急激な発展により科学技術情報流通のあり方が急激に変化していることである。こうした変化は、今回評価の対象としたほとんどの事業に大きな影響を及ぼすようになってきている。
第3の理由は、2001年に予定されている省庁再編等の行政改革の影響である。改革の実現後はワンストップショッピング的な機能の実現をはじめとして、真に省庁横断的な情報流通施策がとられなければならない。
現在起きつつある情報科学技術の大変革と国家レベルの仕組みの大きな変化を考えると、事業団の使命とその仕事に大きな変化が早晩起きることは明らかであり、今回明らかにした問題意識は暫くは古くならないかもしれないが、提言の多くは、直ぐ見直しが必要になるだろう。さらに、現在保有している人材、施設、予算によって全く新しく事業を考えるなら、今とは異なる目標の設定や進め方がありうるであろう。それ故に、事業団は事業運営と技術面で、外部の識者による事業の見直しを継続的に続ける体制を考えるべきである。

This page updated on June 15, 2000

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